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星灯りと明けない夜  作者: ひゐ
第十七話 世界のかたち ~カラスの物語~
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第十七話(05)


 * * *



 地下水路への入り口を前に、カラスはじいとその闇を見つめていた。そして手に持った小さな星油ランタンを見下ろす。


 やはり、小さすぎる。燃料が少なくとも、星油ランタンは長持ちするものだからそのあたりは問題ないが、この闇を照らす光として、あまりにも儚い。

 よく見れば、サイズだけでなく、通常の星油ランタンと違って作りが違うようだが、こうして火を入れてみても、やはり光は小さい。ランタン自体の大きさは小さくても、光は大きく――というようには、作られていないらしい。


「目的地までは、問題がなければそう時間はかからない」


 地下水路に行くのは、シバロニと自分を含め、十数人。半分近くの班員が、新人なのか怯えた表情で闇を見つめている。


 そしてカラスも、旅人だから平気だろうと言われたとはいえ、少し恐怖を感じずにはいられなかった。


 ところが、シバロニに続いて、立ち入り禁止を示すロープを跨いだのなら、恐怖は消える。


 暗い。

 ただそれだけ。


 街の外に広がる闇とは、全く別のものではある。外では、こんなに水の音は聞こえない。足音だって響かない。こうもひんやりとはしていないし――道なんてものはないのだ。


 なにより『暗闇』がいない。

 迷子になったとしても、きっと流れを辿れば地上に出られる。


 とはいえ、ランタンが小さいことには、やはり納得できないが。


「どうしてこんなに小さなランタンを使うの?」


 初めてカラスは尋ねてみた。大きければ、怯えている新入り達も、もう恐怖しなくて済むのではないだろうか。


「そこにいる生き物を怯えさせてしまうからだ」


 答えてくれたのは、熟練者であろう班員だった。


「場所によっては、ランタンの使用が禁止されている箇所もある」


 ――カラスは首を傾げる他なかった。


 暗闇の中に、生き物が?

 そんなものは『暗闇』くらいしか思いつかない。もっとも、あれは「生き物」と呼んでいいのかわからないが。


 その上、ランタンの使用が禁止だなんて。

 ……まともに歩けるとは思えない。


 思ったよりも危険なのではないか。いくら旅人が暗闇の中での旅に慣れているからといっても、光がなければ、何も見えない。

 新入りの班員達の怯える気持ちが、少しわかる気がした。


 いまはまだ、外の暗闇に比べて少しも怖くない。

 辺りを見回すと、そこに壁があるのが不思議でならない。普段であれば、何もないのに。それに水流の音も、不思議な心地だ。


 暗闇の中を、一行は先へ先へと進んでいく。班員の道具として渡され、履き替えた靴は慣れないが故に歩きにくかったが、滑りにくいのだろうと感じた――小さなランタンがうっすらと照らす床は、湿って見える。いつもの靴で歩いたのなら、滑ってしまうかもしれない。

 それ以外には、危険がなさそうに思えるが――。


 背後で悲鳴が上がったのは、その時。続いて、水の爆ぜる音。


「――水路に落ちました!」


 暗闇の中に、声が響く。そしてバシャバシャと、水中でもがく音も。


「助けて! いやだ!」


 暗い中、誰かが水路で暴れている――溺れてしまっている。


「泳げるんじゃないの!」


 思わずカラスは声を上げてしまった。


 溺れる班員は、流されながらも沈んでいく。と、二人が水路に飛び込んだ。

 ……まもなくして、飛び込んだ二人が、溺れた班員を引きずって水路から上がって来た。


「慌てすぎだよ! 落ちた時は慌てない、鉄則だよ!」

「でも……でも……」


 むせながらも、助けられた班員は答える。


「急に滑って落ちるんだよ! 無理だよ! 真っ暗だし!」


 ――その後もいくつか、トラブルはあった。地下へ向かう梯子を踏み外し、尻もちをつく者がいたり、角を曲がった時に、よそ見をしていた班員がはぐれてしまったり。


 カラスも一度、滑ってしまうことがあった。靴を履き替えても、やはり滑りやすい場所であることに変わりがないのだ。思わず近くの班員である、自分よりも年下に思える少女に掴まってしまったが、彼女はしっかりと立って支えてくれた。


 そして不可解なこともあった。


「――この道はだめだ、別の道を行く」


 ある程度進んだところで、先頭を行くあの熟練者がそう判断を下した。


「えっ? でも、ここを進めばもう目的地なんじゃないんですか?」


 地図を手にして声を上げたのは、先程カラスを助けてくれた少女だった。

 シバロニが首を横に振る。


「残念ながら遠回りだ……この先は危険だ」


 ――渋々とした者を連れて、一行は別の道を進む。

 一体何があるというのか。ちらり、カラスは行く予定だった闇を見つめる。


 ……奇妙な香りが、鼻をかすめた気がした。

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