第十四話(01)
そもそも、最初に星油ランタンを発明したのは誰だろうと、考える。
太陽と月と星がなくなって、その時に、どうやって星油ランタンが生まれたんだろう。真っ暗な中で、地面から湧いてきた、きっと得体の知れない水を燃料にしてみようなんて、どうやって思いついたんだろう。
ああ、わかった。そうか、真っ暗な中で、地面から得体の知れない液体が湧いてきたからこそ、燃料にしたんだ。
だって、かつて明るかったという世界は、急に真っ暗になったんだ。そうしたらみんな、多分、いろいろ燃やして灯りを保とうとする。僕もきっとそうする。旅の途中で灯りがなくなったら、多分いろいろ燃やすもの。特産物だって燃やすし、きっと本も燃やす。自分の手記も燃やすし、それが終わったら、食料の食べれないところを燃やすかも。
そんな感じで、いろいろ燃やして、きっと普通のオイルも尽きちゃったところで、星油があったから、試しにやってみたらいい感じに火がついた、ってところなのかな。
このあたりの歴史を知ってる人って、どこかにいるのかな。かの有名な文明都市なら何かわかるかも。
でも、僕の目的は、星油ランタン職人の技術を広めることだから、文明都市には行かない。うっかりたどり着いたら、おもしろいものが見られるかもしれないけど、僕にはできることが何もない。なにせ文明都市。僕の技術はきっと大したものじゃない。
【ある旅人の手記より】
* * *
妙に明るくて、暖かい街だとエピは思っていた。その理由に、デューゴと共に街道を歩いていた時に、気付いた。
「……この街、もしかして街灯の全部が星油ランタンになってる?」
宿屋を目指し、歩いている最中だった。ランタンやほかの灯りというのは、見ればそれが普通の燃料によるものか、星油によるものかわかるもので、先へ伸びた街道、そこに並ぶ街灯を見れば、どうも、どれもが星油ランタンの光に見えた。
「はあ? そんなもったいないことするかよ、星油の無駄遣いだ……大体、ランタンもそんなにあるとは思えないし……」
デューゴはそう笑って街灯を見上げたか、徐々に顔をしかめていった。
「……大通りだけなんじゃないか?」
彼はそう言って、大通りに交差する別の通りに視線を向ける。つられるようにしてエピも見たが、どうもその通りの街灯も、全て星油ランタンの光に見える。
細い道を見ても、そこにあるのは、星油の光だった。
「やっぱり、全部星油ランタンなんじゃないかな……」
つと、エピは自分のランタンを掲げた。年季の入ったランタンは、新品に比べればこそ、金属の部分の輝きが少ないかもしれない。しかしその光は、どのランタンとも変わらない。
デューゴは怪訝な顔をしていたが、やがて、片手に握った杖の先、そこに吊されていた自らのランタンを見上げた。そのランタンも、街灯と同じ輝きを、同じ程の眩しさで放っている。
「この街の『星油の泉』はでかいのか? それなら……贅沢に使ってる理由がわかるけど。でも……ランタン、多すぎだろ――」
「――わーっ!」
不意に、背後で甲高い声が響いた。思わずエピとデューゴは足を止めて振り返る。周囲にいた人々も、なんだなんだと顔を上げる。
大通りに、一人の少女が立っていた。少しぼさぼさとした髪は、癖毛なのか、寝癖なのか。
「わあ! わあ……わあ……!」
彼女は両手の握り拳を胸まであげて、何故かひどく興奮した様子だった。その大きく見開かれて輝く瞳はエピとデューゴに向いていた――だからエピとデューゴは、顔を見合わせて、一度振り返る。そこに変わったものはなく、ならば彼女が見ているのは、と考えたところで、
「――そのランタンっ! そのランタン、何ーっ? すごーいっ!」
ばっと、彼女は二人の前に走ってきた。見上げたのはデューゴのランタン。
「えっ? えっ? どうなってるの? 貸して貸して!」
彼女はデューゴのランタンの杖を握ったかと思えば、ぱっと奪ってしまった。そうして、少しランタンを揺らしてみて、やがて、地面に置いてみる。
「あの……君は……?」
ひどくわくわくした様子の彼女に、エピはそろそろと声をかける。と、次の瞬間、怒声が響いた。
「――お、おい! お前! 何だよ!」
あまりにも突然の出来事に、デューゴは少しの間、唖然としていた。けれどもようやく我に返って、少女を怒鳴りつける。
ところが、少女はふんふんとランタンを観察し続けていた。玩具に夢中になっている犬のようにも見えた。
「はーん! よく照らせるよう、杖に吊るしてるだけで、ランタンの方は普通の作りだ! いや、でも……芯は普通よりも、火がつきやすいようになってる? ガラスも……質がよさそう!」
そこまで観察して、彼女は「はい!」とデューゴに押しつけるように星油ランタンを返した。
彼女の瞳の輝きは、まだ落ち着かない。次にその瞳がとらえたのは、エピの星油ランタンだった。
「こっちのは? こっちのはどう? 古そうだねっ!」
「変な風にしないでね」
彼女の手が、エピのランタンを奪う。エピは特に抵抗しなかった。
デューゴが瞳を鋭くして、先にエピを睨んだ。
「いやお前、何で普通に渡してんだよ!」
「だって、悪い人じゃなさそうだし」
「……」
言葉を失って、デューゴは次に少女を睨む。
「それで、お前は何なんだよ!」
けれども、少女は先程と同じく、聞いていない様子だった。エピのランタンを顔の前に掲げれば、まじまじと観察する。
「基本的な作りだけど……いろいろ少し違う! すごいっ! デザインも多くのランタンと同じだけど、ちょっと丸っこい?」
「――仕事さぼって何してるんだ!」
不意に声が聞こえたかと思えば、大通りを、若い男が急いで歩いてきた。ランタンを観察していた少女が「げっ」と声を漏らす。そしてようやく。
「あはは! ごめんなさいね! えっと、旅の人ですよね、見たことないランタンだったし! いやぁ、勉強になりました……」
そこに、若い男が滑り込んだ。彼女の前に立つようにして、エピとデューゴに向かう。
「――ああ、すみません! うちの工房の者が……ランタンに変なこと、されてませんか?」
「えっと……大丈夫です、多分」
苛立っているデューゴが何か言おうとしたが、先に口を開いたのはエピだった。
「なんか……ランタンに興味があったみたいですね」
そんな風にエピが言うものだから、デューゴは呆れの溜息を一つ吐いて、腕を組んだ。
「――そいつ、勝手に奪い取ってきたんだぞ! いったい何なんだよ!」
「申し訳ない! 旅の方、ですよね? こいつ、外から来たランタンが珍しくて、我慢できなかったんだと思います……フリアって言うんですけど、全然ランタン作りができないくせに、やる気と好奇心だけはある奴で……」
男の手が、フリアと呼ばれた少女の後頭部に伸びた。何をするのかと思いきや、男がぐっと力を入れて、フリアに無理矢理頭を下げさせた。「ふにゃっ!」とフリアの気の抜けた声が漏れる。
「本当にすみませんでした! 人のランタンを勝手にさわって……」
フリアだけでなく、男も頭を下げていた。そして何も言わないままのフリアに、小声で。
「……フリア! ほらお前も!」
「はい! すみませんでした!」
――若い男は、フリアの腕を引っ張り、その場から去っていった。
エピとデューゴは、まるで騒がしい夢を見ていたかのように、顔を見回せた。それから、互いのランタンを見てみるが、特に変わったところは何もない――若い男は、フリアがランタンを見ていたのは「外から来たランタンが珍しいから」と言っていたが、だから観察していたらしい。
「……いや結局なんだったんだよ!」
もう一度我に返って、デューゴが声を響かせる。エピは少し考えて、
「ランタン作りがどうこうって言ってたよね……もしかして、職人さんなんじゃないかな?」




