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星灯りと明けない夜  作者: ひゐ
第一話 手記と骨 ~エピの物語~
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第一話(01)

 昔のことだ。エピという名の少年と、旅をしたことがある。


 当時、私は十七歳。彼は十五歳だったと思う。だが旅の仕方について、彼は間違いなくベテランだったし、勇気も冷静さも、彼の方が勝っていただろう。そして時には必要になる、厳しさだって。彼は不思議な人間であったけれども、何事からも目を逸らさなかった。しかしはっきり言って、私はいまでも、彼が何を見ていたのか、わからない。今でもあの目を憶えている。あの目は常に暗闇をまっすぐ見ていた。しかし暗闇の中にある暗闇を見ているわけでもなく、かといって光を見ているわけではなかった。夢を見ているにしてはしっかりした目だったし、けれどもそこにある確かな何かを見ていたようにも思えない。


 ただ一つ言えるのは、彼は常に前を見ていたのだと思う。


【デューゴの手記より】



 * * *



 リュックの中には、旅に必要なもの以外に、前の街で手に入れた特産品が詰まっている。次の街で物々交換をし、また旅に必要なものを入手したり、そのまた次の街での物々交換の材料として、新たな特産品を得たりするために。


 本も何冊か詰まっている。前の街で書かれたものはもちろん、交換の果てにいま自分の持ち物となったものや、かつての旅人の手記など。書物は交換材料の中でも、かなり高価なものだ。人々はほかの街の文化や、追体験を求める。もしも何かあったとき、本数冊を差し出せば、大体のことは解決できる。だから徒歩の旅であっても、書物は持って行くべきものなのだ。それ相応の重さはあるのは、仕方がないが。


 けれども少年エピは、長年の旅でその重さにはもう慣れてしまっていた。重くても、前に進める。それに、軽いと逆に不安になる。


 今日も重いリュックを背負い、片手には星油(せいゆ)ランタンを握り、エピは歩き続ける。やや目深に被った帽子の下、ランタンに照らされた緑色の瞳は、ただ先を見つめていた。ランタンの灯りの色は、白色――かつて空にあった「太陽」の色。つまり、いまは昼間だ。その光を手に歩く。


 進む先は暗闇。何も見えない。右を見ても左を見ても暗闇で、後ろを見ても、暗くて何も見えない――前の街を出て、もう数日も経ってしまったし、次の街もまだまだ先の予定だ。辺りは何も見えない。暗闇だけ。


 けれども星油ランタンが辺りを照らしてくれるため、歩くことができる。それでも、見える地面は荒れた大地で何もないのだけれども。だが灯りがあるからこそ、歩けることにかわりはない。あとは、道、方角を間違えず、信じて進むだけ。間違えてしまえば、最悪の場合、死ぬまで暗闇の中をさまよい歩くことになる。


 真っ暗闇の中の旅は、非常に危険が伴うものだった。それでもエピは、歩き続ける。この先に、街があると信じて。


 ふと空を見上げた。しかしやはりそこにも何もなく、黒色だけが満ちている。かつて、太陽と月、そして星があったという空――全ては大昔になくなった。太陽と月が衝突し、粉々に砕け散り、それを見ていた星も、悲しみのあまり全て地上に落ちてしまったのだという。そうして世界は暗闇に満ちた。


 こうして旅を続けていられることが、奇跡だとエピは感じていた。旅をする理由は人それぞれだ、エピは違うものの、止むを得ずこの危険な旅を強いられる人々だっている。一体何人が、無事光に溢れる街、あるいは目的の場所にたどり着けたのだろうか。そして一体何人が、この暗闇の中、死んでいったのだろうか。


 そんなことを考えたためだろうか。目の前に死体が現れたのは。

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