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リベニカの花瓶  作者: イソジン
4/5

わかっている

七、彼は覆される


八、彼女は終わらせる



私には自由がなかった。いや、一つだけたったひとつだけ残された自由がある。それは死だ。死は皆平等に与えられ、簡単に迎えることが出来る。舌を噛み切る、それだけだ。

しかし、私が死ぬ事で何が変わるのだろう。父や母は救われるのか?

私の心は救われるのか。否。救われない。一方的な悪意には悪意でしか対抗はできない。

そして私は決めた。復讐をする。

同じように全てを奪うのだ。あの男から、リベニカから

彼は私を気に入っていた。私の屋敷を襲ったのも私が欲しいから、そういった身勝手からだった。

計画を立てる。ただ1人殺すだけでは面白くない。できるだけ人が集まった時、オークションの時がいいだろう。決行日は決まった。

次は方法だ。

何をする。

毒を使おう。あの腐った貴族共を根こそぎ殺してやるのだ

それだけか?

足りない

オークションにかけられている子供たちも殺してあげよう。

残虐?否、救済だ。救いだ。彼らがこれから進む未来に光などない。この手で殺してあげることだけが優しさだ

「…ひひ」

久しぶりに聞いた自分の笑い声は、とても綺麗なものではなかった。

頭の中にいる別の誰かが、私の背中を押す

殺れ。リベニカを。

お前の世界を変えたあいつを、助けないあいつらを、救えない子供たちを…



振る舞われるワインに毒を盛る。あいつのお気に入りだからかある程度私は自分に屋敷の中を動き回ることが出来た。この毒は売れ残った奴隷を処分するためのものだ。

ただ死ねばいいはずなのに彼の趣向からか苦しんで死ぬ、そういう風にできているらしい。1度夜の営みの際、目の前で毒を注入された奴隷の子供を見ながらした時がある。

とても理解できるような所業ではなかった。それをワインに混ぜた。

足のベルトにナイフを忍ばせ会場に向かう。


綺麗な洋服を来たリベニカが私を見て手招きをする。

軽く一礼をした後に横まで行く。

「遅かったね、悪い子だ」

「…」

「今日は上玉が揃ってるんだ。気に入ったのがいたら残して置いてやってもいいぞ。またあれをやろう。そそられるだろ?」

虫唾が走った。


屋敷の倉庫からワインが運ばれる。毒入りのワインだ。

貴族が持ったグラスに注がれる。


「皆さん、今日もお集まりいただきありがとうございます。今日は一段と上玉が揃っています。ぜひお好きなものを買っていってください。それでは乾杯」

チリーンとグラスがなる。


ほとんどの客が1杯目は飲み干す、いつもの事だ。それから数秒後喉に手をあてキョロキョロする。

バランスを崩し倒れ込みバタバタする。

泡を吹き、バタバタしていた足も動かなくなり瞬きもしない。

立派な肉の出来上がりだ。


「…何が、何が起きてるんだ」

リベニカは酷く動揺している。そりゃそうだ。一瞬にして一室の中で20人は倒れただろう、彼らの付き人だけがアワアワとしていていた。

私はその肉を避けることなく踏みつけ壇上に向かう

「どこに行くんだ、どういうことだ」

壇上に上がると目が死んでいる子供たちにナイフで救いを与える。苦しまないよう一瞬で死ねるよう最新の注意を払った。

1人に3秒もかかっていないだろう。彼らは抵抗をしなかった。

元から救いなど求めてない。最初から諦めているのだ。

「…ノエルどういうことなんだ、これ全てお前がやったのか」

「ええ、そうよ。綺麗でしょ。口から血を吐いて、白い顔から赤い血が出てる。…ふふ、花瓶みたいね」

「…はは…、驚いた。あの優しいお嬢ちゃんがこんなになるなんて、しかしそれでこそ私の愛した女。より好きになった。なあもう少し楽しまないか」

驚いてはいるようだがなんだか楽しそうにしているリベニカ

「ええ、もうひとつ楽しみがあるの」

「なんだい、なんでも与えようじゃないか」

「わかった、では私の父と母を返しなさい」

「それはもう死んだじゃないか?欲しいものがあるだろ?人を殺せる道具とか、ああ、銃をやろう。簡単だしいいものだぞ??」

手を広げ笑いながらそう言う

「父と母を返しなさい」

「だからそれは無理だって」

「じゃあ死になさい。」

肉の山を踏みつけ、リベニカの胸に飛び込む。ナイフは心臓の辺りに突き刺さり、刺さったところからは血が溢れ出る

「やってやった、殺してやった。早く死ねリベニカ。早く」

そう吐き捨てる。

私は笑っていた。しかし、もう1人の笑い声が聞こえる。

リベニカだった。

「…はは、やっと…やっと名前を呼んでくれた…。ありがとう…ノエル。好きだよ。」

「何を言って…」

「やっと自分から胸に飛び込んでくれた…ありがとう…やっとわかってくれたんだね」

「私はあんたなんか嫌いよ」

「はは…は」

リベニカは笑いながら息を引き取った。


ふと我に帰る。貴族の付き人はとっくに逃げ出していた。

会場にはノエル1人だった。

たくさんの人間だったもの。

あれだけ憎かったリベニカの死体

喜びからか涙が出る。


喜びではなかった。喪失感、虚無感。彼女には何も残っていなかった。

罪のない子供たちの亡骸が目に止まる。私がしたことなのかと手が震える。

脳裏ではよくやったともう1人の自分が賞賛を送ってくる。

その声はリベニカのようにも聞こえた。


多くの人が血を流したから床には血溜まりができていた。

外から差し込む光が減り、部屋を照らすライトが血溜まりに反射させ自分の顔を写す。



ノエルの目はあの子供たち、そしてリベニカと同じ目をしていた


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