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リベニカの花瓶  作者: イソジン
3/5

分からない

五、彼は帰らない


六、彼女は帰る


あの日全てが変わった。優しさは無駄だと知った。全ての善意は踏みにじられ、一方的な悪意に沈んでいく。

私は人形になった。感情などいらない。命じられるまま、言われたことを処理してくだけの日々。

食事も生活も、そして夜も、何から何まで全て相手の言うがままである。

最初の頃こそ抵抗や絶望したものの、今や何も感じない。


あの男、この町と同じリベニカと呼ばれていた。

奴隷商で莫大な資産を築き、裏世界でのドンと呼ばれているらしい。

「やあ、ノエル。」

「…」

「そんなに身構えなくていいじゃないか、もうなんでも知ってる仲だろ」

男の薄汚い手が私の腕に触れる

「…っ」

何も感じない。それはそうなのだが、やはり心の深いところで男への不快感はどうしても残るようだ。

何度も触れ合ったのにこの不快感は一向になくなりなどしなかった



私の家のものが皆殺しにされた次の日、男に連れられ家の近くに行った。

布をかけられたみんなが次々と運び出され外に並べられていた。布の隙間からちらっと見える腕や髪で誰だかわかる。

この前子供が生まれたと喜んでいたエナ、娘の結婚式に行くと張り切っていたモイーズ、全員が見知った人だった。

胃の底から何かが込み上げてくる

最後に父と母が運ばれてくる。2人ともだらんと腕をたらし、父は無惨な切り傷、母は殴られた痕が見えた。

「…うっ」

体から力が抜け、膝から崩れ落ちそうになる

「行けませんよお嬢さん」

「…なんでわざわざこんなもの見せに…」

「自分の家族の最後の姿ぐらい見たいでしょ?それに見物はこれからだ」

「これ以上何を見ろって言うの」

鐘がなる。配給の時間を告げる鐘だ。しかし鳴らしていたものはみんな死んだはず

鐘の近くを見ると、昨日皆を惨殺した中にいた男が鐘を鳴らしている

音を聞いたのか色々なところから人達が集まってくる。しかしみんなにあげる食事はない。

すると1人、また1人と屋敷の中に入っていくではないか、屋敷の前に置かれた皆の死体を、何も無いかのように跨いだり踏んだりしながら家の中に入っていく。

最初に入った男は母の宝石を持っている。後に入っていた子供は、厨房の冷蔵庫からフルーツを持ってきていた。

唖然として声も出ない私に男は言う

「誰もお前らなんかに感謝していない。そこに食べれるものがあったから言っただけだ。今あそこに転がってる死体に手を合わせることもしない。死体なんてこの辺じゃ珍しくないからだ。」

こんなになるために私たちは頑張ってきたのか、、、

全てのことが無駄だと思い知られたのだ。

泥だらけになる父や母の死体がなにか別のものに見えた。




リベニカの屋敷では1週間に1度、奴隷のオークションが開催されていた。人間をステージに並べ、招かれた貴族が動物でも買うように値段をつけるのだ。貴族の中には見たことがあるものもいたが、私には気づかない。

並べられる人は、子供から自分と同じぐらいの歳までで、まれにもう少し歳がいった人もいるが、値段は街に売っている豚肉より安い。

貴族はワインを飲みながら、人につけられている数字と値段を付き人に提示している。

ここで買われた子は、雑用や貴族の好き者にされる。いわば使い捨てのペットみたいなものだ。私が貴族だった時、同級生が奴隷を買ったと嬉しそうに話していたのを思い出した。

私も綺麗な服は着せられているものの、奴隷のようなものだ。同情などしている場合ではないだろう。しかし、同情なしには見ることは出来なかった。きっと勝手に産み落とされ、散々蔑まれた挙句、実の親に売られるのだから。

彼らの目はどこかで見た目と同じだった。どこまでも暗く見えているのに、何も見ようとしていない。そんな目だ。


「ノエル。お前はああならなくて良かったな。」

同じ目の男はそういった







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― 新着の感想 ―
[良い点] 第3部分は人間の裏の顔、闇の部分をしっかり感じました。 ですが、どこか優しさも感じる内容でした。 長期的に感じる絶望から逃げられない現実の地獄を見る小説も良いですね。 何よりも人間が一…
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