表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冬の童話祭

トムと流れ星ファクトリー(よみがなつき)

ふゆよる暗闇くらやみなかにきらりとひかるお月様つきさまが3つあります

1つは夜空よぞら堂々(どうどう)すわんで、屋根やね木々(きぎ)のてっぺんをらすみなさんご存知ぞんじのあのお月様つきさま

のこりの2つはとぼとぼとくらみちある黒猫くろねこのトムのまんまるのです


「はぁ〜、これからどうしよう」


黒猫くろねこのトムはためいきいて独り言(ひとりごと)いました

トムは独り言(ひとりごと)おおねこなのです


「ずっとめていたおかねも、大事だいじべていたさかな燻製くんせいもなくなっちゃったし」


燻製くんせい簡単かんたんうと、けむり調理ちょうりをしてながあいだべれるようにしてあるもののこと。じつ例外れいがいもある)


トムはまた一つおおきなためいき

それからあたまうえひろがるおおきなそら見上みあげます

よる暗闇くらやみなかひかるトムの2つのおおきなにうつるのはどこまでもつづくろとそこにぽっかりいたあなのようなお月様つきさまだけ

ただでさえ、くら気持きもちのトムはもっとくら気持きもちになりました


じつはこの黒猫くろねこのトムはすこまえ仕事しごとをなくしたばかりなのです

もともとトムはかつおぶしの工場こうじょうでかつおぶしをけずる仕事しごとをしていました

トムのけずったかつおぶしはとってもうすくて、くらげのようにむこうがわけてえるのです


(もし、くらげをたことがないひとは図鑑ずかん水族館すいぞくかんることをおすすめします

それは、くらげはとてもきれいだけど一緒いっしょにいるのはとてもあぶないものだから)


だから、トムがけずったかつおぶしは一級品いっきゅうひん

あたたかい料理りょうりにふりかけると、ひらひらふわふわとおどりだすのでトムのかつおぶしは魔法まほうのかつおぶしだとわれています

けれど、あるどこもかしこもこおりみたいにかちこちでおおきくてゾウみたいにおもそうなからだをした新入しんいりがはいってきました


はなしかけてもうんともすんともいません


かわりにあかあおそれからたくさんのいろのボタンを特別とくべつ順番じゅんばんすと「がしゃこーん」としてそのおもからだをとてもはやうごかしはじめるのです

新入しんいりは「かつおぶしマシーン」と名前なまえでした

新入しんいりは新入しんいりだけどなんでもできました

それに、お給料きゅうりょう電気でんき燃料ねんりょうだけでいいのです

トムは毎日まいにちパンが5ほんえるだけのおかね工場こうじょうのこってしまったさかなでつくった燻製くんせい2ひき給料きゅうりょうとしてもらっていました


給料きゅうりょうはたらいたら、かわりにもらえるもの。じつ例外れいがいもある)


新入しんいりはトムよりもすくない給料きゅうりょうで、トムのできないかつお(かつおぶしになるさかな)の下準備したじゅんび出来上できあがったたかつおぶしをふくろめる『梱包こんぽう』という作業さぎょうまで一通ひととおりできました


それで、かつおぶし工場こうじょうの1ばん(えら)ひとがトムのかわりに新入しんいりにはたらいてもらうことにしたのです


だから、トムはいま仕事しごとがないのです

仕事しごとがないとうことは、ごはんべていくだけのおかねがもらえないということ

それに、ごはん以外いがいにもきていくにはさまざまなおかねがかかります

黒猫くろねこトムがきていくのはとても大変たいへんなのです


だから、トムがさむなかくら夜道よみちあるいていてかなしい気持きもちになっているのは当然とうぜんのことなのです


当然とうぜんのことだけど、「当然とうぜんだから仕方しかたがない」とはってられないことなのです


黒猫くろねこトムはまんまる満月まんげつ見上みあげながらとぼとぼあるいてまた一つためいき


でも、みなさん

じつはたいせつなことをみなさんにわなければいけません

それはあるいているときうえいていたらよくないということ

あるいてるときはよそをしないで自分じぶん方向ほうこうをまっすぐてないとあぶないのです


トムは自分じぶんある方向ほうこうてなかったので、まえにあった電柱でんちゅうづきませんでした

ゆったりと地面じめん見下みおろしていたお月様つきさまもびっくりするようなおと


ごっつーーーん!!!


とトムのあたま電柱でんちゅうのかたいおなかあいだまれました


「いたたたた、こんなところに電柱でんちゅうがあるなんて!」


トムはおどろきとあたまのずきずきとしたいたみでおもわずそんなことをってしまいました

でも、よくよくかんがえればみち電柱でんちゅうがあるのはたりまえのことなんです


トムがぶつけたあたまを「いたいいたい」となでていると、そこへひらひらと一枚いちまいのチラシがちてきました


「ん?なんだろうこれ

流れ星(ながれぼし)ファクトリー??」


どうやら、電柱でんちゅうにはっておいたチラシがトムがぶつかったいきおいでちてしまったようです

トムはチラシをひろって、三日月みかづきのようにほそめてチラシになにがいてあるのかをしげしげとみました

どうやら、その流れ星(ながれぼし)ファクトリーではたらひとさがしているというようなことがいてあります

『ファクトリー』とは『工場こうじょう』を英語えいごったことばです


トムはなんだかうれしくなりました


仕事しごとさがしているとき仕事しごとをしませんか?というチラシをつけたからです

それから、トムはなんだか不安ふあんになりました

流れ星(ながれぼし)ファクトリーなんていたこともないからです

いたこともないから、どんなことをすればいいのか、黒猫くろねこはたらかせてもらえるのかからなくて不安ふあんなのです


だから、トムはうれしくてにやにやしたり、心配しんぱいになってくよくよしたりをくりかえしていました

それから、覚悟かくごめたようにトムは両足りょうあしっていたチラシをかかげておおきなこえいました


「ええい、まよっていたってしかたがない!

ダメだったらそのときはそのときだ!!」


黒猫くろねこトムは


すたらかすたらか


さきほどよりも元気げんきみちあるいてきました


 

             X


よるあいだずっとあるきつづけてトムはあさになってようやくチラシにいてあった工場こうじょうのある野原のはら辿たどきました


ちいさなトムのまえにあらわれたのはとってもおおきなテント!


テントとってもキャンプで使つかうようなテントじゃなくてしっかりとしたいえのようなかたちをしたテント

あかしろあおいろ順番じゅんばんられているテントの1ばんてっぺん、したちいさな屋根やねのようなところからはこれまたおおきなテントにくらべたらとてもちいさいはたかぜられてゆらゆらゆら


「なんだかどこかでたことがあるがする」


黒猫くろねのトムはぽつりとました

ところで、テントには入り口(いりぐち)見当みあたりません

そこでトムはテントのまわりをぐるりとまわることにしました


とてとて、とてとて、とてとて


いつまでたっても入り口(いりぐち)つかりません

それにこのテント、本当ほんとうにとってもおおきいみたい

ずっとあかあおしろがつづくとだってまわってきそう


とてとて、ぐるぐる、とてとて、ぐるぐる


黒猫くろねこトムはふらふらしてしまってもうあるけない!とおもったとき、ようやく入り口(いりぐち)らしきものがあらわれました


いいえ、どうてもそれは入り口(いりぐち)なのです

だって、みなさんのいえもあるような、四角しかくくて取っ手(とって)がついているしっかりとしたドアがテントの途中とちゅう突然とつぜんあったのです


「う〜ん、テントにわないなぁ」


トムはそうおもいましたが、あるきっぱなしでつかれていたのもあってにしないことしました

それから、


とんとんとん


と、でできたドアをノックしました


するとーー


「やあやあ!いらっしゃい!!!!

流れ星(ながれぼし)ファクトリーにようこそ!!!」


ドアがおおきくひらいてなかから元気げんき陽気ようきこえ

それから、うれしそうににこにことわらっているおおきなおとこひと

おとこひといろとりどりの派手はでふくていてあたまにはポンポンがついた三角帽子さんかくぼうし

そしてなによりかおのまんなかにまるくておおきなあかはな


「あ!ピエロっ!!」


黒猫くろねこトムがいました


「あ!くろねこっ!!」


ピエロのおじさんがいました

トムはおじさんがおどろいたのをてどきどきしました

トムにはなぜかからないけど、たまーに黒猫くろねこ苦手にがてひとがいるのです

でも、トムがおどおどしているのにづくとピエロのおじさんはメイク(メイク…お化粧けしょうのこと。ピエロのおじさんはかおがまっしろで左目ひだりめまわりを水色みずいろほしかたちに、右目みぎめまわりをピンクのほしかたちっていました)をしたかおをにっこりとさせていました


「どうしたんだい?黒猫くろねこくん

おさかなをもらいにたのかな?」


ピエロのおじさんがとてもやさしくそううので、黒猫くろねこトムもほっとしてこういました


「いいえ、ピエロのおじさん

さかなもとてもしいのだけど、ぼくは仕事しごとしいんです

このチラシをました

はじめまして、僕は黒猫くろねこトムです」


ピエロのおじさんはまたまたびっくり!

仕事しごとをしてくれるひとさがしてはいたけど、まさか黒猫くろねこるとはおもわなかったのです

おじさんがおどろいているのをて、トムはまたまたおどおどしました


「あの…黒猫くろねこはダメでしょうか」


トムは心配しんぱいそうなかおでおじさんを見上みあげました

トムのくろいしっぽがくろ両足りょうあしあいだにはいってゆらゆらと心配しんぱいそうにれているのをてピエロのおじさんはまたやさしくました


「そんなことないよ

はじめまして!黒猫くろねこトムくん

ぼくはこの流れ星(ながれぼし)ファクトリーの社長しゃちょうだよ

でも、ぼくのことは工場長こうじょうちょうぶように

なぜなら、工場長こうじょうちょうほう社長しゃちょうってばれるよりながいしかっこいいからね」


トムは「へんなの」とおもいましたが、くちにはしませんでした

黒猫くろねこトムは独り言(ひとりごと)うのですが、2人言(ふたりごと)3人言(さんにんごと)はあんまりわないのです

トムはかつおぶし職人しょくにんだったから

黒猫くろねこトムにとって職人しょくにんはそういうものらしいのです


それからピエロの工場長こうじょうちょうはトムのくろ前足まえあしとあくしゅをするとテントのなかれてってくれました

トムはやっとテントがなににているのかかりました

そうです

テントとピエロといえば、サーカス!!

黒猫くろねこトムが子猫こねこころ母猫ははねこれてってもらったサーカスのテントにそっくり!!

でも、なかはいってみてトムはもっとびっくり!!

なぜなら、そとからたテントからは想像そうぞうもできないような立派りっぱ部屋へやひろがっていたからです

ドアをけたさきにはしっかりとしたかたかべがトムの右側みぎがわ左側ひだりがわにあってくつれるシューズボックスや傘立かさだて、それにすこすすむとちょっとした段差だんさがあって、しろとピンクのマットがいてあります

たかさのひくたなには黄色きいろはなかざられた花瓶かびんになにがいてあるのかからないような絵画かいがまであります


「ここは玄関げんかんだよ」


ピエロの工場長こうじょうちょういました

それから、おどろくトムをれてなが廊下ろうかすすみます

廊下ろうかにはみぎひだりにもたくさんのとびらがあります

でも、そのどれにもへん名前なまえのドアプレートがかっています


(ドアプレート…なんの部屋へやかりやすくするためにドアについている名札なふだのこと。じつ例外れいがいもある…かも?)


太陽たいようしずまない部屋へや』『うみそこから3メートルした部屋へや

……とっておきは『まくらしたにいるこびとの部屋へや』!

なんのことだかトムにはさっぱり

トムはになってになってうずうずしていましたが、ピエロの工場長こうじょうちょうはずんずんさきすすみます

すすんでいるはずなのに、ふりかえったら最初さいしょはいってきた玄関げんかんもうえません

「そんなにすすんだとはおもえなかったのにな」トムはふしぎにおもいましたが、なおさら工場長こうじょうちょうはなれてしまったら迷子まいごになりそうだとあわててあといました


「さあ、ここだよ」


ようやく工場長こうじょうちょうまったのはあかあおしろとびらのまえ

テントとおな模様もようです

それに、このとびら天井てんじょうからゆかまであってとってもおおきいのです 

それとおなじぐらいおおきくペンキで121といてあります

トムは「こんなにおおきかったらけるのも大変たいへんだろうな」とおもいました

すると、まるでトムがかんがえていることがかっているかのように工場長こうじょうちょうはすっととびら左下ひだりしたほう指差ゆびさしました


「トムくんのおおきさならナンバー36でちょうどいいんじゃないかな?」


工場長こうじょうちょう指差ゆびさしたほうると、なんとおおきなとびらなかにはそれよりもちいさなとびらがあって、そこにはこれまたペンキで36といてあります

それに、よくよくると、36のとびらなかには35のとびらが、35のとびらなかにはおなじように34、33……28……24、あぁ、これよりちいさいとびらちいさすぎてトムにはえません


「なんでとびらなかとびらがあるんですか?」


黒猫くろねこトムはおもわずくちしてしまいました

だってこんなふしぎなとびらまれてはじめてたんですもの

けれど、工場長こうじょうちょうは当たりまえのようなかおをしてました


「だって従業員じゅうぎょういんかずだけおおきさのちがいがあるだろう?」

 

従業員じゅうぎょういんとははたらひとのことです)


それから工場長こうじょうちょうは85とがれたとびらけてさきってしまいました

トムは「そうなんだ」とはじめてのことにおどろきながら36のとびらけてなかはいりました



            X


黒猫くろねこトムはおどろきました

おおきなテントのなかはいって、それからなが廊下ろうかすすんでまたとびらなかはいったのです

廊下ろうかはトムたちはいったとびらからもまだまだつづいていて、玄関げんかん廊下ろうか最後さいごもどちらもえませんでした

だから、おかしいのです


「さぁ、ようこそ

ここがきみにはたらいてもらいたい部署ぶしょだよ」


部署ぶしょものつくったり、やりたいとおもったことをやるには、たくさんやらなければいけないポイントがあるのでみんなで仕事しごと分担ぶんたんする、ける会社かいしゃ仕組しくみがあります


トムのはたらいていたかつおぶし工場こうじょうたとえると、かつおの下準備したじゅんびをする担当たんとうかかりやトムがやっていたかつおぶしをけずる担当たんとうかかりがいて、それぞれを部署ぶしょいます

でも、じつ人間にんげん世界せかいのほとんどはひとりでは出来できないことだらけなので、わたしたちのらしにも部署ぶしょがあるとってもまちがいではないはずなのです)


『いつのまにそとていたんだろう…』


工場長こうじょうちょう両手りょうてひろげたさきには、おおきなおおきなみずたまりがありました

いいえ、みずたまりとっていいのかもかりません

なぜならそれはみずたまりとちがってふちいからです

ずっとずっと水面すいめんつづいているのです

しかも、この水面すいめん地面じめんみたいにつことができるので、おぼれてしまうこともありません

トムははじめてひろひろみず景色けしきにまんまるのさらにまんまるにしました

トムはおもいました


『もしかして、これがうみ?』


たしかにそこはまるでうみのようでした

足下あしもとみず青色あおいろおなじようにあたまうえには青色あおいろそらひろがっていてほかにはなにえません

それに、みずがたくさんあります

どんなにあめろうと、ここまでおおきなみずたまりは出来できないでしょう


けれど、黒猫くろねこトムはうみたこともうみったこともないので、うみうえあるくことは出来できないこともりませんでした

だから、やっぱりここはうみではないのです

工場長こうじょうちょういました


「いいや、ここはうみではないよ

だってさかながいないだろう」


たしかに足下あしもとみずなかにはさかな海藻かいそうもごつごつしたいわもありません

トムはきました


さかながいないとうみじゃないんですか?」


工場長こうじょうちょういました


「もちろん

たくさんのものんでいるのがうみなんだよ」


トムは「へぇ〜そうなんだ」とおもいました

黒猫くろねこトムはまたあたらしいことをれてなんだかうれしくなりました

ちょっと自分じぶんがかしこくなれたがします


「ぼくはここでなにをすればいいんですか?」


トムはきました

工場長こうじょうちょうはトムにかれると、右手みぎてにつけていた腕時計うでどけいをちらり

(「腕時計うでどけいをしたピエロなんてはじめて!」とトムはおもいました)


「うん、あとすこしで休憩時間きゅうけいじかんわるね」


休憩きゅうけい…やすむこと)


そして、どこからかした虫取むしとあみのようなものをトムにわたします


「?」


トムはどうすればいいんだろうとおもいましたが、工場長こうじょうちょうがじぃーっと腕時計うでどけいているのでむぐっとくちじました

工場長こうじょうちょういます


「あぁ、あとすこしだ

7…6…5…4…3…2…1っ!!」


「うわあっ!!」


工場長こうじょうちょうが「1」とった途端とたん景色けしきはがらりとわりました

あかるい空色そらいろくらに、それから足下あしもとおなじようないろになりました


よるです


あかるい昼間ひるま突然とつぜんよるになったのです


トムはまたまたびっくり

だって、夕方ゆうがたもないのにきゅうよるになるなんてそんなことはじめてです

トムがおどろいていると、工場長こうじょうちょうさけびます


たぞっ!」


「えっ!」


ひかりです


あかるいひかり突然とつぜん、すごいはやさでトムと工場長こうじょうちょうのところへんできます


「それっ!トムくん、つかまえるんだっ!!」


「えっ!はいっ!!」


トムはあわててわたされた虫取むしとあみんできたひかりたまあみれます


「おおっ!じょうずじょうず!!」


工場長こうじょうちょうたたいてよろこびました

そうしているあいだにもまたひかりたまんできます


「あぁ、またた!

それも、そうそうっ!!うまいうまい!

あ、そっちにいったぞ!、よしっ!あ、こっちにも!!」


ひかりたまはトムのまわりにいっぱいやってきます

みぎにーーひだりにーーうしろにーーななめまえにーー


トムは一生懸命いっしょうけんめいひかりたまあつめます

工場長こうじょうちょう一緒いっしょになってはしります

あたまうえ帽子ぼうしちないようにさえながら、あっちへこっちへそっちへとととんっ


トムも工場長こうじょうちょうあせだくになるころにはすっかり、あみなかひかいしころのようなものでいっぱいです


ピエロの工場長こうじょちょうあみなかをのぞくと満足まんぞくそうににんまり


「これはすごい

はじめてでこんなに仕事しごとができるなんて

トムくん、きみはエリートだね」


「えりーと?」


トムはエリートがなんなのかからないのではぁはぁいながらくびをかしげました

だって、トムはずっとかつおぶし工場こうじょうはたらいていて、そこではエリートなんて言葉ことばいたことがなかったから


「エリートというのは、すごいもののことだよ

トムくんはエリート黒猫くろねこだ」


そうわれて黒猫くろねこトムもにんまり

だってそんなふうにほめられたのははじめてです


「ぼく、そんなふうってもらえたのはじめてです」


きみはすごいぞ、トムくん!

こんなにちかくにちてくることはなかなかいんだ

きっと、きみのからだくろできみのだけがぴかぴかひかっていたから、ずかしがり星達ほしたち仲間なかまだとおもえたんだろうな」


ほし

これが、あのそらひかっているほしなんですか?」


トムはあらためてあみなかいしころをました

すると、なんてことでしょう!

さきほどまでまぶしいばかりにひかっていたいしころたちくろ

それに、すすがついたようによごれています


すす……ものがえたときくろほこりのようなもの。じつ例外れいがいもある)


「うわぁっ!大変たいへんだっ!!」


トムはあわてて工場長こうじょうちょうます

しかし、工場長こうじょうちょうくろくなったほしてもなんてことなさそう

それよりもちがうことをかんがえているみたいです


「うーん、こんなに仕事しごとができるならいずれわたしあといで工場長こうじょうちょうになってもらうのもいいかもな…そうだな、はたらひとしいとチラシをだして、たまたまトムくんがきたのも幸運こううんのはじまりなのかもしれない

うん、それなら、そうだな、そうだとも、それに、そうだから、うーーん…そうした方がいいな!!」


ピエロの工場長こうじょうちょう手袋てぶくろをはめたをぱんっとたたいてうれしそうにうんうんとうなづきました


黒猫くろねこトムくん!」


「あっ!はいっ!!」


突然とつぜんこえけられたのでトムはあわてて返事へんじ

背中せなかがぴんっとびます


「きみはこの工場こうじょうのことをまだよくかっていないだろうからこれから工場こうじょう仕事しごとをひととおり案内あんないしよう

そうすれば、ぐっとやるもでるだろうからね」


工場長こうじょうちょうがトムの前足まえあしをぎゅっとつかんでにっこりとわらいます

トムもこのふしぎな工場こうじょうのことがになっていたので、うれしいとおもいましたが、虫取むしとあみなか星達ほしたちのことがになります


「あ、ありがとうございます

でも、ぼくは流れ星(ながれぼし)ファクトリーがなにをする工場こうじょうなのか、なにをつく工場こうじょうなのかもわからないんです

それに、これはあんなにきれいだったのにこんなくろくてよごれたみたいになってしまって大丈夫だいじょうぶなんでしょうか?」


流れ星(ながれぼし)ファクトリーはそのまんまさ

流れ星(ながれぼし)をつくる工場こうじょうだよ」


工場長こうじょうちょうはトムの前足まえあしをつかんだままもうあるはじめています


「さぁ、大丈夫だいじょうぶだよ

れていってあげよう」



           X


黒猫くろねこトムがピエロの工場長こうじょうちょう案内あんないされたさきにはながなが階段かいだんがありました


「さぁさぁ、のぼってのぼって♪」


工場長こうじょうちょうはるんたるんたと階段かいだんをのぼっていきます

とてもたのしそう


でも、黒猫くろねこトムは工場長こうじょうちょうよりもからだちいさいのでなが階段かいだん大変たいへん


「ま、ってください、はぁはぁ

ぼくはからだちいさいので工場長こうじょうちょうみたいにすぐにはのぼれません」


トムはがんばって工場長こうじょうちょうあといますが、すっかりたのしくなってしまった工場長こうじょうちょうはトムのことをすっかりわすれてあたまなかはすっからかん

階段かいだんをらんらんのぼっていってしまいました

トムはおいてけぼり


「あー、どうしよう

こんなところで1匹(いっぴき)になったら迷子まいごになってしまうよ」


トムは独り言(ひとりごと)いました

黒猫くろねこトムは独り言(ひとりごと)おおねこだから

すると、まるでトムの独り言(ひとりごと)返事へんじをするかのようにとなりからこえがしました


「やぁやぁ、こんにちわはじめまして

そんなところでどうしたの?こまったの?こまってしまったらわたしにたすけをもとめたらいいじゃない、そうじゃない?」


ふしぎなはなしかたこえです

トムも返事へんじをしました


「はじめまして、それからこんにちわ

ぼくは黒猫くろねこトムです、今日きょうからこの工場こうじょうはたらかせてもらうのでよろしくおねがいします」


ふしぎなこえうれしそうなこえをあげます


「トムくん!黒猫くろねこトムくん、よろしくね!!

礼儀正れいぎただしいのは大好だいすきだよ

わたしはだよ『はしごの』」


礼儀正れいぎただしい…相手あいて気持きもちを大切たいせつにしてますよ、とかってもらうためにする行動こうどうができてるということ。じつ例外れいがいもある)


『はしごのなんてはじめていた』

トムはおもいました


「ところで、トムくんはなにをこまっているんだい」


じついま工場長こうじょうちょう案内あんないしてもらっているんです

でも、工場長こうじょうちょうさきってしまって……ぼく、あし人間にんげんよりもみじかいから…」


はしごのはうんうんと相槌あいづちをうちながらトムのはなしいていましたが、最後さいごまでくと「それなら!」といました


相槌あいづち相手あいてはなときはなしやすいようにリズムをつくってあげること。じつ例外れいがいもある)


「さぁ、おいで

わたしが1番上ばんうえまでれていってあげるよ」


それからトムの足下あしもとににょきにょきとたしかにえだのようなものがびてきました

トムはすこしだけためらって、それからぴょんとそのえだうつると、えだ素早すばや階段かいだんからはなれていきます

トムはちょっとこわくなってえだにしがみついてぶるぶるとふるえました

しばらくしてえだうごくのをやめてとまりました

トムのまえにあるもの、それは2ほんながーいたてのぼうみじかいよこのぼうがついたはしごでした


本当ほんとうにはしごだ』

黒猫くろねこトムはおもいました


「さぁさぁ、わたしのからだにつかまって

それにちゃんとつかんでって

そうそう、そこそこ、はなしちゃダメだよ、最後さいごまで」


はしごののいうとおりにトムがはしごをぎゅっとつかむと、きゅうにものすごいかぜがトムのひげやみみはしけました

なんと、はしごがとてつもないはやさでうえうえへとびているのです

まるで、おおきなとり背中せなかにつかまってそらがっているみたい!


はしごはぐんぐんびていきます

トムはなんだかたのしくなってきました

だってこんなことはじめて!

それにかぜ気持きもちいいのです 

トムがうれしくなって鼻歌はなうたうたうと、はしごも一緒いっしょになってうたいました

そうやってたのしくはしごにつかまりながら、うえうえへとすすんでいくと…


〜♪流れ星(ながれぼし)ファクトリーえき流れ星(ながれぼし)ファクトリーえき、おえのお客様きゃくさまはおをつけください♪〜


どこかからアナウンスが聞こえてきます


「もうすこしだよ、トムくん

もうすこしでかぜえきくんだよ」


かぜえき?」


そうこうしているあいだにアナウンスはもっとおおきくこえてきます


「さぁ、到着とうちゃくだ!」


はしごが伸びるのをやめます

トムはとんっと白い床に飛び降ります


「ここが階段かいだんさきだよ、トムくん

そのうち、工場長こうじょうちょうるだろう」


「ありがとうございます、はしごのさん」


「どういたしまして、トムくん

またこまったことがあったら、たすけてあげるよ、もちろんさ♪」


トムは礼儀正れいぎただしくおじきをすると、はしごのうれしそうにそうって、するするするするとしたもどってきました


しばらくすると、階段かいだんほうからはぁはぁ、はぁはぁ、とこえこえます

トムがじっとそこでっていると、階段かいだんさきからまずふわふわしたまるいポンポン、それから三角さんかく帽子ぼうし、そしてあかくておおきなはなをした工場長こうじょうちょうかおえてきました

しろかおあせだく

やっとトムのいるところまでたどりついたときにはゆかすわんでしまいました


「はぁ…はぁ…やぁ、トムくん

さ、さすがだね…さすがエリートだ

くのがはやいね

ちょ、ちょっと…っててね、すこ休憩きゅうけいしなくちゃ…はぁはぁ」


工場長こうじょうちょうゆかうえたおんではぁはぁとくるしそう

もしかして、ずっとあんなふうにスキップしながらのぼってきたのでしょうか?

もし、そうだとしたらこれぐらい(つか)れていても当然とうぜんです


でも、トムはこのふしぎな場所ばしょになってになって仕方しかたがありません

トムと寝転ねころがったピエロの工場長こうじょうちょうがいるのは先程さきほど階段かいだんからつづいたしろゆかまわりにおなじようにしろさくがついていて、そう、これはまるでベランダみたい


ひろいベランダみたいなところには見渡みわたかぎよるそらひろがっていてほかにはなにもいようにえるのですが、はしっこになにやらわった標識ひょうしきがたっています

しろぼう矢印やじるしがついているところは、みちでよくるのとおなじなのですが、やたらと矢印やじるしおおいことと、ぼうじたいがくるくるとまわるので、矢印やじるしがころころとわってしまうのです


標識ひょうしき…なにがあるかかいてある看板かんばん

まるかったり、四角しかくかったり、矢印やじるしだったりもする)


工場長こうじょうちょう工場長こうじょうちょう

ここはなんなんですか?なにをするところなんですか?」


トムは工場長こうじょうちょうきました

工場長こうじょうちょうはひたいのあせをぐいとぬぐうと、もうつかれていないのかぴょんとがってにこにこ

トムは『すごいなぁ』と思うと、工場長こうじょうちょうはトムのこころこえこえているかのように「だって、工場長こうじょうちょうだからね」とってトムをさくちかくへとれてきます


「さぁ、これはかぜえき流れ星(ながれぼし)ファクトリーえきだよ

ここから、ほしそらかえしていくんだ」


ほしそらかえす?」


「そうだよ、ほらこうやってね」


工場長こうじょうちょうどこからかダンボールばこをもってくると、そのなかからなにかをしました


「わぁっ!!」


きらきらとかがやいしころ、まるでつきひかりをこのちいさいいしあつめたみたい

黒猫くろねこトムのひかりびてきらきらとかがやきます


「これが、ほしだよ

それっ、こうやってね!」


工場長こうじょうちょうなかにあったほしをぽんっと夜空よぞらげました

トムはあわてます

だって、こんな綺麗きれいほしげちゃうなんて

ちていって地面じめんにぶつかったらこわれちゃうかも


でも、トムの心配しんぱいはすぐになくなりました

げられたほしはすうっとどこかへんでにました


「あ、これ流れ星(ながれぼし)っ」


「そうだよ

これがこの部署ぶしょ仕事しごとだよ

ほら、つぎつきこうがわかぜだ」


標識ひょうしきがぐるぐるまわってまるのをみると、工場長こうじょうちょういました

たしかに矢印やじるしには『つきこうがわ』といてあります


「じゃあ、トムくんはこのほしげてね」


工場長こうじょうちょうからわたされたほしってトムはおろおろ

けれど、さっきの工場長こうじょうちょうおもしてぽんっとほしそらげました

すると、ほしかぜかれてまたどこかへながれてきます


トムはいました


流れ星(ながれぼし)ってこうやってつくるんだ」


工場長こうじょうちょうはにっこりわらってトムのにぎって階段かいだんほうきます


流れ星(ながれぼし)には2種類しゅるいあるんだよ

ひとつはいまみたいに自分じぶん場所ばしょもどっていく流れ星(ながれぼし)

もうひとつはさっき、トムくんにキャッチしてもらった流れ星(ながれぼし)だよ」


「でも、この星達ほしたちはさっきのみたいにきらきらしてないですよ

もしかして、ぼく、失敗しっぱいしちゃったんでしょうか」


トムが三角さんかくみみをおってうなだれていると、工場長こうじょうちょういました


「そんなことはないさ

なか失敗しっぱいなんてものはじつはないんだよ

それに、そのたちはそれでただしいのさ

さぁ、きみのほし洗濯場せんたくじょうれてこう」



              X


つぎ黒猫くろねこトムがれてこられたのは、すながたくさんあるところでした

最初さいしょみずがいっぱいで、つぎ階段かいだんがいっぱい

今度こんどすなかぁ…と黒猫くろねこトムはおもいました

どうやら、この工場こうじょうのものはなんでもおおきいみたいです


工場長こうじょうちょう工場長こうじょうちょう


トムがいます


「ん?なんだい、トムくん」


洗濯場せんたくじょうってココなんですか?」


トムにはピンときません

洗濯せんたくといえばみず使つかいます

だから、本当ほんとうはまたみずがたくさんあるところにくのかとおもっていたのです


「あぁ、そうだよ

トムくん、きみがつかまえたほしすなうえいてごらん」


工場長こうじょうちょうがそううので、トムはあみなかからくろいしころを全部ぜんぶすなうえならべました

すると…


「うわぁ!工場長こうじょうちょう!!

ほしうごいています!!!」


なんと、さっきまでただのいしころだったほしがもぞもぞとうごしたではありませんか

しかも、ほしはだんだんとすななかもぐっていって、トムが「あっ」とおもってびかかったときにはすっかりしずんで姿すがたえなくなってしまいました


「どうしましょう

ほしくなっちゃいました」


トムはきたくなりました

せっかくあつまったほし全部ぜんぶなくなってしまったのですから

でも、工場長こうじょうちょうくびよこにふってトムにしたるよう言いました


かなくたっていいんだよ

だって、ほら」


トムはほしいたすなうえます

するとーー


工場長こうじょうちょうほしてきましま!」


なんと、しずんでいったほし全部ぜんぶもとあったところからすなをかきわけててきたではありませんか!

それに、くろよごれていたほし様子ようすもちがいます

ほししろいようなあおいようなぼんやりとしたいろをしています

くろくはないけど、ひかってもいません


「さっきのは、ほしをきれいにしていたんだよ」


ピエロの工場長こうじょうちょうが言います


「このしたにはたくさんの従業員じゅうぎょういんむしたちがいて、ほしについたよごれをとってくれているんだ

このすなのようにえるものは、全部ぜんぶほしよごれがちたものなんだよ

さぁ、つぎこう

はやくしないとまちがえてぼくらも洗濯せんたくされてしまうかもしれないからね」



               X


「さぁ、ここでほし完成かんせいしたらあとはさっきかぜえきでやったようにほしをおくるだけなんだよ」


工場長はそうってトムをこりのいえのような小屋こや案内あんないします


「うわぁ、ほしがたくさん!」


黒猫くろねこトムがびっくりしたのをて、工場長こうじょうちょう得意とくいげです


「いそいで用意よういしたにしては上出来じょうでき上出来じょうでき


1人(ひとり)1匹(いっぴき)が入った小屋こやのはしからはしまでベットでいっぱい

そしてそのベットのひとつひとつにほしねむっているようにかれています


「さあ、それからこっちだよ」


工場長こうじょうちょう小屋こやよこにある入り口(いりぐち)からトムをびます


トムがそのとびらなかはいるとーー


「あ!新入しんいり!!」


そこには、おおきなからだにたくさんのボタン、それと無口むくちそうなかおつきの新入しんいりがいました


『なんで、こんなところに新入しんいりが!?』


トムは思いました

トムは新入しんいりのことが苦手にがてなのです


「どうしたんだい、トムくん

流れ星(ながれぼし)マシーンといなのかい?」


「ながれぼしマシーン?」


「そうだよ、ほら

こうやって、ほしっていくのさ」


ピエロの工場長こうじょうちょうが、流れ星(ながれぼし)マシーンのボタンをぽちぽちすと、無口むくちだった流れ星(ながれぼし)マシーンががしゃこんがしゃこんはなはじめてトムのほしをとってしまいました


「あ!ほしが!!」


それから、流れ星(ながれぼし)マシーンはトムからとったほしにたっぷりとペンキをつけたふででぺたぺたぺた

でも、なによりもふしぎなのは、流れ星(ながれぼし)マシーンが使つかったペンキはきらきらとひかっていることです


「これが、ほしいろのペンキだよ

これをほしるのとベットでかせるのをくりかえしてほし元通もとどおりに光輝ひかりかがやくようになるんだよ


ほしいと、夜空よぞらはちょっと物足ものたりない

流れ星(ながれぼし)いと、みんな自分じぶん願い事(ねがいごと)があるのをわすれてしまう

だから、この仕事しごとはとても大切たいせつなのさ」


工場長こうじょうちょうはにっこりとほほえみます


トムは流れ星(ながれぼし)マシーンがあっというほしって、それからベットに星達ほしたちれていくのをじぃーっとていました


 

               X



ひととおり工場こうじょう案内あんないしてもらったあと、ピエロの工場長こうじょうちょうは「トムくんの部屋へやつけよう」とって最初さいしょ廊下ろうかにもどってきました

工場長こうじょうちょうはトムがいることがとてもうれしそうだけど、トムはなんだかむっつりしています

どうやら黒猫くろねこトムはなにかかんがえごとをしているみたいです

トムは陽気ようき工場長こうじょうちょうます 


工場長こうじょうちょう工場長こうじょうちょう


「なんだい、トムくん黒猫くろねこトムくん♪」


工場長こうじょうちょうはぼくをはたらかせてくれるんですよね」


「もちろん!ここではたらいてほしいよ」


「じゃあ、ぼくは流れ星(ながれぼし)マシーンがいるから、いらないってわれたりしませんか?」


どこかからガタッと音がしました

工場長はおどろいたようにをまんまるにしてをぶんぶんよこにふりました


「そんなことうわけがないよ!

どうしてそんなことをくんだい」


「だって、流れ星(ながれぼし)マシーンはきっとぼくのできないことなんでもできるでしょう?

そしたら、ぼくなんかいらないっておもわれちゃうのかも」


また、どこかでガタガタとおとがします……

トムはだから新入しんいりたちが苦手にがてなのです

またいらない、なんてわれたらもっともっとつらくてかなしいはずです


工場長こうじょうちょうはうなだれたトムのかたくと、やさしいこえでこういました


「きみをいらないなんてわないさ

それに、マシーンはなんでもできるようにえるかもしれないけど、ぼくとこうやっておしゃべりしてくれるのは、いまトムくんだけだよ」


がたがたがたっとさっきよりもおとがしました


「じゃあ」


トムは言います


「じゃあなんで、虫さんたちと流れ星(ながれぼし)マシーンしかはたらいていないんですか?」


まずいことになりました

トムの言葉ことばに、さっきまでにこにこしていたピエロの工場長こうじょうちょう突然とつぜんわっときだしてしまったのです

それが、すごいのです

とってもおおきなこえをあげてわんわん、わんわんくので、なみだがたくさんて、床がみずびたし


「ちがうんだよ、トムくん、ちがうんだよ」


きながら、工場長こうじょうちょうはなします


「ぼくの工場こうじょうにはね、ほんとうに、たくさん従業員じゅうぎょういんがいるんだよ」


工場長こうじょうちょうはえんえんきながらつづけます

なみだがトムのこしまできています

トムはあわてます


かないでください!」


トムは工場長こうじょうちょうまそうとしますが、全然ぜんぜんだめ

よほどかなしいのかトムのこえこえません


「でもね、みんなね

流れ星(ながれぼし)マシーンをつれてきたら、おこってどこかへいってしまったんだ」


とうとうなみだはトムのひげのさきっぽまで!


「だ、だれか、たすけて!!」


「ぼくはみんなでパーティがしたかっただけなのに!!」


するとーー


がちゃ、ばっしゃあーーん


おおきなおとをたててどこかのとびらがひらきます

ひらかれたとびらなみだがいきおいよくながします

ついでに、黒猫くろねことピエロも


トムはたすかった!とおもったのにまたまただいピンチ

ぐるぐるみずなかでまわっているとーー


「さぁ、カッパさんとシャチくん、工場長こうじょうちょう黒猫くろねこくんをたすけてあげて!」


あっというに、トムのからだおおきなさかなにくわえられて、ゆかうえにぽーんとほうげられました

トムはねこなので着地ちゃくちはお得意とくい

けど、ピエロの工場長こうじょうちょうはやっぱりピエロなので、どしーん!

あんまりいきおいよくおしりからちたので、くのをわすれて、いたたたた


それから、きょろきょろとまわりをると、ぱっとかおあかるくなりました

黒猫くろねこトムとピエロの工場長こうじょうちょうのまわりには、1人(ひとり)1匹(いっぴき)をとりかこむようにーー


リクガメ、メンフクロウ、うし、シーラカンス、すずめ、めがねざる、ルリがい、イタチ、チーター、あげはちょう、ウォンバット、トナカイ、インドぞう、ウーパールーパー、アシカ、カンガルー、うま、マントヒヒ、ヒアリ、りす、スカンク!?、クワガタ、タコ、コアラ、ライオン………あぁ、もうとにかくたくさんっ!!


「みんな!もどってきてくれたのかい!?」


ピエロの工場長こうじょうちょうはとびあがってよろこびます

けれど、まわりのみんなはおこったようなかお


工場長こうじょうちょう!ぼくらそんなこといてません!」


みんなが合唱がっしょうするように工場長こうじょうちょうおこります


「ぼくたち」 「わたしたち」 「ずっと」 「あそこに」 「いたんですよ!」


みんなが、なみだながれていったとびら指差ゆびさします

とびらには『いくらでもはい部屋へや』とドアプレートがかかっています


工場長こうじょうちょうが」 「ぼくら」 「から」 「仕事しごとを」 「とりあげようとするから!」


みんなが、ガウガウ、ブヒブヒ、ピヨピヨ、そろってしゃべるので、廊下ろうかはにぎやか


工場長こうじょうちょうはおこられているのになんだかうれしそう


「これで、みんなそろってパーティができるね」


トムはこんなにたくさんのものうのは、子猫こねことき母猫ははねこれていってもらった動物園どうぶつえんときぐらいです

いまはそのときにくらべられないほど、もっとたくさんのものがいるのでおどろいていました

けれど、ものたちはおこっているのに、工場長こうじょうちょうはにこにこしていて、このままではとんちんかんのまま


しかたがないので、黒猫くろねこトムは工場長こうじょうちょうきます


工場長こうじょうちょう、みなさんおこっているみたいですよ」


「うん、そうみたい」


「なんでおこっているのかわからないんですか?」


「わかんないよ、だってぼくは工場長こうじょうちょうだから」


トムはあきれてがっくり

こんなたよりない工場長こうじょうちょうもはじめて


「ぼくは従業員じゅうぎょういんみんなで一緒いっしょにパーティがしたかっただけなのに」


どうやら、工場長こうじょうちょうはみんなをやめさせるために流れ星(ながれぼし)マシーンをれてきたわけではなく、パーティをしているあいだほしをつくってもらおうとおもっていたらしいのです


これには、みんな「ちゃんとわなきゃかんないよ」と

文句もんくだらけ


でも、みんなも本当ほんとう流れ星(ながれぼし)ファクトリーにかえってきたかったので、なんだかうれしそう


工場長こうじょうちょうはもっとうれしそう


大急おおいそぎでパーティの用意よういすすめられます

テーブルをして、かざりつけも

ものものもたくさんでてきます

工場長こうじょうちょう手製てせいのパイのいいにお

ろうそくにがついて、楽器がっき演奏えんそうこえたら、パーティのはじまり!


天井てんじょうにはおおきなぬのがつりさげられていて、そこには『みんなおかえり!トムくんようこそ!!』とかれています


パーティは大盛おおもがり!!

工場長こうじょうちょう玉乗たまのりしながらジャグリングをしますが、ピエロの工場長こうじょうちょう下手へたっぴ

ボールがころころちていきます

それをてみんながおかしそうにわらいます 

工場長こうじょうちょうわらいます

トムも一緒いっしょわらいます


みんながトムを歓迎かんげいしました


「はじめまして、黒猫くろねこトムくん!

わたしはほしかせる部署ぶしょなの

ほら、わたしのからだはふわふわでしょう?」

ひつじがいます


「はじめまして!トムくん!!

さっきはぼくらのいたいことをってくれてスッキリしたよ!ありがとう」

トカゲがいます


「ほんと、ほんと!

トムくんのおかげでぼくら工場長こうじょうちょう仲直なかなおりできたよ、ありがとうっ!!」

アミメキリンがいます


トムはつぎからつぎへと握手あくしゅをもとめられててんやわんや

うれしくてたのしくて、でもちょっぴりつかれてしまいました


それで、そーっとパーティをぬけだして、廊下ろうかやすむことにしました

トムは黒猫くろねこなので、くろいところをとおってけばみつかりっこないのです


しずかな廊下ろうかでトムはほうと一息ひといき


「あぁ、たのしかった

あれ?ここはどこだろう??」


トムはいつのまにか自分じぶん廊下ろうかきあたりにりいることにづきました

きあたりにはとびらがあります

ドアプレートには『あなたがたくないとおもっているものの部屋へや』とあります


たくないとおもっているもの?」


黒猫くろねこトムはいました

へん部屋へやです

だって、たくないものがあるのに、はいろうとするひとがいるでしょうか?


トムもはいろうとはおもいませんでした

ただ、そのとき流れ星(ながれぼし)マシーンがこちらにるのがえたのです

それで、おもわずその『たくないとおもっているものの部屋へや』にはいってしまったのです

  

        

             X


トムがいる部屋へやはとてもほこりっぽくてくら部屋へやでした

きっとみんなこの部屋へやはいらないから、そうじをしてないんだろうな、とトムはおもいました

おくほうにはぼんやりとオレンジいろのあかりがえています

あんまりくらくて、トムははいってきたとびらがどこにあるのかからなくなっていたので、そのあかりのほうへすすみました

あかりはちいさなライトでそのしたにトムのよくっているおおきな背中せなかえました

いっしゅん、さっき流れ星(ながれぼし)マシーンがついてきたのかとおもいましたが、そうではないことにがつきました

おおきな背中せなかおくには、メガネをかけた1人(ひとり)おんなひとがいます

おんなひと真剣しんけんかおしています

にしていた道具どうぐでかつおぶしマシーンのからだをつくっていきます

それから、あかあおそれからたくさんのいろのボタンを特別とくべつ順番じゅんばんします

かつおぶしマシーンがいつものように「がしゃこーん」とってうごきだしました

トムはかつおぶしマシーンがうごくのをなんどもたことがあります

おんなひとはトムとおなじものをているはずなのにとてもうれしそう


トムはまたくらいなかをあるきはじめました


『そうか、新入しんいりにもおかあさんがいたんだ』


あるきながら、そうづきました

それから、またあかりがえます


あかりはろうそくでした

つくえうえにろうそくが1ぽんっていて、そばに椅子いすがあります

そこには、おとこひとすわっていました

トムのっているひとだけど、トムがっているひとよりもしわがあって、かみがちょっとしろくなっています


だれおとこひとはなしかけません

新入しんいりがベテランになってそばにいましたが、おとこひとはなしかけることは、かつおぶしマシーンにはできないのです


トムは自分じぶんがいたかつおぶし工場こうじょうにいる2人(ふたり)をじっとていました


『そうか、なんでもできる新入しんいりにもできないことはあるんだ』


かつおぶし工場こうじょうの1ばん(えら)ひとはとてもさびしそうでした

トムの『魔法まほうのかつおぶし』はつくれなくなってしまったので、かつおぶしもれなくなってしまったのです

それに、だれ工場こうじょうはなしをしてくれないのです


トムはさびしそうなおとこひとて、自分じぶんさびしくなりました

いまはおかねが1ばん大事だいじおとこひとも、むかし黒猫くろねこのトムのことをなにかとにかけてくれるやさしいえらひとだったのです


「ここにいたのかい、トムくん」


さびしくなったトムにパーティーからさがしにきてくれたピエロの工場長こうじょうちょうこえをかけます


「さぁ、おいで

みんな、きみのことをっているんだよ」


ピエロの工場長こうじょうちょうやさしくそうってトムをくら部屋へやからしました


もう、新入しんいりもかつおぶし工場こうじょうの1ばんえらひともいません


トムと工場長こうじょうちょうは『あなたがたくないとおもっているものの部屋へやていきました


トムははいまえはたしかに新入しんいりにもかつおぶし工場こうじょうにもかつおぶし工場こうじょうの1ばんえらひとのこともかんがえたくありませんでした


でも、いまはちょっとちがいます


工場長こうじょうちょう…」


トムは工場長こうじょうちょう見上みあげました

……でも、工場長こうじょうちょうはとてもたのしそうです


「みんなもどってきてくれたし、パーティもできた!

みんながいなきゃ工場こうじょうはまわらない

流れ星(ながれぼし)ファクトリー復活ふっかつはきみのおかげだよ!!

ぼくのかんがえはまちがってなかった

きみこそ、ぼくのつぎ工場長こうじょうちょうだよ」


工場長こうじょうちょうはそうって、トムをパーティのステージにあげます

みんながトムに拍手はくしゅしたり、口笛くちぶえいたりしています


でも、トムは………


「ごめんなさいっ!!」


トムはみんなからけてはししました


「「「あ!トムくんっ!!」」」


トムが背中せなかけてはししたので、ビーグルがついついいかけました


それから、クマもついつい、ついついいかけました


オオカミもついついいかけました


それから、いろんな動物どうぶつがついついいかけました


しかたがないのです

背中せなかけてはしされると、ついついいたくなってしまう性格せいかくなのです


でも、それをほか従業員じゅうぎょういんはかけっこがはじまったんだと勘違かんちがいしてしまいました


それで、トムのうしろをピーグルが、クマが、オオカミが、それからたくさんのものたちががやがやわいわいどたどたとはしはじめてしまったのです


トムはびっくり!


トムはわれるとげだしたくなる性格せいかくなので、一生懸命いっしょうけんめいはしります


でも、なかにはトムよりもあしのはやいものがたくさんいるのです


『あぁ、もうダメだっ』


トムがそうおもったそのときーー


「やぁやぁ、こんにちわはじめまして

そんなところでどうしたの?こまったの?こまってしまったらわたしにたすけをもとめたらいいじゃない、そうじゃない?」


「あ!はしごのさんっ!!」


「あれ?トムくんじゃないか!

やぁやぁ、はじめましてじゃなくてさっきぶりだね♪

どうしたの?またこまったの?」


トムは必死ひっしになってはしごのこえ返事へんじをします


「そうなんです!たすけてほしいんです

ねがいします!ぼくをがしてくださいっ!!」


「それ、ほいきたっ♪」


ながえだがにょきにょきにょき

黒猫くろねこトムのところへます


「さぁさぁ、わたしのからだにつかまって

それにちゃんとつかんでって

そうそう、そこそこ、はなしちゃダメだよ、最後さいごまで」


はしごのはトムをのせると、にょきにょきにょきはしごをどんどんばします


トムはほっと一安心ひとあんしん


でも、みなさん

じつはたいせつなことをみなさんにわなければいけません

それは、あぁ、もう大丈夫だいじょうぶくとあぶないということ


トムが地面じめんからはなれたのだから大丈夫だいじょうぶおもったそのときおおきなおおきなハシビロコウというとりがトムのちかくをばさっばさっとんできたのでした!


ハシビロコウはみんなにしっかりとべることをせるチャンスができてじつはとくいげ


でも、トムはしかめっつらのおおきなハシビロコウにびっくり

あわてて、はしごからはなしてしまいました


黒猫くろねこトムのくろからだよるやみなかにひゅーーっとちていきます

いくら着地ちゃくち上手じょうずなトムでもこのたかさはムリです


『もう、だめだ』


トムはをつむって、あたまかかえました

そして、そのままこわさのあまりうしなってしまったのです



つぎにトムの意識いしきがもどったときだれかがトムの名前なまえをなんどもなんどもんでいました

それでトムはまんまるのをゆっくりとひらきました


すると、かつおぶし工場こうじょうの1ばんえらひとがトムを心配しんぱいそうにろしていました


大丈夫だいじょうぶかい、トム

みちでたおれていたのをみつけたんだよ」


かつおぶし工場こうじょうの1ばんえらひといました

しわはないし、かみくろくてふさふさのえらひとです

それから、トムのあたま出来できたたんこぶにつめたいタオルをかけてあげました

どうやら、トムは電柱でんちゅうあたまをぶつけて、あんまりいたかったから、そのままそこでたおれてしまっていたらしいのです

『あれは、全部ぜんぶゆめだったのかな?』

トムはおもいました


トムはかつおぶし工場こうじょうの1ばんえらひといえのベットにかせられていました


じつはね、トム」


かつおぶし工場こうじょうの1ばんえらひといます


「このあいだ、きみにもうはたらかなくていいなんて言ってしまったんだが、それを…その、したいんだ


あれからかんがえがわってね


従業員じゅうぎょういん大事だいじにすることはわたしにとってとても大切たいせつなことなんじゃないかとおもったんだ


それと言うのも、最近さいきんゆめにピエロがてくるんだよ

それでね、そのピエロがうにはねーー」


黒猫くろねこトムはひりひりといたあたままくらにのせてかつおぶし工場こうじょうの1ばんえらひとゆめはなしいていました


まどそとではお月様つきさまときらきらひかよるほし

そして、わすれてしまったようなタイミングできらりと流れ星(ながれぼし)暗闇くらやみ黄色きいろせんをひいていきました



       ーおわりー

さいごまでよんでくれてありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  擬音の使い方がおもしろいなあと思いました。
[一言] トムがお仕事に戻れて良かったです! 楽しく読ませていただきました!
2022/01/04 17:58 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ