皆を元気にしたい。
こんにちは。
私は型式番号V-003/aiシリーズ、自動学習型医療看護マキナのヴァクチーネと申します。
患者様のお名前をお聞かせ願えますか?
……なるほど、登録いたしました。
今回の健康観察で異常が発見されましたことをお知らせ致します。
該当部位はこちらの書類の通りです。
治療方針は手術、投薬治療、リハビリテーションです。
なにかご質問はありますか?
……ありがとうございます。ではこの予定で今後の治療をさせていただきます。
尚、今後の治療生活において支障が発生すると予測されます。
私はその際の補助も行いますのでなんなりとお申し付けください。
この度は当病院をご利用頂きありがとうございます。
貴方の今後が快適な療養生活になるよう、そして無事に治療を終えて以前と変わらない生活ができるよう、頑張りましょうね。
はい、お呼びいただきありがとうございます。
私は型式番号V-003/aiシリーズ、自動学習型医療看護マキナのヴァクチーネです。
え、短い自己紹介…ですか?では、ヴァクチーネです。
合格ですか。ではこれからはこのように紹介させて頂きます。
それで、今回はどのようなご要件ですか?
音がなくて寂しい…ですか。ではこのヴァクチーネが歌いますね。
大丈夫、患者様のご希望の曲をお流しいたします。
え?ああ、私が歌う訳ではありませんよ。ネットワークから電波を受信し放送するだけなのでご安心を。
お好きな音楽は何ですか?
患者様、手術の日程が決まりましたのでご連絡いたします。
つきましては、ご家族様へのご連絡を致したいのですが…申し訳ございません。
何故かこちらからご連絡を差し上げても応答がありません。
ご家族様の方からご連絡できませんでしょうか。
…そうですか。
入院以降ご家族様からのご連絡がつかないとなると、困りましたね…。
……申し訳ございません、患者様を不安にさせてしまったようです。
当病院はそのような理由で未治療の患者様を追い出すことはできません。
患者様の治療をするのが病院ですから、一先ず患者様の御体が良くなるまではご安心下さいませ。
患者様、おはようございます。本日のお加減は如何ですか?
血圧、体温、共に正常ですね。体調に不具合はございませんか?
…それは良かったです。
本日も患者様の生活をお支えいたしますので、よろしくお願いしますね。
……え?手術ですか?そうですね…先生からは手術料を頂ける環境でなければ手術できないと申しておりますが、怪我や病気の治療を行うのが医者の仕事です。
先生は手術の予定をお決めくださいましたのでご安心下さいませ。
患者様、お呼びいただきありがとうございます。ヴァクチーネです。
はい、手術が不安…ですか?
未だご家族様とも連絡が取れていません。さぞかし不安でしょう……え、違う?……ああ、怖いのですね、大丈夫です。
全身麻酔は数を数えているうちにそれはもうぐっすりと眠れます。
起きたら身体は重たいと感じるとは思いますが違和感なく…そうではない…?
……申し訳ございません。私はあくまでも医療看護専用の機械ですので人間や他種族様のように心というものを持ち合わせておりません。
よって、どうしても患者様の感覚を理解することはできませんが……手術に対して不安を覚えるのは、当然のことです。
ヒトは皆、自身の体に異常が見当たりそれを治すとなれば自身の知る方法で治すことでしょう。
ですが自身の力以上の問題が生じた場合、それは他者に頼む他ありません。
かなりの勇気というものが必要でしょう。
私もたかがネジ一本ですが体から抜け出てしまっては困りますし、また、代わりのネジを付けられた場合、スペアが原因で私の機能が停止してしまったらどうしようと思います……失礼ですが患者様、どうして笑っているんですか?
いよいよ手術の日程が近づいてまいりましたね、患者様。
大丈夫です。手術当日も私、ヴァクチーネか傍で患者様の容態を観察致します。
終わっても担当は私のままですから、ご安心下さいませ。
患者様起きてらっしゃいますか?申し訳ありません。
明日の手術ですが、未だに患者様のご家族様からの連絡がないと先生が申されております。
手術は明日必ず行いますのでご安心下さいませ。
予定はこなすものです。他の予定も詰まっているのです。患者様一人の為に滞ることは許されません。
先生が何を申されているのか全くもって理解できません。
医者とは病や怪我を治療する仕事です。
目の前に治療をするべきヒトが居るのにどうして治さないのでしょうか。
お金など些細な問題です。
それよりも病は他者に伝染する、怪我はヒトを蝕む。どちらも重大な損傷です。一番に優先するべき事項です。
滞らせる訳にはいきません。何度もそうお伝えしているのにどうして理解してくれないのでしょう?
……ああそうか、先生も、侵されているのですね。"カネ"という、病に。
「でしたら……先生も治療をせねばなりません」
「ひっ……!?ヴァ、ヴァクチーネ……?何、してるの……?」
いつまでも現れないヴァクチーネが心配になって、"僕"は手術室に向かった。
ヴァクチーネは今日、病気のせいで家族に捨てられた僕を必ず手術すると言っていた。
予定の時間も聞いていて、もし私が来なかったら手術室へ来てほしいと言われたから来たのに……何だ、この光景は。
「ア……患者、様……申シ訳、アリまセん……。医者、ハ患者様ノ治療、ヲ行うのガ……仕事、です……。
私……ハ、患者様の、治療を優先……シナけれバ、いけマセん……」
返り血に塗れたヴァクチーネは裂かれた衣服の奥に見える体から機械の部分が露出し、切れたコードからは電気が爆ぜている。
見た目では明らかに壊れている。
その横にはいつも往診に来てくれた先生が、冷たく横たわっていた。
明らかに自分のせいだ。
「患者、様……私ハ、病ニ侵され……怪我を負ウ患者様方、の治療ヲさぽーと……するのが、仕事デス。早く、治……サ……ねバ……」