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偽らずに生きたい。

ゲリラ投稿!腹ペコ幼女、エフティ達のお話です。

「むぐむく。今日も美味いのぅ♪今日もとても良き日じゃ」

「なにがよきひなのー?」

「ふぁひゃ!?」


がさ、と音を立てて近くの草から桃色髪の少女が現れた。

その音と声に驚いた狐耳と二本の尾を持つ少女は、手に持っていたいなり寿司を落としてしまった。


「ああっ!わしの稲荷寿司がぁっ!おのれ小童め!わしの供物を落としてしまったではないか!何をするっ!」

「ええっ、エフティのせい!?エフティ面白いおうちにおねえちゃんが何か食べてたから見にきただけだもん!」

「ふんっ、わしを見に来たってなんにもなかろうに……あ、よいか?小童よ。そこの鳥居には何も書くな。ここはわしの家じゃ、悪さは許さんぞ!」


ぷんぷんと分かりやすく怒る狐耳の少女にエフティは首を傾げる。


「とりい?ここ、おねーちゃんのおうちなんだ。私ね、エフティ!この前からほうおーお兄ちゃんのおうちに住んでるの!」

「ほうおー……まっ、まさか鳳皇殿の家かっ!?くぅ、小童のくせになんとも羨ましい…!」


驚く少女にエフティは不思議そうに「羨ましいの?なんで?」と零す。

怒っていた少女の表情は一変して興奮の混ざった顔になった。


「あ、あの御方は霊鳥・鳳凰の獣人の方ぞ!?この小童!()()は無礼じゃぞ!」

「鞭?鞭は痛いね……あぶない……」

「お主の頭には違う無知が振るわれとるようじゃな……」


まともな話は聞いてもらえないと理解したか、妖狐のナヤトはふう、と息を吐きぴっと人差し指を立てた。


「良いか?よく聞け。お主が世話になっとる御方は鳳凰と呼ばれる霊鳥の体を持った獣人じゃ。霊鳥とは伝説、或いは空想と呼ばれる確定した存在ではない神の使いなのじゃ。つまり格式高いご立派な御方なのじゃぞ!」

「れーちょー……?かくしき……?伝説は分かるよ!じゃあお兄ちゃんってすごいんだ!」

「あの方は何故か自身を下げておるがな。じゃからあの御方にご迷惑をおかけしてはならんぞ、小童」

「へー……あ、エフティこわっぱじゃないよ?エフティだよ?」

「わーっとるわぁ!……相分かった。お主はえふてぃ。えふてぃじゃな。うむ……」


ナヤトは腕を組み記憶に刻むように何度も頷く。

その間にわさわさと動く尻尾にエフティは目を輝かせた。


「おねーちゃんのしっぽ!しっぽ触りたい!!」

「あッ!こら、莫迦!わしのしっぽに触れるな!触れたら……っ、はうぅ……」


エフティがナヤトのしっぽに触れた途端、ぼふんと音を立てて煙が立つ。

するとエフティの手にはしっぽを握られた狸がぶら下がっていた。


「……わわぁ!?おねーちゃんちっちゃくなっちゃった!」




***

「うう、うぅ……っ、酷い……あんまりじゃ、あんまりじゃぁ……」


小さな豆狸は体に似合わずボロボロと大粒の涙を流す。

鳳皇は「よしよし」とその体を手のひらに乗せ、人差し指で足りる小さな背中を撫でた。


「あうー……おねーちゃんごめんなさい……」


その姿を覗くエフティは鳳皇の隣でぺこりと頭を下げる。

鳳皇は撫でていた人差し指を止め、素直に謝るエフティの頭を撫でた。


「この子はナヤト。ナヤトは神社の守り神なんだ。本当はね、妖怪の豆狸で、良いお酒を作る妖怪として崇められてるんだけど……」

「うっ、ううっ……わかっておる、わかっておる……。わしは以前神と崇められていた妖狐に悪戯を働いたのじゃ……そして彼奴(きゃつ)に飼われ、あいつは亡くなってしまった……。土地を守る神が失われたなど言えぬ……わしはずっと彼奴の姿で真似をしていただけなのじゃ……。そのまま命を失ったが、わしは元には戻れん。今までの生活を続けるのみなのじゃ……」


しくしくと鳳皇の手のひらで泣くナヤトはしゅん、と肩を落としたまま。

エフティはその姿に「でももう違う世界だよ?おねーちゃんの好きに生きればいいんじゃないの?」といかにも素直で子供らしい質問を投げる。

するとナヤトは「莫迦者っ!そんな事できたら苦労などせぬわっ!」と泣き喚いた。


「意外とね、楽園に来てからも以前と変わらない生活を望む人は多いんだよ。勿論皆それぞれに願望はあるけどね」

「そなの?むー……おねーちゃんのがんぼーって何?」


エフティの桃色の目がナヤトを覗く。

ナヤトはエフティから視線を反らして、小さく呟いた。


「……偽らずに生きる、じゃ……」

「……」

「……」

「ほっ、鳳皇殿まで黙らんでほしいのじゃ!だっ、だってわしは格式高き妖狐だと偽って生きておったのじゃぞ!?その呪縛から開放されたいとは……ま、稀に……思うとった……」

「ふぅーーーん……。……あ、そだ!」


再び泣きそうになったナヤトの視線が外れていって、エフティはなにか思いついたようにナヤトの小さな体を鳳皇から回収して頭に乗せる。


「あっ、わっ、わっ!?これえふてぃ、何をするっ!ここから降ろせっ!」

「おねーちゃん!これからはエフティの上に居ていいよ!エフティ、おいしいご飯のためにお兄ちゃんから沢山お手伝いあるの!おねーちゃん、エフティと一緒にお手伝いしよーよ!」

「はっ……はぁ!?」


突然の提案にナヤトは目を丸くし驚く。

エフティは頭の上にナヤトを乗せてご機嫌だ。


「この姿に慣れたらいいんだと思う!嫌になったらおねーちゃんの姿になって、で、いろんな姿になったら良いと思う!エフティと一緒に色んな所いこーよ!」

「なっ、何を突然……」

「その姿に慣れるのは、いい案かもしれないですね。なんならオフィーリア様に許可を取りましょう。良かったですね、ナヤトさん」

「ほっ、鳳皇殿!?良かったってなにが……」

「あれ、お友達が欲しいって、以前言ってませんでした?」

「なっ……!」


ナヤトは驚き、石のように固まる。


「おねーちゃん、そなの?」


頭上のナヤトにエフティは視線を向ける。


「あっ……や、えっと……てっ、手伝いの手伝い……なら、してやろう……。えふてぃは、どうやら新参者らしいからな……。鳳皇殿、えふてぃが外でお手伝いをしている間、わしが見てやってもいいぞ」

「良いんですか?それは助かります。エフティも良かったね」

「お手伝いにおねーちゃん来てくれるの!?やったあ!」


にこりと笑う鳳皇にエフティは喜んでぴょんぴょこと跳ねる。


「ああっ!やめろ、跳ねるな!酔ううううう!!!」


……その頭上で、断末魔が響き渡った。

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