たくさん食べたい。
お腹がすいたの。
たくさんたくさんすいたの。
ごはんを食べてもお腹がすいて、なにを食べてもいっぱいにならなくて。
だからなんでもたくさん食べたんだ。
そしたら……
セカイが壊れちゃった。
「んぅ……まぶしい!」
目を開けると、まっしろだった。
なんにもない。
そう思ってたら、おねーさんがこっちを見ていた。
「目が醒めたようね」
「……おねーさん、だれ?」
「私はオフィーリア。貴女は?」
「わたし……わたし、エフティ!」
「そう、エフティ……。貴女、おうちは?」
不思議なおねーさんだ。
髪はまっ黒なのに服はまっ白でふしぎ。
……おいしくはなさそう。
「おうちはたくさん食べたら壊れちゃった。ここはたくさん食べれる?」
「食べられるものと食べられないものが決まっているわ」
「エフティなんでも食べれるよ?」
「ルールを守らないと、また死んじゃうわよ」
「エフティたくさん食べたい!」
「……わかったわ、ならこれをどうぞ」
おねーさんはため息を吐くと、手に持ってた本を開いてなにか手を動かしている。
何してるんだろう、と思ったら「はい」と後ろを見た。
――ぼふん!
「わっ!」
おねーさんの後ろで大きな音がして、見ると沢山の食べ物が見える。
エフティが知ってるくだものだ!
「わ、いっぱい!いただきます!!」
あまい、すっぱい、と、おいしいくだものがいっぱいだ。
あかくて、きいろくて、みどりで、あおで、いろんなくだものがいっぱいだ。
おいしい、たのしい、しあわせ、しあわせ。
「ね、ね、まだ食べたい!もっと食べたい!」
おねーさんを見ると目を半分だけ開けて、じっと見ていた。
なんか怖い。
「……エフティ、私の名前は?」
「ふぇ……?えっと、なんだっけ……お、おひ……おひーりあ?」
「オフィーリア。……エフティ、この果物は私の魔法でしか出せないの。そしてエフティ、貴女は私が出したものしか食べてはだめよ」
「ええっ、なんで!?エフティたくさん食べたい!おなかいっぱい食べたい!」
ぶう、このおねーさんいじわるだ!
エフティたくさん食べたいだけなのに!
「貴女は絶対お腹いっぱいにはならないわ。造られた人間、貴女の食事は私の魔法だけ。私の言いつけを守れるようになったら、お望み通りお腹いっぱいにしてあげる」
「ホント!?」
「ええ。だからまずは我慢を覚えなさい」
ガマンってなんだろう。
そんなことを言うおねーさんは、まずはおうちをアンナイするって言ったけど、ついていっていいのかな?
おねーさんがお部屋の出口に行くからついていったら、そこは外だった。
外は緑でいっぱい。
あの木はどんな味がするんだろ。
足元の土はちょっとかたくて、多分おいしくなさそう。
「それらは食べ物じゃないわ。こちらにいらっしゃい」
「はぁーい」
おねーさんの背中についていくと、ずっと歩いた。
どこまで歩くんだろ。
ずっと木が並んでて、ぜんぜん楽しくない。
エフティお腹がすいちゃうよぉ。
「……はい、どうぞ」
「ふぇ?」
突然おねーさんが振り向くからびっくりしちゃった!
でもその手にはあかいくだものが乗ってて、よだれがでちゃった。
「……いいの?」
「お腹が空いたのでしょう?」
「わぁ……!ありがとう、いただきます!」
はぐ。むしゃむしゃ。
口の中があまくて、じゅわっとして、とってもおいしい!
たまにこうしておねーさんが何かくれるのなら、ガマンもできそう!
「もう少し待っていて。もう着くから」
「はぁーい!」
全部食べるとまた歩き出す。
たくさん並んだ木の道を通ってついた先は……変な形のおうちがいっぱいの場所だった。
「……えっと、まち?」
「ええ。ここは神楽。私が治める町よ」
おうちの壁は真っ白、屋根は黒い板がいっぱい。
しかくい池がいっぱいあって、草が生えてる。
頭に角が生えた人や、顔まで隠してよくわからない人、小さい人もいておもしろい!
……ん?
……布がひらひら飛んでる!あれは、かさ?
「ふしぎなおうちいっぱい!知らない人もい……人?」
「彼らは妖怪。人が大事にしてたものに魂が宿って生きてるのだとか。あるいは、噂話がそのまま形になった種族よ」
「ふえぇ……おもしろい!おいしい?」
「ここに食べるものはないわ。お家に行ったらあげるわね」
「はぁーい。おねーさんのおうちどこ?」
「こっちよ」
おうちやたくさんある小さい池の横を通り過ぎると、他のおうちよりもおおきいおうちが見えてきた。
近くで見るともっとおおきい!
ここがおねーさんのおうちだって言われるとたしかにそうかも!って思っちゃった。
「……鳳皇、いるかしら?」
「はい、オフィーリア様。おや、そちらの方は?」
おうちの中を覗くと男の子が一人いた。
きらきら光る白い髪にいっぱい襟を重ねた服を着てる。
背はエフティよりもちょっと大きいかな?でもエフティとおんなじの子供だと思う。
「わたし、エフティ!」
「こんにちは、エフティさん。僕は鳳皇です」
「ほー、おー?鳥さんのにおいがする!」
「はい、僕は鳳凰の獣人なので……えっとオフィーリア様、この子は……」
「デミヒューマン……暴食の人造人間よ。多分誰にも管理できないから、私が引き取ってきたわ」
ぼーしょくのじんぞーにんげん。
人間しか分からないけどエフティについての難しい話をしてるんだなっていうのは分かった。
「エフティ、今日から私の家で生活しなさい。お兄さんの鳳皇の言うことをようく聞くこと。分かった?」
「ほーおー、エフティのお兄ちゃんになるの?よろしくね、お兄ちゃん!」
「えっ!?えっと、よろしくお願いします……」
お兄ちゃんはにこりと笑う。
エフティにもお兄ちゃんがいた気がするけど忘れちゃった。
でもお兄ちゃんなら家族だから、いい子にしないと!
たくさん食べれるようにがんばるぞーっ!
「では鳳皇、貴方にこれを渡しておくわね。エフティがお腹空かせたら食べさせてあげられる?」
「え、いいんですか?……わかりました」
「中に書いたから分かると思うけど、エフティが食べられるのは果物だけなの。私がこっちに居ない時にお願いできる?」
おねーさんはお兄ちゃんに本を渡した。
あの本は……さっきおねーさんがなにかしてた本だ!
「わかりました。えっと…早速何か食べる?」
「いいの?さっきあかいの貰った!」
「うん、わかったよ。……はい、どうぞ」
お兄ちゃんも本に何かしたらきいろのくだものが出てきた。
いいなあ、エフティもおんなじこと出来たらいいのに。
うーん、あまくておいしい……。
「……いい?エフティ。私は忙しいから、この町にはあまり居ないの。居ない時は鳳皇にお願いするのよ?それから、働かざるもの食うべからず。エフティも沢山お手伝いしてくれたらその分あげるから、頑張れる?」
「はたらかざるものくうべからず?お手伝い、分かった!エフティなんでもできるよ!重たいのも持てるし、おつかいもできるよ!たくさん食べれるなら、エフティがんばる!」
「……ですって。じゃあ、よろしく頼むわね、鳳皇」
「はい、わかりました」
「にひひ、何でも言ってね、お兄ちゃん!」
「うん、よろしくね。エフティ」
エフティに新しい家族ができちゃった!
おねーさんにお兄ちゃん!『はたらかざるものくうべからず』ってどういう意味だろ?
お手伝い、どんなことするのかな?たのしみーっ!