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ヴァクチーネ

「私は型式番号V-003/aiシリーズ、自動学習型医療看護マキナのヴァクチーネと申します……私は型式番号V-003/aiシリーズ、自動学習型医療看護マキナのヴァクチーネと申します……」

「……フム、壊れていマスね……」

「ねーねーおじちゃん、ばくちーね、治らないの?」

「全く、お使い中じゃというのに変な拾い物をするから……」


エフティはナヤトと共にグレイブヤードに来ていた。

その理由はいつも書類を提出しないグレイブヤードの統治者、ルーティア・キニーへの催促のため……なのだが、今は違うことをしている。


「バグが生じていマスね……。マァいいでしょう。医療看護マキナとはまた珍しい拾い物デス。直せばコノ楽園ニ何かしらの貢献ガできるカモしれません」


キニーは瞼にキズミを押し当て、座ったまま動かない人形のような体の中を覗く。

ドライバーを回し部品を丁寧に一つずつ外しながら口を開いた。


「ソレにしても、よくココに居るのガ分かりましたネ。このグレイブヤード、他所より狭イですが他所より高低差がありマス。ココへ来るのは大変だったデショウ?」


「その部品ニハ触らないヨウに」と作業をしながら念を押すキニー。

隣で退屈そうにしていたエフティを見かねて雑談を始めると、「えっとねー」と嬉しそうな声が響いた。


「匂いがしたの!食べれる匂い!だからエフティ頑張ったよ!それにエフティは力持ちだからだいじょーぶっ!」

「エフ、キニー殿を食物扱いするのは失礼じゃろう!あとお主は確かに力量のある荷物持ちじゃが最悪の迷子じゃ。どうしてグレイブヤードに辿り着けん、お主が道なき道を行くからじゃろう!」

「ナヤトはいつもぶーすか言うー。でもエフティ頑張ったよ?」

「あっはっは!道なき道をユク、ならばココへ来るのは楽勝ダッタはずだ。アナタ達は中々面白いコンビのようデスね」


キニーの居場所はいくつかある拠点の中でも、一番標高が高く険しい岩山の中腹にある。

どうしてここまで来ることが出来たのかキニーには不思議でならなかったが、二人の姿に大きく納得した上で笑い出した。

キニーはカチャカチャ、キュルキュルと音を立てて作業を進めていく。

途中で雑談を交えながらヴァクチーネを治療するキニーは寝ずに一晩をかけて作業を続けた。


エフティとナヤトが疲れからか仲良く眠り始めた頃、雷鳴が響き空が光った。

音が鳴り地面を叩きつけ、嵐のように外を響かせている。


「うーん……おそと、うるしゃい……」


エフティの小さく呟いた言葉にキニーはくすりと噴き出し、布団代わりの麻布を二人にかける。


「……すみませんネ、グレイブヤードは常ニこの天気ですノデ……。……しかし食魔トハ、珍しい。私モ貴女にとっては餌ノひとつですカ……いやハや、なんとも恐ろしいものデス……」


キニーは再びヴァクチーネの前に座り、作業を始めた。

雷鳴はキニーにとって、一つの効果音にすぎない。

機械の音、物々しい大型種の音、空に浮かぶ暗雲同士が軋轢を生み大地を轟かす音、それらは全てこのグレイブヤードという土地に響き渡る音楽でしかない。

コードを取り替え、ユニットを取り出し細部まで汚れを取って異常を確認する。

目立つ傷はない。

中は至って正常。

では何が問題なのか理解できない。

理解らないが、理解することがこちらの仕事だ。

キニーの手は止まらなかった。

ドライバーを持ち、ペンチにニッパー、レンチ、工具を持ち替えては細部を見渡し元に戻していく。

気づけば雷鳴は落ち着いていた。

ならば直に荒野の砂嵐がやってくるだろう。

それが落ち着いたらこの険しい山を下り、ヴァクチーネを連れて行かないといけない。


「……ああ、モシかしたら砂ガ入っても問題のないヨウ、改造するべきデしょうか。……いや、必要ガありませンね。ここニ立ち寄らせる必要はナイでしょう」


一瞬止めた手を再び動かし、最後に電子頭脳をサブユニットと一緒に頭部に嵌め込む。

これでヴァクチーネは目を醒ます筈。

後の問題は……――


――ヴン

機械的な起動音と共にずっと眠っていた人形が動き出す。


「私は型式番号V-003/aiシリーズ、自動学習型医療看護マキナのヴァクチーネと申します。現在総合管理システムの管理者が設定されていません」

「システムの管理者……面倒デスね。私を登録しておきマショう」


引き出し型のキーボードを胸部から出し、ぱちぱちと音を立てて入力していく。

そしてヴァクチーネの視線カメラによって埋込式モニターにキニーが認識された瞬間、警報機のような音が鳴り響いた。


「エラー、エラー、重大なエラーコードを確認しました。至急防御システムを作動します」

「オヤ……?」


作業台に座っていたヴァクチーネは立ち上がり、目を赤く点滅させて機械音声で警告を出す。

突然の異変にキニーは首を傾げた。


「オカシイですね……もしヤ、こちらに来ル時にバグでも発生シタのでしょうか?」


悩んでいる暇はないはずなのに、キニーは科学者らしく考察を始める。

ヴァクチーネは腰の小さな収納口からメスを取り出すと手に持ち、キニーに振りかぶった。


「排除シマス」

「だめー!!」


驚きながらも動く気配のないキニー、今にも刺し殺そうとするヴァクチーネ、その腕に何かが飛びついてがぶりと噛んだ。


「!?」

「おじちゃん殺したらめ、なの!これ危ないからエフティが食べるねっ!んー……むむ……ここじゃない……ここだ!」


何が起こったのかキニーには理解し難かった。

刺されればヴァクチーネのエラーとして認識する場所が分かるだろうかと待ったのに、それを阻まれた。

ヴァクチーネの腕を噛んだエフティは一瞬にしてメスをもぎ取りゴリゴリと食べてしまった。

更に腕から離れると太腿に(かじ)りつき、雑にも装甲を齧り剥いでしまった。


「おじちゃん、これ!これ!」


機械相手にはデリケートかつ丁寧な扱いをせねばならないのになんてことを。

そう言いたいのに、エフティは真剣な目つきで剥いだ装甲の中から何かを取り出し、手渡してきた。


「これハ……チップ?」


エフティが無理矢理千切ったように取り出したのは真っ赤なデータチップ。

そしてデータを抜かれたヴァクチーネは……動作を止め、新たな機械音声を発した。


「修正プログラムに異常発生。システムを再起動します」


ぷすん、と分かりやすくヴァクチーネから機能が停止した音がした。


「あれ……ばくちーね、壊れちゃった?」

「イエ、今から再起動するヨウなので待チマしょう」


首を傾げ不安そうな表情を見せるエフティを他所に、ヴァクチーネからは異音が何度か響き、しばらくして起動した。

目や体の一部分が機械的な光を発し、瞬きをする。


「修正プログラム起動します。……50、75、90、95、99……100。修正完了」

「……いかがですか?ヴァクチーネ?」

「……私は型式番号V-003/aiシリーズ、自動学習型医療看護マキナのヴァクチーネと申します。現在総合管理システムの管理者が設定されていません」

「……」


キニーは無言になって再び先程と同じようにキーボードに打ち込み、自身の顔をモニターに移す。

先程は警報が鳴りエラーが発生したが、今度は上手く行ったらしい。

ヴァクチーネはゆっくりと頭を下げた。


「システム管理者が登録されました。初めまして、マイマスター。任務の登録をお願いします」

「コレに関してはオフィーリアの承認が必要ナ気配がシマスが……マアいいでしょう。たまにの貢献をシテおきましょうか」

「おじちゃん、ばくちーね治った!?」

「ええ、治りマシタよ。エフティのおかげデス」

「ホント!?やったあ!」





後日、ヴァクチーネと共に書類がオフィーリアの元に届いた。


「医療看護マキナ……グレイブヤード以外の各町へ派遣……ふうん、なるほどね。面白いと思うわ」


書類にはヴァクチーネについての説明と能力、そしてバグの原因とその解除をエフティが携わったと書かれていた。

オフィーリアは書類を読み終えると小さく微笑み、分厚い本に挟む。


「自身の仕事とヒトの心に亀裂が生じてしまえば異常行動に走る。治療が仕事の機械にはヒトの欲なんて理解できない。赤いデータチップはヴァクチーネの学習装置……機械も大変ね」


くすくすと笑ったオフィーリアはぱらぱらと本のページを捲る。

そこにはエフティの顔写真とプロフィールが載せられていた。


「エフティは中々見どころがある子のようね。キニーのお手伝いが出来るなんて……あの()()()と仲良くなれるなんて思わなかったわ。そういえば……お願いした書類、届いていないわね……?」

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