第九十四話
月が出ていた。
赤くて丸いお月様が。
現実の世界ではもう冬に近い季節だから肌寒い時期のはずなのだけれど。
この異世界ではちょうどいい季節に固定されているのか、薄着の和服でもさっぱり寒くもない。
私は瞳を付きと同じように深紅に染め上げて暗い街の屋根を駆ける。
私の後ろを駆ける輝夜は涼しい顔をして、ついてきている。
いくら異世界人とはいえ身体能力高すぎやしないだろうか。
まぁ、しずくちゃんが作ったキャストだしなぁ……。
普通じゃないのかも。
政宗の屋敷につくと私たちはこっそりと屋敷の庭に静かに下り立つ。
しかし。
「のぞみぃぃぃぃぃぃあああああああああ!! そこに隠れとるのはわかっとるんじゃあああああああああああ!! 出て来いいいいいいいいいいいいっ!!!」
思いっきりバレバレだった。
まぁですよね。
私たちの行動は監視されているようなものなのだから。
変に小細工してもしょうがないか、と諦めて私と輝夜は物陰から身を躍らせる。
そして。
「死にさらせー-----!!!!!」
ドンッという衝撃が腹部に走った。
何が起こったのか分からなかった。
男が持つのは拳銃。
拳銃から立ち上るのは硝煙。
私の喉の奥から鉄の味がする液体が逆流する。
「カハッ……」
そして私は理解した。あ、だめだこれ、死ぬかも。
その続きを考えることもできずに私の意識は遠のいた。
ーーー
「先輩! 先輩!」
ふと気が付くとしずくちゃんが目の前にいた。
「しずくちゃん……?」
ぼんやりした意識の中で私はしずくちゃんに膝枕されていることに気付く。
ので思いっきり私はしずくちゃんの膝を思いっきり楽しむことにした。
スリスリスリスリ。
「ちょ、先輩!! やめて!!」
「いいはないか、いいではないかー」
「お、お嬢様っ!! 何をされているんですか!!」
私が頬ずりする横で和服を着た遥香が鬼のような形相で立っていた。
何故かしおりもそばにいてやれやれといった表情で私たちのことを見つめている。
「久しぶりのしずくちゃんに、えんだあああああぁぁぁぁぁぁ!! してるんやで? ほれほれ、遥香もしおりにえんだーしたいならするといいよ!」
やれるわけがないけどね。
「ぐぬぬぬぬ……」
「遥香、遥香。そこは、『く、殺せ』の方が雰囲気でるよ?」
「そういう話じゃありません!!! このクレイジーサイコレズ!!」
「その辺にしておけ、のぞみ……」
「んな……!! しおり!! HA☆NA☆SE!!!」
「放せと言われて言われて放すバカはいない……。というか、異世界に来てますます馬鹿に磨きがかかったようだな?」
というか、なんでこの世界にしずくちゃんとしおりがいるんだろう?
そもそも私は拳銃で撃たれたような。
そのことを思い出して、お腹の傷口をのぞいてみるとそんな傷がなかったように綺麗さっぱりなくなっていた。
ふむむ……いったいどうなっているんだろう、これは。
縮小更新中ーー-。




