第九十話
姫に連れられてやってきたのはこれまた異世界には似つかわしくない和風建築の城下町が麓に栄えるお城。
行き交う人々も江戸時代の服装をしている。
ああ、これ、『松野竹千代』の『暴れすぎる将軍』で見たやつだ。
お城に入ると、侍たちは頭を下げ会釈する。
姫はご苦労と侍たちをねぎらいながら、スタスタと城の奥へと歩を進めるので私はそれに続く。
城の大広間の面会室みたいなところへやってくると姫はどかっと座り、私にも自由にしていいよと告げる。
私はその言葉に従って、置いてあった座布団の上にちょこんと座った。
そして。
「ステータス、オープン!!」
とりあえず私はそんなことを言ってみるけど、ステータス画面なんて開きやしない。
「ここはそういう異世界じゃないからね?」
姫は私の姿にあきれながらツッコミを入れる。
「ということはここは悪人には人権がない系の異世界? タソガレヨリモクラキ……」
「いやそういう異世界でもないから」
「じゃあ、どういう異世界なの!!」
いきなり将軍とか、聖女が出てくる異世界なんて聞いたことがない!
作者次第で事象がぽんぽん入れ替わる異世界なら、私にだってチート能力の一つや二つあったっていいと思うのだけれども。
「ここは作者が創作したありのままを実現する異界……かな? だから、のぞみ、あなたにはあなたの今ある能力しかないよ」
「……私、あなたに名前言ってないんですけど」
「それもボクの作者がそういう風に作ったってことだよ」
その口調やしぐさを見ていると、ああ、やっぱりこの子はしずくちゃんが作った子なんだなというのがよくわかる。
それにしても、今の私のある能力ね。
それだとやっぱり……。
私は自分の瞳の色を深紅に染め上げながら吸血鬼の能力を開放する。
そして、軽くジャンプして天井に手を付きひらりと舞い降りる。
とりあえず吸血鬼の能力は使えるってことかと確認する。
「へー、それが吸血鬼の能力ってやつ?」
「そ……。多少身体能力が上がったり、相手を魅了できたりする能力。でも使うと、栄養が欲しくなるのが欠点だけど」
「栄養って?」
「そりゃ、女の子と百合百合、したく……」
ぼんやり、と輝夜を見ていると、無性に彼の首筋から吸血したくなる衝動が沸き起こる。
だめだだめだだめだ。
あれは女の子ぽいけど、男の娘!!
私は女の子からしか『存在』は吸わないの!
むしろそれすらも封じているというのに。
でもなぜか、この異世界では私の心の底から吸血衝動が巻き起こってくる。
これは……もしかして、この聖典の世界の力……?
作者の意図しない作用が含まれている、そんな気がした。
ああ、こんな時にしずくちゃんがいればなぁ……と心の奥底から思った。
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