第八十九話
何でこんなことになっているのだろうか。
変な聖典のせいで異世界に飛ばされたかと思ったら、今度はテレビでよく見るマツタケにひっとらえられて。
百合百合はけしからんから腹を切れ?
そんなの死んだって嫌だ。
百合百合が許されない世界なんて滅んでしまへ。
マツタケもこんな異世界で殿様なんかやってないで競馬場でマツタケサンバでも踊ってればいいんだよ!!
まぁそれはともかく。
私は今、この姫と呼ばれた人の胸にお姫様抱っこされていて。
なんというか、私は柄にもなくドキドキしていた。
この可愛いお姫様の胸にこの顔を埋めたい! いや埋める。埋めよう。埋めないでか。
というわけで、縛られた体の身を捩り、無理やり顔を少女の胸に埋めてみた。
ストーン。
あれ……気のせいかな。
もう一回、少女の胸を味わおうとしてみる、けれど。
ストーン……。
「姫って、もしかして貧乳?」
思わずそんな言葉がぽろっと口から出てしまった。
「え?」
森の中を疾走していた姫の足がピタリと止まる。
「いや、ボクは貧乳というか……。男の子なんだけど?」
「はぁぁぁぁぁ????」
私は姫の言葉に思わず、大声を張り上げてしまう。
誰がどう見ても女の子な美少女なのに?
こんなにもフリフリのゴスロリの服を着ているのに?
それが、何で……何で、男の子なの!!!
「いや、だって、マツタケがあなたの事、姫って……」
「マツタケ? 政宗君のこと? ボクは姫だよ。お姫様として育てられた男の子。かぐや姫の輝夜だよ」
「……さいですか」
しかし、この世界は一体どうなっているんだろう。
マツタケは出てくるは、男の娘は出てくるは。
これじゃあ、まるで、『誰か』が仕組んでいるかのような展開ではないか。
ふとそう思い、姫に私はこう問いかける。
「輝夜は何で私を助けてくれるの? 誰かに頼まれた?」
「うん。それがボクの役割だって、作者の人が作ったからね」
やっぱりそうか。
この異世界は外の世界の誰かが作り出した世界。
マツタケはおおかた私が遥香に不埒なことをしようとしたのを見かねてしおりあたりが作り出した存在なんだろうな。
聖女はおそらく、カーミラが製作者。
そして、この姫王子は、きっとしずくちゃんの助け舟。
性別が男の子なのは私が浮気しないようにってことなんですかね。
はぁ……信用無いなぁ。
いやまぁ、その姫王子の胸に頭を埋めようとした私が言えたものではないのだけど。
しかし。
この世界が仮にそういう存在なのだとしたら。
私たちは、外の執筆者のさじ加減で、命運を握られているということになる。
しずくちゃんはともかく、しおりやカーミラなんかだと……。
とりあえず、これ以上、変なことが起きないように願うしかない。
私は自分のこの行く末が混沌としていることに頭を抱えるしかなかった。
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