第八十六話
正直、聖典に日記を記すのは何か間違っている気がするのだが。
とりあえず何を書けばいいのだ?
ふむ、『主』の事を見ながらその行動を書き記すだけでいいと。
それでは、私が、『主』がいかに素晴らしくて崇高な心の持ち主であるということをしたためよう。
アポカリプスが映し出す『主』達の映像の方を見やると、すやすやと木を枕にして眠る主に迫る影が一人。
いうまでもない、入来院のぞみの姿だ。
ミィアとかいう『聖女』もすやすやと眠ってはいるが何か結界らしきものに守られている。
のぞみは『主』の隣に座ると、『主』のたわわな胸にゆっくりと手を置きそのままもみ始めた。
こら、やめろ。のぞみ!!
お前は異世界にきて早々にそんなことをするのか。
お前の脳みそは過度な百合百合に毒されすぎている。
私が見ているのを知っているのか知らないのか、のぞみの行動は次第にエスカレートしていき『主』の体を……。
ああああ! もう見ていられない!
「アポカリプス。この不埒ものに天罰を下すことはできないのか?」
私は淡々と物語を紡ぎ続けるアポカリプスに問いかける。
「あー、ほんとはなー。その世界の理が崩れるからやっちゃいけないんだがなー」
「私の目の前で、一番、理を崩しているのはのぞみだと思うぞ」
「我もそう思う。なので、この世界に干渉することを許す。やってしまえ」
「やってしまえと言われても、具体的に何をすればいいのだ?」
「我は物語を綴る聖典。故にそこに起こるであろう天罰を書き記せばいいのだ」
「ふむ……それでは」
私はアポカリプスの空白欄に、異変に気付いた『主』がのぞみに天誅を下す、と書き記した。
しかし……。
「何も起こらないではないか」
アポカリプスの中でのぞみは『主』の体を味わい尽くし、『主』は快感のあまり気を失っていた。
「我はあの異世界では万能であって、あの世界の異物である者には干渉できないぞ?」
つまりどういうことだ。
私の書き方が悪かったのか。
それでは、こうだ。
『主』の肢体を味わっているのぞみの前に突然白馬に乗った和服の男が現れる。
「そこの不埒もの、余の顔見忘れたか?」
「いや、そんなこと言われてもあなたの顔は……って、あれ? マツタケ?」
「マツタケなどではない! 余は将軍・政宗なりっ!!」
「やっぱマツタケじゃん……」
言いながらジト目で政宗のことを見つめるのぞみ。
「でも、何でこんなところにマツタケが?」
「余はマツタケではないと言っているだろう!!」
政宗は懐の刀を抜き放ち、のぞみの喉元にその刃を突き付ける。
「ちょっと、タイム、タイム。暴力反対ー」
「こんなところで女子供が何をしていた」
「いや、ちょっと異世界転移? とかいうやつでして」
のぞみは冷や汗をたらしながら両手を上げ弁解をする。
「貴様な不埒な行動、目に余るっ!!!」
いいぞ、政宗。そのままのぞみに天誅をくだしてしまえ。
「いや、ちょっと、待って!!!」
刀を振りかぶった政宗を見たのぞみは一目散にその場から逃げ出した。
うむ。
これで、『主』の安全は守られたな。
「ちょっと、しおり!! これじゃ先輩と遥香先輩バラバラになっちゃったじゃない!!」
何か背後から苦情が聞こえたが気にすることはない。
『主』の貞操が守られればそれでいいのだ。
よろしく頼むぞ、異世界の政宗。
のぞみのことは知らん。
あんな不埒者は異世界の厳しさに打ちひしがれるがいい!
休みは少し多めに書きますorz




