第八十三話
『聖典』アポカリプス。
のぞみ様たちは、あれはミィアの腹話術か何かだと思っているようだけれど。
あの本には、実際に意思がある。
自律行動も行うし、その本を手に取った人間の精神干渉までしてしまう、わりと厄介な代物だ。
そして、『聖典』アポカリプスにはそれ以上にひたすらめんどくさい、機能が備わっている。
それはーーー。
ーーー
「いたたた。何なの一体」
「いきなり朝からミィアさんが屋敷にやってきて、本を開いて魔法を使ったと思ったらこれですか」
私と遥香は屋敷の門の前にいたはずなのに、気づいたら鬱蒼とした森の中に落下していた。
もろに、おしりから。
草が生えてなかったらおしりの骨が折れてたと思う、きっと。
「それで、この状況は一体なんなん」
「さぁ……私にも理解しかねます」
まいったなぁ……。とりあえず人がいそうなところまで移動するかなと思い、遥香とともに手に手を取りあい前に進む。
こういう時こそ、百合百合のチャンスなのだけれど、さすがに私は実行には移さない。
だって、何が起こるかわからない場所でそんなことしてたら、万が一ってこともあるからね。
一時間ほど歩いてやっと人里と呼べるところまでやってきたけど、住んでいる人たちは皆、中世の田舎町の質素な暮らしを営んでいるような感じだった。
何これ、異世界転移? 異世界転生? 私達どうなっちゃったの!!
『その問いの答えは我が答えよう』
混乱している私たちの脳に直接声が響く。
ミィア(腹話術)の声だ。
「ミィア!! こんなわけのわからないことして、私たちを元に戻しなさい!!」
私は空に向かって激昂する。
『だーかーら、我はミィアではない。『聖典』アポカリプスだ』
「どっちでもいいから元に戻して!」
『よくないわっ!! それにお前たちはもう一生その世界の住人だ』
「え……どういうこと……」
思いもよらぬ言葉に私は空を見上げたまま呆然とする。
『『聖典』アポカリプスの作り出した世界から抜け出す方法はお前たちにはない』
「フフフ。そう、この私がそのように『聖典』アポカリプス・最終頁『ネバーエンディング』を発動させましたから」
「あ……そう……」
私たちの後ろから偉そうな声音で語りかけてくる銀髪少女がいた。
私たちに魔法をかけた張本人のミィア=S=レフィルだ。
「で、なんでその『ネバーエンディング』とやらを使った本人がここにいるわけ?」
「……巻き込まれました」
銀髪の少女は今にも泣きだしそうな顔でポツリと言葉を紡ぐ。
「は?」
「魔法使ってたら、カラスにつつかれて、気づいたら私もこの世界に飛ばされていたんです。悪いですか!!」
「いや、まぁご愁傷様……。で、元の世界に戻る魔法とかは?」
「知りません!」
私たちはジト目で銀髪の聖女を見つめながら、使えないなぁこの聖女と思うしかなかった。
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