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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
序章 『吸血姫様』は―――
8/100

第八話

 ぼんやりと数学の授業を頬杖をついて受けていると。


 ふよふよとしずくちゃんが教科書の上に降りてくる。



「はー……人間ってほんと、めんどくさいこと勉強してるよね……」


「まーねー……こういうのって社会に出てもあんまり役に立たないしね……」


「それでも勉強するなんて馬鹿なんじゃないの?」



 消しゴムの上に座ってしずくちゃんはかるくため息をつく。


 まぁ確かに馬鹿な行為なのかもしれないなぁ。



「そういえばしずくちゃんっていくつなの?」


「ん~……? 女の子に年齢聞いちゃうかー……」


「いや、だって気になるじゃない?」



 私の言葉にフッと目を細めてしずくちゃんは笑う。



「まぁ先輩より数倍年上とだけ言っておくよ」


「そうなんだ」



 全然そんな風に見えないし、昨日触った肌はももちもち肌だったのになー。


 あんなにぴちぴちで私より年上なんだ。


 ……これが俗に言うロリババアか……。



「先輩。今すごく失礼なこと考えてるよね?」


「そ、そんなことないよっ!」



 思わず声が上ずってしまい、小声だったのが少し大声になってしまう。



「い、入来院さん。どうしたんですか?」


「あ。いえ、何でもないです……」



 私の返す言葉に教室中からくすくすと小さな笑いの渦が巻き起こる。


 その様子を遥香は私がまた何か妄想していたんだろうな的な顔をしてため息をついていた。


 うう……妄想はいつもののこととはいえちょっと恥ずかしい。


 授業が終わった後。


 遥香がゆっくりとやってきて声をかけてくる。



「今日はまた盛大に妄想をぶちまけてましたね、お嬢様」


「……」



 私は断じて妄想をぶちまけてなどいない。


 私は今、遥香の目の前にふよふよ浮いているしずくちゃんに声をかけていたのだ。


 決して独り言などではないのだ。


 なのに……。


 それなのにっ。


 しずくちゃんは私の気も知らずに教室中見回す様にこっちにふらふら、あっちをふらふらと飛び回っている。


 ほんと、しずくちゃんって自由だなぁ……。



「ちょっと、お嬢様。聞いてるんですか?」


「はいはい、聞いてます、聞いてますー。妄想は程ほどにしときますー」



 私はサクっと300メートル超えそうな勢いの投げ槍を脳内でしながら遥香にそう告げる。


 その言葉にため息をつきながら遥香はぶつくさと文句を言いながら席へと戻って行った。


 まったく文句を言いたいのはこっちだっての。


 いいよね、この私の視界を縦横無人に楽しそうに飛び回る眷属ちゃんが見えない人は。


 しばらく教室内をふよふよさまよっていたとしずくちゃんは私に囁く。



「もうこのクラスの半分くらいは偽人(ぎじん)になってるね」


「……え……」



 そんな馬鹿な。


 私がこのクラスになって一週間も経っていないのに。


 クラスの半数が人外だなんて……。



「とりあえず、あの子とあの子とあの子。彼女達はまだ人間だから誰かと仲良くなるならあの子達が良いかもね」



 ふよふよとさ迷っていたしずくちゃんは私の目の前に来ると少女達を指さしながらニマニマと笑みを浮かべながら囁いてくる。



「え……誰かと仲良……く……?」



 ちょっと待って。



「私にそんなコミュ力はないのだけれども?」


「何言ってるの? 先輩には『魅了』の眼力が備わったんだからお友達なんてちょちょいのちょいだよ」


「そういうもんなの?」


「そういうもんだよ」



 ふぁ~と一つ欠伸をつくとしずくちゃんは消しゴムの方へふよふよと飛んでいき。



「ただし『魅了』の力を使いすぎないようにね」



 そう呟いて消しゴムを枕にするとあっという間に居眠りを始めた。


 ……ほんと、自由だなこの眷属ちゃん。


 はぁ……どうするかな。


 とりあえず放課後あたりに試してみるかな。


 うん、そうしよう。


 そして放課後―――。



「お嬢様。今日はどうなさいますか?」



 いつもの様に遥香が席までやって来て問いかけてくる。


 そのまま遥香と屋敷に帰るのか、それとも校内をぶらぶらして帰るのかというという問いかけだ。


 教室中を見回すとクラスメイト達も部活に行こうとしている姿、仲の良いもの同士で談笑している姿、今日の勉強の復習をしている姿、人それぞれだ。


 私の場合、昨日までだとしずくちゃんを見つけに行くという日課があったのだけれど。


 その当の本人は私の消しゴムを枕にすやすやと寝こけている。


 はてさてどうするかなぁ……。


 まぁちょっとしずくちゃんの言っていた『魅了』の力とやらも試してみたいし、学園の中をぶらぶらしてみようかな。



「ちょっとふらふらしてから帰るから先に帰ってて良いよ」


「そうですか。それではお先に失礼します」



 ペコリとお辞儀をして遥香はさっさと教室を出ていく。


 さてっと……。


 私は教室の一角で黙々と勉強をしている少女の方へと歩いていく。


 しずくちゃん曰く、まだ普通の『人間』だという少女、ショートカットの髪の毛にメッシュを入れているボーイッシュな外見の多良見飛鳥ちゃんだ。


 私が席のすぐ傍にやってくるなり飛鳥ちゃんは勉強をしている手を止め、不機嫌そうな顔で私を見つめる。



「どうしたんだい? 私に何か用? 入来院さん」


「え……っと」



 うーん……用はあるっちゃあるんだけど。


 こういう時、会話を始めるきっかけって難しいんだよね。


 コミュ障お嬢様はどうすれば良いのかよく分からないのだ。


 むー……。



「何も無いんだったら、他所に行ってて欲しいな。これでも勉強が忙しいんだよ」



 言いながら飛鳥ちゃんは手に握ったペンをクルリと回す。


 不機嫌そうな顔でまた教科書に視線を移そうとする前に。



「そ、それだったら、分からないところ私が教えてもいいよっ!!」



 そう口が勝手に言葉を紡いでいた。


 その言葉を聞いて不機嫌そうだった顔が微妙に緩み。



「そうかい? それならよろしくお願いするとしようかな。お嬢様」


「は……はい、喜んでっ!!」



 私は緊張しながらもなんとかクラスメイトとのファーストコンタクトに成功するのだった。



 カチカチカチ。


 時計の音が時間を刻む。


 私は飛鳥ちゃんの勉強の面倒を見始めてしばらく時間が経った。


 はじめは物珍しそうに私の姿を見ていたクラスメイト達もそうすることに飽きたのか、いつの間にか教室には私と飛鳥ちゃんの二人だけになっていた。


 よし……『魅了』の力を使うなら今がチャンスかもしれない。


 そう思い、私は飛鳥ちゃんに声をかける。



「あ、飛鳥ちゃんっ、私の眼をじっくり見てっ」


「ん?何……だ……い……」


「飛鳥ちゃん。私の事、好き?」


「……うん……もちろん、大好きだよ?」



 虚ろな瞳で飛鳥ちゃんは私の事を見つめながらにっこり微笑む。


 おー……まじだ。


 これが『魅了』の効果。


 吸血鬼のスキルすごい。


 飛鳥ちゃんの虚ろな瞳を見つめていると。


 ドクン―――。


 心臓の鼓動が脈打つのを感じる。


 ドクンドクン―――。


 何これ。


 何これ何これ……。


 飛鳥ちゃんの瞳を見ていると自分が自分でなくなってしまいそうな。


 私が私でなくなっていく。


 そんな感覚に陥っていく。


 白い肌、柔らかそうな首筋。


 駄目だ……駄目だ……。


 そう思えば思うほど。


 自分の意識とは関係なく、体が勝手に動いていく。


 そして、私の意識はブツリとそこで途切れた。



 ―――



 カチカチカチ。


 夕日のさす教室の中で。


 のぞみたち以外誰もいない教室で。


 のぞみは教室の床に押し倒したクラスメイトの少女の首筋に自分の牙を突き立てていた。



「あ……あ……」



 牙を突き立てられた少女は制服の前を開けさせ、虚空を見つめながらのぞみにされるがまま呻く。


 おいしい。


 おいしいおいしい。


 おいしいおいしいおいしい―――。


 半裸姿の少女の体を。


 血の気のひいている少女の肢体を両の手の平で堪能しながら。


 のぞみは少女の紅い血を呑み干していく。


 少女の首筋から延びる紅い鮮血を舐める。


 のぞみの薄いピンク色の唇が紅く紅く染まっていく。



「―――気が済んだ?」



 静まり返った教室に、凛としたしずくの声が響き渡る。



「それ以上すると、その子の存在まで消えてしまう―――」



 存在?


 そんなもの関係ない。


 ワタシのこの快楽を邪魔するものはどんなものにも邪魔させやしない。


 それが誰であってもだ。


 牙を突き立てた少女をのぞみはまるで物のようにゴトリと床に降とし、幽鬼の如く立ち上がる。



「はぁ……まったく。『しおり』だけでも面倒なのに自分の力を制御できないご主人様を持つと気苦労が絶えないね……」



 そうしずくは呟くと手のひら大の大きさの体を人間サイズに変化させ、瑠璃色の刀を掌に召喚する。


 そして。


 逆刃に持ったその刀から目にもとまらぬ一閃を放ち、血に濡れたのぞみの体を一刀の元に斬り伏せた。


 ガクリとのぞみは膝をつき血に濡れた半裸の少女の隣に倒れる。



「こんなんじゃ先が思いやられるなぁ……」



 そうため息をつくとしずくは再び体を手のひら大の姿に戻し、のぞみの机の上の消しゴムの上に腰かけ。


 この血にまみれたのぞみ達の惨状はどうしたものか。


 ぼんやりとそんな事を考えたりもしたが、その辺は目を覚ましたのぞみがなんとかするだろう。


 そう思い急速に襲って来る眠気にしずくは身を委ねることにした。

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