第七十八話
あの『聖女』は堕落していた。
類まれなる才能を持ちながらも。
類をみないめんどくさがりの性格でその才能を存分に発揮することは一度もなかった。
そもそも問題、あの『聖女』には信仰心というものが欠如しているのだ。
だから、始祖の封印を続けることを怠ってしまったり、組織の命に背いて『吸血鬼』の傘下に加わったりするのだ。
全ては自分の快楽のため。
自分自身の生活のためにしか動いていない。
そんなの『聖女』として間違っている。
『聖女』はかくあるべきだと示さなければならない。
銀髪の少女はそんな思いを胸に組織の部屋を後にする。
私がーーー。
私こそが、『聖女』の名に相応しいーーー。
そんな想いを胸に秘めて。
小さな少女は、元『聖女』のいる日本の国への切符を手に、母国を後にした。
ーーー
「えー……申し訳ないですが、陽性反応ですね」
「は?」
少女は目を丸くして検疫官に問い直す。
「いや、だから。PCR検査、陽性判定です」
「私、発熱なんてしてないし、ワクチンも二度接種してーーー」
「それでも陽性なものは陽性なんで。陰性になるまでホテルで療養してください。一歩も部屋から出てはいけませんよ?」
少女を腫物を扱うかのように検閲官はしっしと手を振り近づかないように指示する。
検閲官の連絡で衛星班も到着し、なおも納得がいかないと暴れる少女を拘束して引きずっていく。
「なんなのこの国はー----!! どこがおもてなしの国なの!!! 全然違うじゃない!!!!」
そんなことを少女は喚き散らしながらも、衛生班に連行されてホテルに隔離されてしまった。
「なんもやることがない……」
隔離されて一週間。
少女は窓の外で舞い落ちる木の葉を見つめながらつぶやく。
毎日PCR検査をやるのだけれど、来る日も来る日も陽性判定。
しかし、自分にはまったくもって自覚症状はでやしない。
私のPCR検査キット壊れてるんじゃないの? と思ってしまうくらいだ。
こんなことなら、組織にVIP待遇で入国できるように一筆書いてもらえばよかったと後悔する。
少女は元『聖女』とは違い、何より堕落を嫌っていた。
だから、忖度なんてものも大嫌いで、そんなことをされるくらいなら自分の実力で解決する気概の持ち主だった。
しかし、自分がこんなところで隔離されているのも時間の無駄だ。
今から母国の組織に連絡して自由の身にさせてもらうことは可能だろうか?
「いやいや、私は、ぼったくり男爵とは違うんだから」
ちらりと浮かんだ考えを隅に追いやりながら。
少女は窓の外の光景をみつめながら、ふうっとため息を漏らす。
小さな『聖女』が自由の身になるのは。
それから更に二週間経ってからだった。
縮小更新中です。すみませんorz




