第七十五話
今日は珍しく早朝に目が覚めてしまい、小腹もすいているので何かないか居間のほうへいくと。
朝っぱらから一人熱心に時代劇を鑑賞する『眷属』が一人。
「しおり、あんたちゃんと寝てるの?」
「寝ている。そういうのぞみの方こそ何故こんな時間に」
テレビから視線を逸らさずにしおりは私に問うてくる。
「私はちょっと目が覚めちゃってーーー」
「それはそうと何でおまえはカーミラのことを助けたいと思ったのだ?」
「んー……まぁクソ生意気で可愛げないけど……同じ『吸血鬼』だし。『従者』もいないしね」
「それで、情けをかけたと。のぞみ、お前は弱いな……」
しおりはテレビと向かい合いながら淡々と告げる。
「お酒を飲みたいからお酒を飲むのと、人を助けたいから人を助けるのと何が違う?どっちも欲望に負けているのだ」
まぁ確かにそういうものなのかもしれない。
「弱いんだよ、心が。困ってる人を放っておけない。私のこともカーミラのことも見捨てることも見殺しにすることもできない」
「しおりは私に見捨てられたかった?」
「どうだろうなーーーあの時見殺しにされてたら、今のこの時間はないのだから一概には言えないな」
しおりはこちらを振り向きもせずに自嘲気味に笑みをこぼす。
私は心が弱い。
それは間違いない。
女の子と百合百合したいし、仲良くしたい。
でも、その一歩を踏み出す勇気がいまだに人見知りという弱さが邪魔してる。
百合百合できるのは仲のいいほんの一握りの人間だけ。
だから私は、弱いと思う。
しおりの言うとおり、困ってる人を放っておけないのも弱さだというのなら。
でも、それはそれでしょうがないのかな、とも思う。
私は、困ってる人を放っておけるほど強くはないのだから。
一人で考え込んでいる間。
私たちの間には時代劇の音声だけが流れている。
なんかつまみ食いするために来ただけなのに、妙に重っ苦しい話になってしまった。
とりあえず明るい話題でも振ってみよう。
そう思い立ちしおりに声をかける。
「そういえば、しおり、今年の紅白にマツタケがマツタケサンバで出るって」
「しらん」
「えー、一緒に見ようよー」
「松野竹千代はマツタケなどではな……い」
『オーレーオーレー松牛サンバー、オレイ!!」
時代劇が終わりCMに入るとマツタケが牛丼をもってマツタケサンバの替え歌を歌い始めるのをみてしまった。
しおりは無言でテレビの電源を消し。
なんだか泣きそうな顔をして、居間から出て行ってしまった。
マツタケサンバ、そんなに嫌いなのだろうか。
好きな俳優さんの曲なのに。
好きな俳優さんが芸人みたいなことをしていることが許せないってこともあるのかなぁ。
よくわからないけれども。
そんなことを思いながら、私はすっかり空腹のお腹を満たすためにおやつを見繕い始めた。
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