第七十四話
ひらひらと黄色い葉っぱが舞っている。
イチョウ並木の舞う中で。
一人の幼女が木々の合間を駆け抜けながら。
少女に向かって無邪気な声をあげている。
私たちはその無邪気な声に辟易としながらも幼女のかけていったほうに歩を進める。
季節も進み、街中で流行っていたコロナもぱったりと感染が途切れ、緊急事態宣言は解除されたのだ。
なので、私たちは、近所の並木道を散歩するため外に繰り出したというわけである。
「それで、お嬢様はカーミラと『主従』関係を結んでから体の体調は?」
並木道の下、隣を歩く遥香は私の顔色を伺いながら心配そうな声音でたずねてくる。
「んー、カーミラに『存在』持ってかれるかと思ったけど、逆に増えてるぽいんだよね、しおり曰く」
「それはそうでしょうね。それこそが『始祖』と『契約』した証、なのですから」
遥香と反対隣りを歩くローレライさんは意味深にその言葉を口にする。
というかようわからん。
『吸血鬼』と『眷属』が百合百合すれば、どういうしくみかしらないけど、『存在』が回復するのは分かった。
でも私とカーミラは『主従』関係を結んだとはいえ、『吸血鬼』と『吸血鬼』だ。
それでは『存在』は回復させることはできないのではないだろうか。
「そう思うでしょう? でも違うんですよ。説明するのはめんどくさいんですけど」
いやいやいや、そこはきっちりと説明してほしいものなのだけれど。
今後の私たちにかかわることなのだし。
「しょうがないですね。長くなるから一度しかいいませんよ、めんどくさいですし」
「はいはい、わかりました、お願いします」
どうせ一回しか説明する気もないくせに何言っているんだか……。
私は投げやり気味にローレライさんに教えを乞う。
「カーミラは『始祖』と呼ばれる『吸血鬼』です。それは知っていますね」
「まぁ、それくらいなら」
だから、私たちみたいな普通の『吸血鬼』を下に見てる節があるのだけれど。
「今まで『始祖』は長年多くの『眷属』と『契約』を結んできました。でもカーミラの出奔でその『契約』はなくなった」
それはカーミラもなんか言ってたなぁ。もうカーミラと契約している従者はいないとかなんとか。
「その長く続いた『契約』関係がガバガバになっているところで、新しい『契約』を結んだらどうなると思います? しかもそれが『吸血鬼』との契約だったら?」
今までにない状況に加えて、今までにない『契約』を加えたことで、カーミラの契約状態に変容をきたした……んだろうか。
おそらくだが、今のカーミラは『吸血鬼』であり『眷属』でもある状態。
だから私と百合百合することで『存在』が回復するし、私も『存在』が回復するっと。
「まー、そんなとこですね。私にもその辺詳しくはわかりませんけど。『聖女』ですし」
「『聖女』は『吸血鬼』には詳しいんじゃナインデスカー?」
私は棒読み気味にローレライさんに抗議するが彼女から返事はもうない。
説明することはしつくしたということなのだろう。
並木道の向こう側ではカーミラに手を引かれながら困ったような笑顔でほほ笑むしずくちゃんの姿があった。
「ま、私たちの『存在』がこれ以上減らなければどうでもいいんだけどねーーー」
そう、もうこれからは深い『眠り』におびえて暮らすことはないのだ。
だから、これからはもっと未来のことを見て生きていこう。
とりあえず、目先の課題は受験とか。
そう考えると別の意味で胃が痛くなるのを感じてしまうのだけれども。
ま、しょうがないよね。
私は良家のお嬢様なのだから。
受験くらい、軽くこなして見せますよ、ええ。
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