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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
序章 『吸血姫様』は―――
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第七話

「はー……お嬢様の我儘は今に始まった事ではありませんけど、しょうがないですね」



 そんな事を言いながら遥香は学園の帰りに寄ったおもちゃ屋で買ったドールハウスの箱を開封する。


 遥香はしばらく私の机の上の端を少し片づけて、机の上にドールハウスをセッティングした。



「それにしても、なんで今更ドールハウスなんですか? もしかして妄想だけに飽き足らず、お人形さん遊びにまで目覚めたんですか?」


「あ……あははは……そんなとこ……かな……?」



 決してそんなことはないのだけれど、そう言っておいた方が話がややこしくなくて良いので話をあわせておく。


 そして、適当に見繕って買ったお人形をドールハウスの椅子に座らせる。



「それでは、お人形遊びで妄想も程ほどにして、早くお休みくださいね」


「はいはい。おやすみおやすみ」



 言いながらしっしと小五月蠅いメイドを追い払う。


 遥香が部屋から出ていったと同時に。



「はー。これだよこれ。ボク、こんな家に住んでみたかったんだー」



 背中に羽を生やした手のひらサイズ大のしずくちゃんが、ふよふよと私の頭の上からドールハウスに飛んでいきソファーにダイビングする。


 しずくちゃんの提案とは、これからともに当分の間、私と同居する事。


 この手のひらサイズ大の姿が本来の姿で、普通の人間には知覚することはできないらしい。


 なので、学園から家に帰宅する間、ずっと私の頭の上にへばりついていたしずくちゃんに遥香は気付くこともなく私に付きしたがっていた。



「今まではどうやって生活してたの? しずくちゃん」


「基本的にその辺の空き家で段ボールハウスを作ったりして生活してたね」


「そんなんで学園にはどうやって入学したの?」


「『魅了』の力を偉い人に使ってちょちょいっと。でもちょっと力を使いすぎたし、先輩っていう権力のある宿主をみつけたからもう人間の姿で学園に通う必要はないかなー」


「もしかして私ってしずくちゃんに良いように使われてる?」


「そうともいう」



 しずくちゃんは悪びれもせずにソファーに寝転がって自分の体より大きいおやつのドーナツにかぶりつく。



「あーこのドーナツすっごく美味しい。これが上流階級の味……」


「あ、それ私のお夜食なのにっ!」


「いいじゃない、先輩。ボク、夕飯食べてなくてお腹ぺこぺこなんだよ」



 ドーナツを頬張りながら幸せそうな顔でむしゃむしゃと自分より大きなドーナツを食していく。



「それで……これからどうするの?」


「んー……当分は相手の出方待ち。先輩の周りで何が起こってるのかも、もっと詳しく知りたいし」


「そうですか」



 まぁそれはそれでいいんだけど。


 私も自分の身の回りで起こっている事象が何なのか詳しく知りたいし。



「ところで、しずくちゃん、人間サイズになって、またあんな事やそんな事させて欲しいなーって……」


「え? あれはあの時、先輩が能力を使いすぎてたから緊急的にボクが力を分け与えただけだよ。それも無限に出来る事じゃないから、あんまり期待しないで」


「え……? そうなの?」


「そうなの。ボクは『しおり』と戦わないといけないからできるだけ省エネしたいしね」


「そんなー……」



 可愛いしずくちゃんと毎日あんなことやこんなことができるって内心ほくそ笑んでたのに。


 本当にお人形遊びで妄想しなくちゃならないとは……。


 なんだかすごく騙された気分……。


 しずくちゃんに抱いた恋心も段々としおれてくると言うものだ。



「はぁ……」



 私が軽くため息をつくのを見てか。



「でも……先輩はボクのご主人様なんだから、ボクだけを見ていて欲しいな……」



 白い素肌を真っ赤にしながらしずくちゃんは私を見上げていた。


 その瞳は潤みを帯びていて……。



「……それってどういう……」


「あー、先輩。おやつは今度から、『たけのこの薮』をお願い。できればお徳用12パックで」


「……」



 おもいっきりはぐらかされた。


 しかもなんかおもいっきり使いっパシリにされてる感が満載だ。


 はいはい良いですよ、わかりましたよ。『たけのこの薮』ですね。


 間違って『きのこの森』を買ってきたら戦争が起きるんでしょうね。



「ま、そんなわけで明日からよろしくねー、先輩」



 そう言ってしずくちゃんはドールハウスのベッドの中にもぞもぞと潜り込んでいった。



「はいはい。よろしく、しずくちゃん」



 はぁ……なんか奇妙な共同生活が始まったなぁ……。


 そう思いながら、月明かりが窓から指す部屋の中。


 すやすやと寝息を立てはじめたしずくちゃんの顔を人指し指でつついて見つめる。



「おやすみなさい、しずくちゃん」



 ―――


 ジリリリリリリリリ……。


 けたたましい音が部屋中に鳴り響く。



「うっさーーーーーーいっ!!!」



 大きな声が響くと同時にジリリリとなる目覚まし時計が夢見心地な私に向かって飛んできた。


 そしてゴツンと鈍い音を立てて私の頭に直撃する。


 あうっ。



「ちょっと……しずくちゃん。めっちゃ痛いんだけど」


「そう言われても、五月蠅いものは五月蠅いし」



 フンッとそっぽを向きながらふよふよと私の目の前にしずくちゃんは浮いている。


 はぁ……まぁいいか。


 とりあえず制服に着替えよう。


 私は姿鏡の前に立ちゆっくりと下着姿になっていく。


 そして制服姿に着替えてゆく。


 あー……この絶対領域ラインがたまらない、じゅるり。



「思ったんだけど……先輩ってかなり変態だよね」



 私の行動をふよふよと浮かんで見つめていたしずくちゃんがそんな事を告げる。


 た、確かに私の行動は人とはちょっと違うのは理解してるけれどっ。



「へ、変態じゃないよーーーっ!!!」



 涙目交じりにそうしずくちゃんに抗議の声を上げる。



「何を今更なこと言ってるんですか。しかも独り言なんて気持ち悪い」



 いつの間にか部屋に入ってきていた遥香がジト目でそんなことを言ってくる。


 この乳でかメイドめっ。


 私はスススっと遥香の背後に忍び寄ると遥香のお胸を命一杯揉みしだく。



「私を変態っていう胸は、このお胸かっ」



 ふかふかふかふか。


 私は思う存分遥香の体を弄ぶ。



「いや……ちょっと、お嬢様っ……そんなとこまで触らないで……」



 ぐへへへ。


 あー遥香の香りは薄っすらと石鹸の香りがしてホントいい香りだなぁ……。


 この両手にフィットするお胸も揉みやすくて心地いい。



「ひくわー……」



 そんな私達の様子を見つめながらしずくちゃんは思いっきりひいていた。


 へんー……そんなこと言われても私は女の子の肢体が大好きなんですー。


 だから命一杯この小生意気なメイドの体を味わい尽くすっ。


 ふかふかふかふか。


 さわさわさわさわ。



「お嬢様、もう、止めっ……んッ」



 抱きしめていた遥香の体が軽くビクビクと跳ねるのを感じる。


 あ、あれ……?


 もしかしてイっちゃったかな?



「めっちゃひくわー……」



 しずくちゃんはそんな言葉を残してふよふよとドールハウスの方へ飛んでいった。


 遥香が涙目で部屋から出て行った後。



「毎朝、こんなことしてるの、先輩……?」



 ドールハウスのテーブルに頬杖をついてジト目でしずくちゃんはそう問いかけてくる。



「いやー、いつもはもうちょっと軽くスキンシップくらいなんだけど。今日はやり過ぎちゃった、てへぺろ」


「スキンシップね……」



 はぁっと小さくしずくちゃんはため息をつくとふよふよと私の目の前にとんでくる。



「先輩って、コミュ障なのにすごくエロいよね……」


「お、女の子の体が私の理性を狂わせるんだよっ!!」


「それ、全然言い訳になって無いからね……」



 ピンと私の鼻頭をデコピンすると、しずくちゃんは私の頭の上にへばりついた。


 そこが彼女の定位置であるかのように。



「とりあえず遥香先輩に謝りなよ?」


「はーい……」



 そんなしずくちゃんと会話を交わしながら自室を後にした。


 部屋を出て居間に行くと顔を真っ赤にした遥香が居たのでとりあえず先程の事を詫びることにする。


 遥香は私の謝罪にもう良いですからと言って真っ赤な顔をして朝食を胃袋におさめていた。


 私は何だかちょっと居心地の悪さを感じながら遥香と共に朝食をともにする。


 しずくちゃんも私の陰に隠れて私の食事のおこぼれをパクついていた。


 そして、お互い顔を見つめることすらできず私と遥香は居辛さを感じながら無言でマイカー通学をする。



「こんな居辛いことになるなら、あんなことしなけりゃいいのに」


「うぐ……ごもっともでございます……」



 私の頭にへばりついているしずくちゃんの言葉に小声で私は同意するしかなかった。

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