第六十話
私の名前は姶良遥香。
日々、お嬢様の表に出せないような痴態を書き記すモノ。
『一発逆転を狙って勤務中になろう小説を書いていたら首になった。復職を懇願してきたってもう遅い』なんてものは書いていない。
お嬢様の痴態全集を出せばワンチャン売れるかもしれないなと思ったりもするけれど。。
今日の日記といえば、今日も私はカーミラの精神干渉の音色に抗することができず、お嬢様に非礼な振る舞いをしてしまったらしい。
その時のお嬢様の痴態もいずれ書き記しておこうと思う。
しかし、日に日にカーミラの精神干渉の使用率は上がってきている。
ローレライさんがカーミラを眠りに堕としてくれるとは言ったものの。
あれから、ローレライさんからメールの一通もきやしない。
めんどうくさがりの彼女の事だ。
彼女の事はあまりあてにはしない方が良いのかもしれない。
カーミラの精神干渉が非常にやっかいな所は音色を使って干渉してくる点だ。
お嬢様や私のように視覚を使った精神干渉ならば、単純にその瞳から視線を逸らせばいい。
しかし精神干渉の音色はそうはいかない。
声、音楽、ノイズ。
カーミラは様々な音に干渉して精神干渉を飛ばしてくる。
それらの干渉を防ぐには、それこそ音の伝わらない真空に行くくらいしかない。
そんなとこ行ったらまず死にますけどね、確実に。
ぼんやりとノートパソコンを打鍵しながら。
「しおり達はどうやってカーミラの精神干渉ふせいでいるの?」
ふと疑問に思い傍に寄りそう小さな『眷属』に問うてみた。
「私達はカーミラの言葉はなるべく聞かないようにしていますね。それだけで消耗する『存在』は大分減らせます」
「言葉を聞かない……ね……」
直接カーミラと接点がないならそれでもかまわないだろう。
しかし、私はメイドであって、世話もしなければならない。
カーミラの話を無視するわけにはいかないのだ。
「『主』。正直な所、カーミラは危険すぎます。今のうちに手を打っておいた方が良いかと」
「―――そのつもりなのだけどね」
肝心要のローレライさんから連絡がこない事にはどうしようもない。
『聖女』頼りというのもなんとも癪に障る話ではあるのだけれど。
私達にはカーミラに抗する術がないのだからしょうがない。
しかしあの『聖女』様は今頃一体何をやっているのやら……。
めんどうくさがりながら日本観光をエンジョイしてるんだろうなぁ。
はー……。
私は重苦しいため息をつきながらノートパソコンで調べものを続ける。
その様子にさすがにしおりも不安になったのか。
「『主』。今日は休まれた方が」
「いえ、もう少ししたら休むから気にしないで」
そう告げると私は打鍵を続ける。
「そういうしおりも早く寝なさいな。明日も早いのでしょう」
「はい……それでは。『主』も早く休まれてください」
しおりは私にそう言ってふよふよとドールハウスの方へと飛んでいった。
さて……もう一仕事しますか。
ティーカップで紅茶を啜った丁度その時。
ピロン。
タイミングよく、メールが一通着信した。
まるで、私が一人になるのを見計らったかのように。
いやおそらく―――。
私が一人になるのを待っていたのだろう。
とりあえずメールのタイトルを見てみると。
『ハロハロー? 可愛い可愛いメイドさんへ』
私は無言でそのメールをゴミ箱に移動させてそのまま、レジストリから消去してあげた。
『聖女』と私はこんなに親しい間柄ではないのだ。
そんな事を自分で納得しながら、画面を見なおして作業をしていると再び着信。
『だーかーらー!!! なんでそんなことするんですか、めんどくさい!!」
いや、めんどくさい絡み方してきたのは、あなたの方じゃないですかと思いながら。
再び、そのメールをゴミ箱に突っ込もうとしたが。
『やーーめーーてーー!! いちいち打鍵するのも、めんどくさいんですから!!!』
なんてメールが即座に来たので、しょうがなくメールの内容を見てあげることにしてあげた。
そしてメールにはこのような内容が書いてあった。
『とりあえず、次の日曜日に公園にカーミラを連れ出してください』
……それだけ?
たったそれだけの事を打つのもめんどくさいのだろうかとか。
カーミラに対する対策とか書くことあるのではないだろうかとか。
何でそれだけの事の為にこんなにも時間がかかったのかとか。
言いたいことがものすごくたくさんあったけれども。
私はローレライさんに返信をすることにする。
『あの、段取りとかは?』
『え? ありませんよ?』
『カーミラを公園に連れて行くだけでいいんですか?』
『はい』
……うーん。
とてつもなく嫌な予感しかしないのだけれども。
まぁ、もしも何かあったら全てローレライさんに責任の全てを被ってもらおう。
私は何も知らなかったことにして。
うん、そうしよう。
紅茶を啜りながら、そんなことを考えて。
ノートパソコンの電源を落とし、カーテンの隙間からのぞく星空を一瞥して眠りにつくことにした。
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