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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
第二章 『百合百合』させて?
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第五十七話

 真夏の照りつけるような日差し。


 しかし『吸血鬼』の私達が太陽の光に弱い、などという伝承のような事もなく。


 私はうだるような暑さの中で。


 対面する亜麻色の髪をした外人女性を胡散臭げな眼差しで見つめている。


 その女性の名前は『ローレライ=S=レフィル』。


 自分の事を『聖女』と称するその人である。


 因みに今日はいつも隣でふよふよと付き従っているしおりもいない。


 私は外出用の服に身を包み。


 完全に一人きりの外出をしている。


 一人きりになるのはあの雨の日以来だったなと思い返していると。



「メイドの吸血鬼さん。あなた、何か大切な事を忘れていますね?」



 お互いに紅茶を啜りながら。


 互いの挨拶も程々にして、いきなりそんなことを言われた。



「はぁ……。まぁそうですね……」



 よくよく考えると、私は『ループ』を二度も行ったせいで。


 一度目は『母を蘇らせるため』の幼い頃の『ループ』。


 二度目は『お嬢様を自分のものにするため』の一年ほど前に行った『ループ』。


 その二度の『ループ』の影響で、私とお嬢様の記憶はひどく曖昧になっていた。


 それに加えて一年程前についた『眠り』。


 ただですら薄らいでいた記憶が『眠り』のせいで更に薄らいでしまっている。



「めんどくさいですけど、忘れているあなたの記憶のことを、よびさましてあげましょうか?」



 お嬢様から話には聞いていたけれども。


 なんというか、とてつもなく胡散臭い人だな、と思った。


 まるで路上でいきなり手相を見せて頂けませんか? という占い師のようなノリだ。


 そんな人に私は手相を見せたりなんてしない。


 それはただのお馬鹿さんの行為に他ならない。


 しかし、この人はただの『人』ではない。


『聖女』と呼ばれる人種なのだ。


 だから『人』にはできない芸当ができるのかもしれない。


 正直な話、忘れている『記憶』のことは気にはなる。


 けれど。



「けっこうですよ。記憶の見返りにあなたに変な要求をのまされかねませんからね」



 それに忘れてしまった『記憶』は思い出さない方が良い『記憶』だってあるのだ。


 何も、無理に思い出すことはない。


 ―――そのはずだ。



「残念ですね。あなたの『記憶』の中にはあなたが探し求めていることがあるというのに」



 そんなことを言い、ローレライさんはフフリとほくそ笑む。


 一体―――。


 一体この女性は私の何を分かっているというのだろう。


 どこまで私の事を分かっているというのだろう。



「めんどくさいですが。―――全部。と言ったら?」



 私の心の中の問いかけに答えを返すようにローレライさんは笑顔を絶やさずに告げる。


 ―――まさか。


『聖女』は―――。



「そう、そのまさかです。『聖女』は記憶や思考を読めるのですよ」



 迂闊だった―――。


 慌てて私は瞳を朱色に染め上げようとして。


 私のその行為を愚かしい行為だと嘲笑うかのようなローレライさんの笑みを見て―――。


『聖女』に抗うことを諦めた。


 恐らく、私が何をしても。


 どんな行為も無駄なのだろう。


 この『聖女』という存在に対しては。


 はじめて遭遇した日にしおりの黒刀をいともたやすく弾いてみせたように。


 恐らく、私の力では、『聖女』の力は超えられない。



「良い反応ですね、めんどうくさくない人は嫌いではないですよ」



 微笑みながら、私の心の奥底を見透かしながら。


 ローレライさんは笑みを絶やさない。



「だいたい『聖女』と聞いて人が抱くイメージってパターンが少なすぎると思うんですよ。だから私はそのイメージを壊したいと常々思っているんです」



 そんな聞いてもいない事をひとしきり話した後に。



「でもですね。思考を読むとか、記憶を読むとか、めんどうくさいことはしたくないんですよ、本当に」



 ため息交じりにティーカップに砂糖を山盛り注ぎながら。



「でも、あなた達が『始祖』の知り合いだと知ってしまったからには放っておくことはできないんですよ。職業病というものでしょうか? めんどうくさいんですが」



 私に向かってにこやかに微笑んでくる。


 無言の私をさておきローレライさんは紅茶を啜りながら続ける。



「だいたい、なんで私がたまたま選んだ宿泊地に『始祖』がいるのか知りませんが、好都合でした。これで、私も上司から怒られなくて済みます。めんどうくさくならないです」



 ローレライさんの話は抽象すぎてよく分からないけれども。


 つまりはこう言いたいのだろう。


『始祖』カーミラは『聖女』のローレライさんが始末すると。



「『始末』だなんて無理ですよ、めんどうくさい。私はただ、『始祖』を封印するだけです」


「……封印?」


「あなた達の言葉で言えば深い『眠り』と言えば良いでしょうか? いちいち言いなおすのめんどうくさいですが、しょうがないですね」




 私の問いかけにクスリと笑いながらローレライさんは言葉を紡ぐ。



「『聖女』は『始祖』の『眠り』を代々監視してきたのです。でも私は『始祖』の『眠り』を、監視し続けることができなかったんですね。めんどうくさい話なんですが」


「あなたは『始祖』を封印できるんですか?」



『吸血鬼』を深い『眠り』におとすことは、その『吸血鬼』の『存在』を限界まで擦り減らしてしまえばいい。


 そう言葉にするのは簡単だ。


 しかし、しおりの話によるとカーミラの『存在』は数百年分はあるという。


 そんな『吸血鬼』を『眠り』におとすことが、人の身である『聖女』が本当に可能なのだろうか?



「簡単ですよ。私が『始祖』。今は『カーミラ』でしたっけ? 封印してさしあげます。めんどうくさいですが」



 激甘の紅茶を啜りながら。


 ローレライさんは青く澄み渡る空に視線を移し。


 小悪魔のような囁きを言の葉にした。

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