第五十四話
現実とは非情である。
妄想に妄想を重ね、ひまつぶし。
そんな毎日を重ねていても、ただただ虚しい。
狼がでたぞー!! と法螺を吹き続けても現実には日本の狼さんは絶滅しているし、動物園から出てきたりはしないのだ。
しかしである。
私の傍にはしずくちゃんという可愛いこちゃんもいるし、私の所有物? のメイドの遥香だっているはずなのに。
私は百合百合を禁じられている。
全てはこの夏に私達の前に現れたクソ幼女『吸血鬼』のカーミラのせいである。
私が少しでも百合っぽい行動をしようものなら。
「駄目です、お嬢様。カーミラが見てますから」
とか。
「先輩。カーミラが見てるから……」
とか。
言われる始末。
しょうがないので早朝、時代劇に興じているしおりに手を出そうとしたら。
無言でその腰の黒刀に手をかけられたので、潔くやめました。
私はしおりの『主』のご主人様なのにね。
『従者』の教育がなってないよー、教育がー。
それはそうと、カーミラである。
あの子が来てから、本当に私は百合百合な生活から遠ざかってしまっている。
カーミラが来る前はあんなに百合百合満載な生活だったのになぁ。
そんな過去の思い出が走馬灯のように―――。
―――おかしい。
よくよく考えたら、この冷遇されっぷりはおかしくないだろうか。
カーミラが来る前までは毎朝のように遥香のふかふかのお胸を揉んでいたのに。
今は週二、三回揉めれば良い方なのだ。
しずくちゃんにしてもそうだ。
最近はめちゃくちゃガードが堅い。
硬すぎる。
これはもしかして―――。
カーミラの操る精神干渉の能力なのでは―――?
そう疑問に思いだしたころ。
事件は起こった。
「ふははは!! 皆、カーミラのいいなりなンだわ!!」
客間でカーミラが手に持つギターを弾き語りながら、嗤い、哂う。
「カーミラ、あんた……」
私はカーミラの言いなりになった従者を見つめながら歯ぎしりをする。
「ハハハハ! どうだ、のぞみ!! ここはカーミラのパラダイスなンだわ!!」
カーミラは虚ろな瞳の遥香に膝枕をさせながら満面の笑みを浮かべる。
こいつ……!!!
私だって遥香のふかふかを楽しみたいのに!!
というか、そこは私の居場所なんだよ!!!
「悔しいか、のぞみ!! でもここはもうカーミラの特等席なンだわ!!」
遥香は虚ろな瞳で、カーミラの頭を撫でている。
なんでこう遥香は精神干渉を受けやすいのだろうか。
カーミラが精神干渉の能力を使うのは分かっているはずなのに。
『主』がこんな状態だというのにしおりはどっかに行って姿すら見えないし。
しずくちゃんはというと、私の部屋のドールハウスで寝こけている。
まてよ?
よくよく考えたらこれは『チャンス』なんじゃないのでは?
遥香の意識は虚ろだし、いつも黒刀を光らせているしおりはいない。
やきもち屋さんのしずくちゃんも今は夢の中。
フ……。
フフフ……。
私は無言でスタスタと遥香とカーミラの場所へと向かうと。
「バブー!!」
なんてことを言いながら、カーミラを押しのけて私は遥香の懐へダイブした。
ああ、ふかふか。
女の子の体はふかふかで柔らかいなー。
特に遥香の身体は出るとこは出てて引っ込むところは引き締まってるし。
虚ろな意識の遥香の身体を精一杯に楽しむことにする。
「なにすんじゃ、ボケーーー!!!」
カーミラが何かを言っているけど私は気にしない。
気にも留めない。
遥香のふかふかの体を久しぶりに満喫する事、数分。
さすがに何か静かすぎるなと思っていたら。
「な・に・し・て・る・ん・で・す・か? お嬢様」
正気に戻った遥香に、その肢体を楽しんでいた腕を掴まれ思いっきり捻られた。
「いたたたたたっ!!! 痛い、痛いからっ!!!」
「だから私はいつもいってるじゃないですか。カーミラの教育に悪いと」
いやいやいやいや。
遥香のこと操って遥香のこと弄びはじめたのはカーミラが最初だからね?
私はカーミラの行為に乗っかっただけであって。
「私は、悪くな……いっ!!」
「言い残すことは、それだけですか? 破廉恥お嬢様?」
聞く耳持たないという表情の遥香は。
その表情は。
正気に戻っていた訳ではなくて。
ノリノリでギターを弾きならすカーミラの精神干渉をもろにうけていた。
遥香……どんだけあなたは精神干渉に弱いんだろうかと嘆かわしくなってくる。
「はははは!! 遥香は面白いンだわ!! 最高のおもちゃなンだわ!!」
この、クソ幼女おおおおおお!!!
私の従者をおもちゃにしてーーー!!
その可愛いお尻、すぐに揉んでやる。
泣くまで揉みしだいてやる!!
しかし遥香に捩じられた腕を振りほどこうとするけれども、外すことができない。
くそーーーーー!!
しょうがない。
ここはもう『吸血鬼』の力を使うしか―――。
私は私の『存在』を消費しながらその瞳を朱色に染め上げ『魅了』の力を遥香にかける。
けれど。
「ふん。そんなもの、カーミラの力に比べたら児戯なンだわ」
まったくもってその通りで遥香には私の『魅了』の効果がない。
それどころか、私の腕を捩じり上げる力がますます強くなってくる。
「いたたたたっ!!」
それでも私は遥香の瞳を強く強く見つめ更に『存在』を強く消費する。
「っとに、目を覚ましなさいよ、遥香!!!」
遥香の腕を全力で振りほどいて。
おもいっきり『魅了』の力をかけてやる。
すると遥香は糸が切れた操り人形のように倒れ込んだ。
「フン……。格下の『吸血鬼』のくせにやるではないか」
「カーミラ。私はあんたのこと絶対に許さないから」
だから、そのお尻を揉む!!
私はカーミラに自分のお尻をさしだすように『魅了』の力をとばす。
カーミラも私に精神干渉の音色を飛ばす。
『吸血鬼』の力と力のぶつかり合い。
その力は拮抗していて。
お互いに額に汗をにじませる。
「……クソ、今日のところは覚えてるンだわ!!」
「そっちこそ、今度はカーミラ、あんたのお尻揉んでやるんだからね!!」
お互いに、そんな事を言って事件の幕が下りた。
「なにをやっているんだ、お前達は」
ふよふよとしおりが呆れ顔をして飛んでくると、人間サイズになり床に倒れ込んだ『主』の介抱を始める。
「そもそも、のぞみ。『吸血鬼』の能力はあまり使わない方が良い」
いや、それは分かっちゃいるんだけれども……。
能力は『存在』を消費するのは分かっている。
分かっちゃいるんだけれども……。
私が不服そうな顔をしていると、しおりは真剣な顔で。
「おまえは『存在』が減りづらいとはいえ、『眠り』が早まるぞ」
しおりはそう告げて、遥香を抱き上げて客間を出て行ってしまった。
『眠り』―――。
それは『存在』を限界まで消耗した結果、陥る現象。
『吸血鬼』が『存在』を回復させるための。
死を回避するための最後の『手段』。
『眠り』は―――。
―――深く、長く続く。
どこまでも―――何年、何十年、何百年と続く。
私と、遥香に残されている『存在』は残り五年分―――。
その五年分の『存在』を消費し尽くせば、私達は―――。
―――分かってはいるんだけどね―――。
―――でもそれでも。
遥香を弄んだカーミラのことは許せなかったのだからしょうがない。
しょうがないのだ。
私は残りの五年間を楽しく、好きなように生きれれば、それでいいのだ。
だから―――。
私は―――。
評価、ブクマありがとうございます!
今後もお気軽にブックマークなどしてくださると幸いです。
感想は、面白そう、つまらないでもなんでも結構です。
評価も、気軽に★1個でも構いませんので付けてくだされば嬉しいです。
それが書く気力になりますので!
是非ともよろしくお願いします!