第五十二話
翌朝。
相も変わらず夏の暑い日差しが照り付ける日の事。
空は澄み渡る青い空。
けれどやはり相も変わらず世の中は緊急事態宣言が続いている。
そんな中、私は客間にカーミラを呼び。
遥香と『眷属』ちゃん二人を含めた、通称『吸血鬼会議』を始めることにする。
あ、この会議の通称はさっき名付けました、はい。
「で、カーミラ。あんた何やらかしたの?」
「カーミラはただ目覚めて、家出しただけなンだわ」
カーミラは私達の事などどこ吹く風という体でスコーンをポリポリと頬張っている。
「じゃあなんで、『聖女』とかいう『存在』があんたのこと探してるの!!」
さすがにその態度にa littleどころではなくイラっと来たので私は机を叩きカーミラの皿を取り上げる。
私が奪った皿からなおもスコーンを頬張りながら。
「『聖女』? そんなもん知らん」
「は?」
いけしゃあしゃあとそんなことを言うので私は毒気の抜かれた間の抜けた返事をするしかない。
「だからそんな『存在』は知らないンだわ」
「むう……」
じゃあ『聖女』っていったい何者なんだろう。
カーミラは『聖女』の事は知らないという。
でも『聖女』はカーミラを狙っている。
……ますますわけわかんない。
「あの女性は、『聖女』の事を仕事って言ってたんですよね? お嬢様」
遥香は紅茶を啜りながら私に問いかけてくる。
「そうだね。そして今バカンス中とか言ってた」
女性は今日もどこぞの会長よろしく銀ブラでも楽しんでいるんじゃないだろうか。
自分の事をVIPだのなんだのって言ってたし。
こんなご時世なのに毎日日本観光をエンジョイしていてもおかしくなさそう。
「あー……なんか権力があるみたいなこと言ってたなぁ、そういえば」
「後は口癖がめんどうくさい、だったかなぁ……。何がめんどくさいのか分からないけれど」
自分の体と同じ位の大きさのスコーンに噛り付きながらしずくちゃんはいう。
たしかにものすごい勢いでめんどうくさいって言ってたなぁ。
仕事が残業だらけらしいのも、そのめんどうくさがりな性格のせいなんじゃ? と思ってしまう。
まぁその辺は別として。
「それなら入来院家のコネクションからその『聖女』とやらの実態を探ってみましょうか」
遥香はそう言って手元に置いてあったノートパソコンで何やらカタカタと文字を打ち始める。
こう見えて遥香は電子機器の扱いにも強い方だったりする。
政府のデータベースをそのコネで覗き見たりもしているらしい。
電子機器に強い『吸血鬼』というのは今時らしいといえばらしいのかもしれないけれど。
しばらく遥香がノートパソコンのキーボードを打鍵する音とカーミラがテレビをつけて『真夏の大冒険』を一人で楽しむ声が響き渡る。
私としずくちゃんはその間、静かにスコーンを食べ、しおりは遥香の姿を見守っている。
そして十分程経った後。
「ありましたよ。先日、破格の待遇で入国してますね。あの人」
遥香は私としずくちゃんの方にノートパソコンを向けながら告げる。
「ふむふむ。名前は『ローレライ=S=レフィル』さん……。ドイツの人なんだね」
モニターには昨日会った女性が真顔で写っている写真。
その下には彼女のプロフィールがつらつらと書いてあるが、所々が伏字になっている。
「そのようですね。そしてローレライさんはどうやらドイツの重要な役職を担っているようです」
「ほうほう。それが『聖女』と」
「国家機密みたいですけどね。だからそのためならそれなりの権力を行使できるようですね」
「『聖女』の仕事の内容はさすがに伏字かー」
まぁ期待はあまりしていなかったけれども。
国家レベルの機密情報かー……。
ローレライさんは一体どんな仕事をしているんだろうか。
でもあんなめんどうくさがりの性格でそんな御大層な仕事が務まるとは、とてもじゃないけど思えない。
『聖女』ってどういう仕事なんだろうか。
ますます気になってくる。
彼女の言葉尻から推測するに『聖女』は『吸血鬼』に関する仕事なのだろうけれど。
まぁ……とりあえずカーミラとローレライさんを会せたらろくなことにはならないのだろう。
「カーミラはそろそろ外に出かけて女の子漁りをしたいンだわ」
スコーンを食べ終えたカーミラは紅茶を啜りながらそんなことを言う。
―――私の心配をよそに軽々しく言ってくれるなぁこのロリ『吸血鬼』―――。
「ねぇ、今までの話、聞いてた? あなた、狙われてるの! アンダスタンド?」
「はいはい、アンダスタンド、アンダスタンドなンだわ。その時はカーミラの『魅了』の力を使えばいいンだわ」
……わかってない。絶対に分かっていない。
そもそも問題、ローレライさんは手加減を恐らくしていたとはいえ、あの『しおり』の黒刀を弾き、その体を弾き飛ばしたのだ。
『聖女』に『吸血鬼』の『魅了』の力が通じるとは思えない。
いくらカーミラが『始祖』と呼ばれる存在なのだとしても。
毎日、客間で呑気に『真夏の大冒険』に勤しんでいるカーミラの力も通用しないのではないか。
そうとしか思えない。
まぁだいだい。
今のご時世、緊急事態宣言中だから、真っ当な若者たちは自宅でおうち時間を過ごしてるはずだしね!!
カーミラ好みの女の子はいませんよっと。
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