第四十七話
「『真夏の大冒険』ーーーっ、なンだわ!!」
さんさんと照りつける日差しの射す客間。
ガンガンにかけたクーラーをかけたその部屋で。
見た目ロリな金髪幼女はテレビを見ながら椅子の上でピョンピョンと飛び跳ねる。
「はいはい、『真夏の大冒険』、『真夏の大冒険』……」
私は肩肘をテーブルにつき、そんなカーミラの姿を冷めた視線で見つめながら、ポリポリとポテチを頬張る。
学園が夏休みに入ったものの。
私達はテレビで中継されている世界的な体育祭の放送を見る毎日だった。
テレビをつければ、流れてくるのはこの体育祭か、ワイドショー。
何せ、世の中、真夏の緊急事態宣言発令中である。
不要不急の外出は避けて、三密は避けましょうというお上からのお達しだ。
旅行も、『密』です。
外出も、『密』です。
イベントも、『密』です。
世の中、『密』『密』『密』の『三密』だらけなのである。
こんなご時世じゃなければ、飛鳥ちゃんでも誘ってどこか別荘のある避暑地に遠出している所なんだけどなぁ。
政府の要請には『吸血鬼』様も逆らうことはできやしない。
とはいうものの。
この世界的な体育祭が無観客ながらも開催されているというのは、とてもおかしな話なのだけれども。
割を食うのは、私達、若い世代だよ、まったく。
でもこの見た目ロリな幼女は『若い世代』じゃないけれども。
「お嬢様。お茶をお淹れしましょうか?」
「ん。よろしく」
私がそう応えるとメイド服に身を包んだ遥香がゆったりと仕草で紅茶を煎れてくれる。
はぁ……平和だなぁ……。
そんな思いは続く言葉に脆くも崩れ去る。
「遥香。カーミラにも紅茶ー」
カーミラに促され、遥香は至って冷静に紅茶を注いでいる。
紅茶を注ぎ終わった後、カーミラは大量のスコーンを頬張り。
熱々の紅茶を啜る。
「うまーーーい!! 東洋にもこんなうまい紅茶があるんだな? カーミラは満足なンだわ!!」
本当に、この妙な日本語(語尾にンだわがマイブームらしい)に毒された、ロリ幼女『吸血鬼』がいなければ、平和なんだけどなぁ……。
クソやかましいロリータ『吸血鬼』に対して毒づきながら、私も紅茶を啜る。
うん、この紅茶が美味しいんだよなぁ。
さすが、遥香。
私の自慢のメイド様。
同じ『吸血鬼』でも、この幼女『吸血鬼』とは大違い。
はぁ……なんでこいつ、拾っちゃったかなぁ……と、自分の判断を今更ながら呪ってしまう。
カーミラを拾って以来、毎日毎日。
来る日も来る日も。
こんな毎日の繰り返し。
煩わしいカーミラに悩まされる日々。
私は正直、カーミラという『存在』に辟易していた。
ぶっちゃけ遥香も同じ気持ちだと思う。
表面上、涼しげな顔をして対応しているけれど。
あ……カーミラが椅子の上で跳ねて、テーブルの上の紅茶がこぼれた。
あー……うん……あの遥香の顔はうんざりしている時の表情だ。
あー……もう誰か、この状況なんとかしてーーー……!!
そんな事を思いながら、テレビを見ながらはしゃぐカーミラを私は見つめていた。
―――
聖女は堕落していた。
「あー、めんどくさい。本当にめんどうくさいんですー。なんでこの私がそんなことしなくちゃいけないんですか? 他の人がやれば良いじゃないですか?」
なんて事を上司の目の前で堂々と言ってしまう位、堕落しまくっていた。
しかしそのせいで聖女は盛大な失敗を犯してしまった。
人生最大の失敗である。
いや、聖女史上最大の失敗だった。
それは、始祖『カーミラ』の復活。
それは、代々の聖女が封印してきた存在。
それは、代々の聖女の果たすべき責務。
聖女の堕落により、始祖『カーミラ』は封印から解き放たれて。
堕落した聖女は、とてつもなくめんどうくさい状況に立たされていた。
「あのー……アレ、私が封印してこなきゃだめですか? あ、はい。そうですね。はい。はい。申し訳ございません。おっしゃるとおりです。はい。はい」
延々と平謝りにあやまる日々。
聖女はめんどうくさい日々に追われていた。
始祖『カーミラ』を探す陣頭指揮。
入ってくる『カーミラ』の情報をまとめ、その居場所を割り出す。
それでも、始祖『カーミラ』の居場所は掴めない。
『カーミラ』の容姿は、金髪で朱色の瞳の幼女―――。
人心を惑わす音色を操る吸血鬼―――。
延々と聖女はこの処理をこなす日々が続くのかと思うとうんざりとしてきた。
ので。
もうこんな雑務処理なんてほっぽり出して、高飛びしてやろうかなと考え始めた。
―――そうだなぁ、どうせ高飛びするなら、東洋の国―――。
―――オリエントの国、日本が良い―――。
―――あの国は、今、世界的な体育祭をやっている最中だし―――。
―――入国審査は厳しいだろうが、上司のサインさえあれば忖度なんていくらでも湧いて出るだろう――。
日本という国は、偉い権力にはすこぶる弱いのだ。
だから、聖女が高飛びするには丁度良かった。
まさか、その忖度が横行する国に。
聖女が封印し損ねた『カーミラ』本人がいるということは、露知らず。
日本行きの書類に上司のサインをサラサラと聖女は模写をする。
「さーってと。今日からバカンスの毎日だーーーーー!!」
そんな暢気な台詞を元気よく言いながら。
聖女は長い亜麻色の髪を翻し、書類の溜まった職場を後にした。
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