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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
第一章 『百合百合』したい。
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第四十三話

 先輩達が眠りについて一年半ほどが経った春の日の朝だった。


 その日は風が強くて。


 庭に咲いていた桜の花びらはひらりひらりと舞い落ちてしまう。


 そんな光景をみつつ、足をプラプラさせていると。



「う……ん?」



 永い眠りから解き放たれて先輩は目を覚ます。



「先輩、先輩っ!!」



 ボクは感極まって人間サイズの姿に戻って先輩の胸に抱きついた。



「わっ……っと。しずくちゃん、おひさしぶり」



 数年も眠っていたのが嘘のような人の返事だった。


 ボクは先輩の顔を胸の傍から見上げながら少しむくれて。



「先輩は、もう少し、ムードってものを大事にした方が良いと思うよ……」



 そう言いながらボクは、お尻を触っていた先輩の手を抓りながらそう告げる。



「あははは……遥香にも同じこと言われた……」


「だからそういうところが、なんだよね」


「まぁ……のぞみの脳みそは基本、助兵衛だからな。そういうのに期待しない方が良い」



 しおりが身もふたもないことを言っている。



「それで、『主』は一緒じゃないのか? 目覚める時は一緒だと思っていたのだが?」



 しおりも体を人間サイズにもどし、問いかけてくる。



「んー……というか、今、何年経ったの? 自分の予測では10年くらいはたってるつもりだったんだけど」



 10年とはまた大きく出たなこの先輩とため息をつきながらかぶりを振る。



「まだ全然ですよ、一年弱です。飛鳥先輩はこの春にご卒業しましたけれども」


「えー……!! まだそんだけしか経ってないの? おかしいな……時間の調整ミスったのかな?」



 先輩はブツクサとそんな事を呟いている。



「おそらくだが……二人が『眠り』に入った何処かのタイミングで『主』はのぞみとのリンクを切ったのだろう」


「なんでっ!!」


「……おまえには待っているものがいるからな」


「……遥香の馬鹿」



 しおりのその言葉に先輩はそう返すしか言葉が見つかなかった。



「のぞみは『吸血鬼』の中でも『存在』を回復しやすい傾向にあるようだから、『主』と回復量に差が出たのだろう」



 だから先輩が10年分回復したぞ、ヒャッホ―って勢いで目覚めたって事ね。



「むー……それじゃ、また私も『眠り』につくかー……」


「たぶん、それをやっても『主』はのぞみをうけいれないだろうな」



 ……じゃあ、どうすれば。


 そう考えた瞬間、一つの事がボクの頭をよぎる。


 以前、ボクとしおりは先輩から『存在』を分け与えられたことがある。


 ボクは先輩と顔を見合わせる。


 お互い何か悪い事を考えている顔だった。


 どうやら先輩も同じことを考えていたらしい。


 ので、ボクはしおりをはがいじめにした。



「さぁ先輩、思う存分やっちゃって!!」


「うん、今日は遥香で命一杯楽しむ!!」


「こ、こら!! おまえ達、『主』の体に何をする気だ」


「えー……それ、いっちゃいますー? 前にも同じことやったじゃないですかー、しおりちゃん♪」



 当時の記憶が思い起こされたのかしおりの顔が真っ青に染まっていく。



「ええい、不埒者め、であえであえーーー」


「そんなに騒いでも誰も来ませんよー。それに私、不埒者なんで、じゅるり」



 言いながら先輩は遥香先輩をあられもない姿にし。


 救命処置と称したエッチなことを開始した。


 始めは大きな胸を揉みしだくように撫でまわし。


 そこから腰や太腿を順に触っていく。


 やがて、遥香先輩の寝息から熱を帯びた吐息が混じり始め。



「……なにやってやがるんですか、このネトリお嬢様。あれですか? ついに犯罪行為にまで手を染め始めたんですか?」



 と、激おこぷんぷん丸の遥香先輩が目を覚ました。


 遥香先輩が目を覚ました瞬間ボクは「後はしーらないっ」といってしおりと共に部屋を出た。


 今頃部屋の中では先輩が遥香先輩に盛大に土下座をかましているころだろう。


 桜の花びらの舞い散る庭園の中。


 ボクはぼんやりと、これでよかったんだよね?


 と、自問自答する。



「悩むくらいならしなければよいものを……」



 ボクの後ろからそんな言葉をしおりはかけてくる。



「でもさー、ボクも正々堂々と遥香先輩とは勝負したいから」


「……好きにすればいいさ」



 こんな時でも、しおりはボクに心を開いてはくれない。


 遥香先輩の目覚めは、しおりにとっても喜ばしい事のはずなのに。



「まぁ、お互い、『眷属』としてよろしく」


「……そうだな」



 その日から、ボク達二人は先輩と遥香先輩という二人の『吸血鬼』に付き従うようになっていた。


 学園でも復学当初は『学園の百合姫様』が復学されたという噂でもちきりだったものの。


 百合百合している対象が遥香先輩のみだったのでああ、またなんか『百合姫様』が百合百合してるな的なあつかいになっていた。


 人間の噂も七十五日ってね。


 二人は元々頭は良い方だったので、自分達が留年してしまったことにショックを隠せないでいたが、まぁそれはしょうがないということで納得してもらうしかなかった。


 たまに学園にOGとして遊びに来る飛鳥先輩は学園中からの注目の的でその際に先輩が話していると、『百合姫様』に新たな恋が? なんて噂も走ったりもした。


 そのあと先輩が遥香先輩の胸を揉みまくってそんなのはチャラだといわんばかりに火消しに走ったのも今は良い思い出だ。


 でも結局のところ。


 しおりの見立てでは先輩が遥香先輩に与えられた『存在』は5年弱。


 先輩に残っている『存在』も5年弱。


 とりあえず先輩が回復した分の『存在』を二人仲良く折半しあった形だ。


 5年弱―――それを超えれば先輩達は深い眠りにつくしかない。


 それは変えようのない運命なのか、変えることのできる運命なのか。


 今はそれすらわからないけれども。


 ボク達『眷属』は『吸血鬼』の従者として。


 『今日』も『明日』も『明後日』も。


 ボク達は『今』を生き続けている。

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