第三十九話
同じ日を繰り返していた。
ひらり。
ひらりと。
来る日も。
来る日も。
同じ桜の花びらが。
舞い降りる桜の花が。
延々と同じ光景を見続ける毎日。
4月6日という日を繰り返す毎日。
4月7日が訪れることのない毎日。
数日、数十日、数百日。
数年、数十年と同じ4月6日という一日が積み重なっていく。
このループする毎日の中で、分かったことは。
どうやら同じ日を繰り返しているという事を自覚しているのは、自分だけだという事。
遥香自身にはループの原因を作ったという自覚はまったくなさそうだという事。
学園にはしずくちゃんもしおりもまだいないという事。
飛鳥ちゃんにも何も記憶が無いという事。
ループしている時間で集められた情報はそれだけだった。
そもそもこういうループもののお約束って何か目的を達成したらループを脱出なんだろうけれども。
私がこのループに囚われているのは私をループさせることでしずくちゃんに出会わせないという目的が達成されているのだからどうしようもない。
このループを抜けるイコール私がしずくちゃんと出会ってしまうというわけで。
つまり、このループを抜けるには、しずくちゃんに『恋』をしなければ良いという事なのかもしれないけれど。
「しずくちゃんに『恋』をしない、かぁ……」
言葉にするのは簡単だけれどそれが出来るのか自分自身疑わしい。
そもそも問題。
『何が』『どうして』『こうなった』んだろう。
雨の降りやまない夏の日の事。
私達は放課後にヴェールを被った少女と遭遇し、それが遥香で。
そこからの記憶があやふやだ。
あやふやな記憶といえば、自分が何故百合を愛しているのか、という事もあやふやだ。
雨の止まない夏の日の事は最近の事……。
とはいえ、あの日からもうかれこれ数十年分同じ日をループしているので、私にとっては両方とも同じ昔の記憶なのだけれど。
あやふやな記憶を辿るとそういえば昔にもこんな事があったんじゃないのか? とすら思えてくる。
その時は『何が』『どうして』『そうなった』んだろう?
私は、『どうして』?
私は、『なんで』?
私は、『こうなった』?
そして、その時はどうやってそのループを抜け出したんだろう。
私は答えのでない問いかけを、ひらひらと舞い落ちる桜に問いかける。
私はどうして、百合百合したいんだろう。
私はなんで、百合百合したいんだろう。
私は―――。
わからない。
わからないことが多すぎる。
しかもこんな無限ループ地獄に閉じ込められるし。
気も滅入ってくるという者だ。
はぁー……遥香もこんな回りくどい手なんか使わないで直接来てくれればいいのにね。
私はもう逃げやしないんだから……。
そんなことを愚痴りつつ、赤くなってきた空の時間に襲ってくるいつもの眠気に身を委ねることにした。
ひらり、ひらりと―――。
記憶の底に、舞い降りる―――。
深い、深い、記憶の底へと―――。
桜の花びらがひとひら、舞い降りる―――。
あの日の記憶が―――。
私がループに囚われた日の記憶が―――。
桜の花びらとなって―――。
その時、どうやって、そのループを抜け出したのか―――。
ああ、そうか―――。
そういうことか―――。
ひらり。
ひらりと。
桜の花びらが舞い降りる。
私は、遥香に揺さぶられて目を覚ます。
「お嬢様、もう帰る時間ですよ?」
「うん……そうだね」
私は、ぼんやりと記憶の底から手繰り寄せた一つの記憶から―――。
「ごめんね。遥香―――」
その言の葉を口にした後、私は遥香の真っ白な首筋に私の牙を突き立てた―――。
幼い頃から―――。
私と遥香は一緒に暮らしていた。
それはもう仲の良い姉妹のように。
遥香のお母さまは母に先立たれた私にとっても母同然の存在だった。
私と遥香にとって遥香のお母さまは大切な人だった。
今のお屋敷で遥香と遥香のお母さまの三人で仲良く暮らしていた。
そんなある日の事だった。
遥香のお母さまが亡くなったのは。
遥香のお母さまの言葉は『遥香のことをよろしくお願いしますね、お嬢様』だった。
木陰で泣いている私に遥香は手をさしだす。
遥香は告げる。
こんな世界なら私達の好きなように作り直そう―――。
私達ならきっとそれが出来るから―――。
私達のための世界に作り直そう―――。
死んでしまったお母様も作り直そう―――。
遥香は微笑みながら、私の手を握り締めようとする。
けれど、泣いている私は遥香の手を掴むことはなくて―――。
掴むことができなくて―――。
その日から―――。
私は、道は違ってしまったんだ―――。
私は、遥香を―――。
私は、遥香のことを―――。
私が、女の子と百合百合したいのは―――。
私が、『吸血鬼』に覚醒したのは―――。
私が、―――。
だから、その日から―――。
―――私たちの道はこんなにも狂ってしまったんだ―――。
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