第三十八話
窓から見える空は夕焼け空だった。
真っ赤に染まった夕焼け。
今まで一か月以上降り続いていたはずの雨はやみ。
窓の外には昼と夜との間の世界が広がっていた。
窓の外には一面の桜の花びら。
季節はもう夏になろうとしているのに桜の花びらが舞っている。
そんな世界のはざまで。
私は、遥香に揺さぶられて目を覚ます。
「お嬢様、もう帰る時間ですよ?」
私は遥香の顔を伺い、こちらに害があるか逡巡する。
とりあえず一発ふかふかお胸を揉んどけば分かりそうなものだけど。
さすがに今はとっても気が引ける。
「遥香ー? そのフカフカなお胸揉んでいい?」
「……馬鹿なんじゃないんですか?」
いつもの様にそんな返事が帰ってくる。
しかし、ここはいったいどこだろう。
今の季節は夏のはずだ。
それなのに春の花、桜の花びらが満開に咲き誇っている。
「遥香、あなたはいったい何がしたいの?」
「何の事です、お嬢様?」
「しらばっくれないで」
「はぁ……私には何の事やら、ですよ」
何かがおかしい。
「と、思ったので、とりあえず、遥香のそのお胸を揉んでやることにした」
「何馬鹿なこと言ってるんですか」
遥香の胸を揉みに行ったらその寸前でガツンと持っていた鞄で叩かれた。
「……痛い」
めっちゃ痛いんですけど。
確かに我が事ながら馬鹿な事してるなーとは思うけど鞄で叩くことないじゃない。
しかし、この反応。
この『遥香』はあの『吸血鬼』の『遥香』とは違うんだろうか?
むむむ……わからん。
遥香本人に、あなたは『吸血鬼』ですか?
なんて聞くわけにもいかないしなー。
こんな時、しおりがいれば懇切丁寧に解説してくれそうなもんだけど。
残念ながらその姿は見当たらない。
そもそも一緒に居たはずの飛鳥ちゃんやしずくちゃんの姿すら見当たらない。
「どうしたんですか、お嬢様? 難しい顔をして」
「いや、なんでもない。……それじゃ、帰ろうか」
色々確認したいことも有ったけど、とりあえず今日のところはかえることにした。
車に乗って進む道は。
今まで馬鹿みたいに降っていた雨は影も形も無い澄んだ空で。
代わりに街には桜の花が咲き誇っている。
うーん……これはもしかして。
そう思い自室の扉を開けると、机の上に今まであったはずのドールハウスはなくなっていた。
「やっぱりそうかぁ……」
ため息をつきながら自分のノートを確認すると4月6日になっている。
それはつまり、しずくちゃんと私が出会う前の時間という事だ。
これが、現実なのか幻なのか分からないことだらけだけれど。
私が出来る事は、何だろう……。
とりあえず、流れに身を任せるしかないか―――。
そう思いながらカーテンの隙間から見える月を見つめながら眠りにつくことにした。
翌朝。
始業式。
私としずくちゃんが出会った日。
しずくちゃんに話を聞けば何か分かるかもしれない。
そんな期待を胸に、手早く着替えを済ませて通学しようとする。
が、何かがおかしい。
テレビの今日の日付を告げる値が、予想と一日ズレている。
「遥香ー……今日の日付って何日?」
私は心の底で、冷や汗をかきながら私は何食わぬ顔をしている遥香に問いかける。
「今日は4月6日ですよ? とうとう頭の中までフカフカになってしまわれたんですか? 嘆かわしい」
ぐぬぬぬ……そうきたかー……。
これって無限ループってやつじゃないですかー。
それはそうと私に対して辛辣過ぎやしないか、このふかふかメイド。
まぁ心が広い私はそれぐらい許してあげるんだからねっ!!
とりあえず、歯ぎしりしててもしょうがないので、学園に登校することにする。
そして夕方。
机に座ってるとなんだかうつらうつらとしてきて……。
私は、遥香に揺さぶられて目を覚ます。
「お嬢様、もう帰る時間ですよ?」
ひらり。
ひらりと。
桜の花が舞い降りている。
そして昨日、聞いた言葉。
「あああああっ! やっぱり時間がループしてるううううう」
「どうしたんですか、お嬢様? ついに頭がフカフカに侵食されちゃったんですか、嘆かわしい」
うるさいうるさい、そもそもこの状況を創り出したのは誰だっていうと、遥香だからね!
今の遥香イコール吸血鬼の遥香とは限らないけれど。
むー……。
でもこれって私にはどうしようもないんじゃないの?
遥香は私をこの無限ループに閉じ込めて何がしたいというのだろうか。
ループしてる原因は……やっぱり、私をしずくちゃんと会わせたくないって事なんだろうか。
それが狙いだとしたら、本当に積みなんだけれども。
帰り道すがら。
夕日を見つめながら。
「遥香はさー、私に好きな人ができたらどうする?」
できるだけ不自然にならないように聞いてみる。
「……どうしたんですか? 急に」
遥香は急に何言ってんだコイツという表情をして聞き返してくる。
「いやまぁ。なんとなく遥香はどうするのかなぁって」
「別にどうもしませんよ。ただ……」
「ただ……?」
「いえ、なんでもありません」
その後、私たちの間に交わす言葉は無くて。
遥香が言いかけた言葉が結局何だったのか。
それを問いかける勇気も無くて。
私は沈んでいく夕日を見つめながら、遥香と共に家路についた。
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