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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
第一章 『百合百合』したい。
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第三十七話

 ギターの音が音楽室に鳴り響く。


 シトシトと降る雨の音をかき消すように。


 鬱屈とした気持ちを吹き飛ばすように。


 飛鳥ちゃんのピックは弦をかき鳴らし。


 楽しそうに弾き語る。



「どうかな? のぞみ」


「うん、とってもよかった」


「そかそか」



 そう言いながらピックで弦を弾き、フィニッシュ。



「お粗末様でした」


「すごいね、飛鳥ちゃん」



 私は拍手をして絶賛する。



「んー、まぁこれは私の中のお姉ちゃんの『存在』としての記憶の成果だしねー……。ちょっと複雑ではあるんだよね」


「そういうものなんだ?」


「私の努力の成果ってわけじゃないしね。死ぬ前はレベル1だったのに、転生したらレベルマックスになってました? みたいな?」


「今流行りの異世界チート?」



 私はウェブ小説なんかで流行っている、物語たちを思い返す。


 転生したら、とってもチートな職業になっている話。


 無能力者の平民が異世界に転生したら、その能力で成り上がる話。


 色々だ。



「そんな感じかなー。うん。自分でそういう体験することになるとは思ってもみなかったけど」



 飛鳥ちゃんは自嘲しながら、私に告げる。


 まー、そうだよねー。


 私も『吸血鬼』になりたての頃は自分の能力に戸惑ったし。


 とはいえ、『吸血鬼』の能力は遥香が失踪して以来、意識して使わないようにしているのだけれども。


『吸血鬼』の能力を行使することが罪のように思えたから。


 だから私はもう―――。



「どうしたの? のぞみ?」



 いつの間にか飛鳥ちゃんが私の目の前にやって来ていて俯いていた私の顔を覗き込んでいた。



「ん……なんでもないよ?」


「姶良さんのこと、考えてた」



 ズバリ核心をつかれて。



「―――うん」



 私ははぐらかすこともできない。



「あーあ、焼けちゃうなぁ。そんなに想われて姶良さんは幸せ者だね」



 そんな事を飛鳥ちゃんは微笑みながら告げる。


 幸せ、か―――。


 遥香は幸せだったんだろうか?


 私は遥香の事を弄んで、裏切ってしまったというのに―――。


 私の沈んだ気持ちを汲んでか。



「のぞみ。私とあんなに体を重ねたのになー。あれは遊びだったのかな?」



 飛鳥ちゃんはわざとお道化た調子で、言ってくる。



「いや、あれは救命行為というか、なんというか……」



 私はしどろもどろになりながら、言い訳にならない言い訳をするしかない。



「あははは。冗談冗談。私もそれぐらいのぞみに大切にされてるんだなぁって。だから嬉しいよ」



 私はあの時、遥香の事を受け入れなければいけなかったのかもしれない。


 それが私の『初めて』でも。



「私はさー、思うんだよ」



 飛鳥ちゃんはギターで弦を弾きながら語る。



「例え、のぞみがしずくに『恋』をしていたのだとしても」



 私はあの日、しずくちゃんに『恋』をした。



「でも、それでも、幼い頃からの姶良さんとの『絆』は壊れないって」


「でも、私は、遥香の事を弄んだんだよ?」


「それでも、だよ。二人は学園の『百合姫様』って噂されるくらいの仲だったんだしね」


「……それは私のただのセクハラだよ」



 自分と遥香の関係を利用した、ただのパワハラだ。



「その辺は本人に聞くしかないんじゃないかな?」



 飛鳥ちゃんは一曲弾き終えて、ギターを背中に担ぐ。



「さて、そろそろ、可愛い『眷属』ちゃん達も帰ってくる時間だし、帰ろうか? のぞみ」


「そうだね……」



 二人で連れ立って音楽室を出たところで、ヴェールを目深に被ったシスターに遭遇する。



「お久しぶりですね、『吸血鬼』さん」


「……この人は?」



 私は飛鳥ちゃんを手で制して一歩前に進み出る。



「何しに来たの?」


「やっと準備ができましたので。お迎えに参ったんですよ、あなた達を」



 準備?


 一体何の準備が整ったというのか。


 その疑問を口にする前に。



「―――『主』―――」



 いつの間にかやって来ていたしおりがヴェールの少女を見るなり声をあげる。


 え……?


『主』……?


 この子が『主』……?


 ヴェールの少女と遥香が同一人物……?


 そんな馬鹿な。


 ヴェールの少女と遥香は似ても似つかない容姿なのに。


 そんなことがあるはずが……。



「まだ、気付かないんですか? 『お嬢様』」



 少女はクスクスクスと嗤い始め、やがてその姿は。


 漆黒のローブを纏った遥香の姿に。


『存在』そのものが置き換わっていく。



「それにしても『偽人』が自ら自壊するとはね―――」



 飛鳥ちゃんの姿を見ながらいかにも気に食わないという口調で遥香は告げる。



「姶良さん、もうそういうこと言うの止めない?」



 私の前に進み出て飛鳥ちゃんは言う。



「姶良さんだって本当はわかってるんじゃないの?」


「フン……『偽人』でも『人間』でもない。中途半端なあなたには私の気持ちは分からない。分かるはずない……!!」



 遥香の言葉と共に私達は真っ黒な霧に包まれて、意識が薄れていき。


 目を覚ました私のすぐ上から。


 ひらり。


 ひらりと。


 桜の花が舞い降りていた。

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