第三十四話
週明けの月曜日。
走る車の窓の外に咲くのは傘の花。
赤、青、黄色、黒色、無色透明。
色とりどりの、傘の花。
一輪一輪形が違って。
背丈も違う、傘の花。
この地上はそんな花に覆われているのに。
見上げる空は真っ暗で。
今日もなお、雨は、降り続いている。
「ごきげんよう、のぞみ」
教室に入るなり『明日奈』に声をかけられる。
「うん、明日奈ちゃん、ごきげんよう」
私は『明日奈』に返事をして、自分の席に座る。
「そういえば、今日は、音楽室に来ないかい? のぞみ」
珍しく『明日奈』に思いもよらない誘いを受ける。
『明日奈』は仲の良い同級生たちとバンドをやり始めたらしい。
始めの方こそは何故にバンド? なんて思ったりもしたが。
よくよく話を聞いていると、『明日奈』は昔からバンドをしていたらしい。
きっと『飛鳥』ちゃんの姉の『明日奈』もバンドをしていたのだろう。
だから『偽人』の『明日奈』もバンドを始めたのだろう。
「うん。それじゃ今日はお邪魔しようかな」
そんな返事をした直後に、ホームルームを告げるチャイムが鳴り響く。
「楽しみにしてて欲しいな」
そういうと『明日奈』は自分の席へと帰っていった。
ホームルームが始まり、『眷属』ちゃん達は人から見えないのを良いことに思い思いの時間を過ごし始める。
しずくちゃんは私の消しゴムの上で、船をこぎ始め。
しおりは私が開いた教科書の文字を興味深げに見つめている。
全ての授業が終わると、しずくちゃんは大きく伸びをして一息つき。
しおりと連れ立って私が下校する時間まで学園のどこかへとふよふよと飛んでいってしまう。
遥香が失踪して以来。
それが『眷属』ちゃん達のルーティンだった。
『眷属』ちゃん達が連れ立って教室の外へと去ったのを見送った後。
早々に身支度を整えた『明日奈』に声をかけられた。
「音楽室、行こうか?」
「うん」
音楽室に向かう道すがら、『明日奈』は廊下ですれ違う下級生たちから黄色い声援を受けていた。
『明日奈』はそれに満面の笑顔でニコニコと手を振り返す。
その行為に下級生たちは更に甲高い黄色い声援を送る。
いつの間にか私達は下級生たちの輪の中に囲まれていた。
そして、そのすぐ斜め後ろに居た私はというと。
何とも言えない居辛さを感じていた。
これが『リア充』というものか、とひしひしと思い知らされる。
「……『明日奈』先輩の後ろにいる人って誰?」
「しっ……!! 知らないの? 『あの』有名な学園の『百合姫様』だよ」
「あー……『あの』有名な『百合姫様』か……。なんで『明日奈』先輩と一緒にいるの?」
「さぁ……『明日奈』先輩の事、狙ってるんじゃないの?」
「えー……『百合姫様』と『明日奈』先輩じゃつりあわないー……」
そんな下級生たちのひそひそ話が聞こえてくる。
聞こえてますよー。
思いっきり聞こえてますよー?
ひそひそ話になってませんよー?
下級生たちにそう言ってあげたかったけれども。
私はそういう大人げないことはしないのだ。
「そんなこと言ってると、あなたのその豊満なお胸、『百合姫様』に揉まれるわよ?」
なんてことを下級生の一人が言い始めたので流石ちょっとカチンときた。
私が学園では表向き才色兼備、品行方正のお嬢様の猫を被ってるのをいいことに言いたい放題言ってからにーーー。
「流石に、そういう偏見は良くないよ」
『明日奈』ちゃんはクールにそう言うと下級生たちはひそひそ話をやめ。
「す、すいませんでしたっ」
下級生たちは蜘蛛の子を散らすように去って行った。
「……ありがとう。『明日奈』ちゃん」
「ううん、いいよ。のぞみは大切な友達だしね」
そう言いながら笑う『明日奈』の笑顔は。
やはり『飛鳥』ちゃんとそっくりの笑顔で。
『明日奈』という『存在』を。
『明日奈』はやっぱり『飛鳥』ちゃんなんだなと。
『飛鳥』ちゃんという『存在』と同じように感じていた。
音楽室に着くと、そこにはバンドのメンバーが揃っていて。
「おつおつー♪ 『明日奈』」
「お、『明日奈』~。今日は彼女連れか~?」
「そんなんじゃないよ。そんな馬鹿なこと言ってないで。時間も無いんだしちゃっちゃと始めようか」
なんて軽い挨拶を交わし合いながら、『明日奈』たちは演奏の準備を始める。
私は、三人の演奏している前の机の椅子に陣取り。
彼女達の演奏に耳を傾ける。
あー……この曲は、確か。
一昔前に流行ったアニメの一シーンで使われていたロックな曲だったかな。
この曲、当時めっちゃ流行ったんだよなーなんて思いながら、『明日奈』達の唄に聞きほれてしまう。
『明日奈』はバンドのギタボ担当で。
それが自分の『存在』する証だとでも証明するように。
それが『多良見明日奈』だと主張するかのように。
『偽人』である『明日奈』は、『人間』の『飛鳥』ちゃんとは違う生を謳歌していた。
歌を歌っていた―――。
力強く、唄っていた―――。
その『存在』を、謳っていた―――。
『多良見明日奈』は今、ここに――。
『多良見明日奈』はこの場所に―――。
確かにここに『存在』していた―――。
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