第三十三話
日曜日。
雨は昨日までと相変わらず降り続け。
屋敷の屋根にシトシトシトと雨が降りしきる。
窓から見えるのはどこまでも暗い曇天。
そんな空の下。
しずくちゃんは相変わらず昼間からドールハウスのテーブルで眠りこけて。
しおりはというと不貞腐れた顔で、テレビの画面を見つめていた。
「しおりー?」
先程から、声をかけてはいるものの。
返事は、ない。
昨日見られた痴態のことをいまだに根に持っているようだった。
いいじゃない別に。
普段はトゲトゲしいのに、あんなノリノリで、はしゃいだくらい。
それぐらいあって、はじめて可愛げもあるというものじゃないか。
私なんて学園の皆から陰でコソコソ『百合姫様』なんてあだ名で呼ばれているというのに。
そもそもなんなのさ『百合姫様』って。
どれもこれも、全て、遥香のせいだ。
いや―――全部、自分のせいなんだけどさ。
始めはおかしいな? なんでだろうな? って疑問だったんだよ。
学園では容姿端麗、品行方正のお嬢様で普通にとおってると思ってたのに。
その実は百合を愛するお嬢様だってバレバレだったなんて。
その事を知ったのは遥香が失踪してしばらく経った日の事だった。
クラスメイトの皆がやけに優しいなぁ……。
なんでだろうな? と思っていると。
『明日奈』があんなに百合百合しく仲の良かった遥香が失踪して落ち込んでいる姿を見るのは忍びないと励ましてくれているのだと教えてくれた。
違う。そうじゃない。
いや、まぁ落ち込んではいるのは確かだけど、そうじゃあない。
そう否定したかったけど否定することもできず。
まるで腫れ物を触るような扱いを受け続けているというのに。
だから。
たかが、時代劇が好きな『吸血鬼』の『眷属』だからなんだというのだ。
そう声を大にして言いたい。
それをこの『眷属』ちゃんに分からせたい。
分からせてやりたい。
けど―――。
それはダメだ。
やっちゃダメなことだ。
それじゃ、遥香にしてきたことと同じになってしまう。
私は二度も同じ轍は踏まないのさ、フフン。
褒めてくれ給えよ?
何も出ないけどね!!
そんな風に自分ツッコミをしていると。
「のぞみ―――」
しおりがテレビから視線を離さずぼんやりと。
「私は『主』から捨てられたのだろうか?」
そんな事を問うてきた。
いや、問いかけではないか。
私もあえてテレビの方を視線を向けたまま。
「どうだろ。私は、―――そんなことないと思ってるけど」
しおりの隣でぼんやりと応える。
本当はしおりも捨てられたと分かってはいるのだ。
でも、本当は―――。
遥香も捨てたくて捨てたんじゃないと、私は思いたかった。
しおりは使えない『眷属』なんかじゃない。
今まで、忠実に『主』の遥香の命に従ってきたのだ。
だから、けっして使えない『眷属』なんかじゃない―――。
「のぞみ―――」
「何? しおり―――」
「『主』が再び私の前に現れたら、私は『主』に従う―――」
「―――いいよ。それでも―――」
別にそれでも良いと思っていた。
元からそのつもりでいたし。
しおりに従って欲しくて助けたわけじゃないのだし。
私はしおりに生きていて欲しかった。
ただそれだけなのだから。
「―――私は、しずくと殺しあうかもしれないんだぞ?」
「―――もうできないでしょ。そんなこと―――」
しおりは本当は優しいというのは。
この一か月弱、一緒に過ごしていて。
身に染みるほどわかっていた。
しおりは優しいのだ。
『主』の事を自分よりも大切にするぐらい。
どうしようもなく優しいんだ。
「―――のぞみ。おまえがしずくに『恋』をしなければ―――」
「―――そうだね。でも、もうそれは取り返しがつかないし―――」
しおりが『偽人』を増やし続けた罪が取り返しがつかないように。
私が遥香にしてきた罪は取り返しがつかない。
しおりは遥香に、しずくちゃんを斬れと命じられたら、きっと―――。
だから、私も、遥香に再び会ったら、きっと―――。
私としおりの間に、沈黙が訪れる。
その時、テレビから『オーレー♪ オーレー♪ マツタケサンバー♪』という軽快なリズムと歌が鳴り響く。
「……なんだ? この歌は」
しおりは冷めた視線で、誰だこいつといった感じで『マツタケ』を見つめ呆れる。
『マツタケ』はしおりの大好きな時代劇の主役だよー、と心の底でツッコミながら。
空気読まないな、この『マツタケ』と思う。
でも、今のどんよりした気分を晴らすには丁度いいのかな。
そんな気がした―――。
そして、穏やかな休みの日々が終わりを告げ。
再び忙しない、日常が始まる―――。
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