第三十一話
どうしてこうなった―――。
私は人間サイズになったしおりに馬乗りになられて、何故か説教を受けていた。
いやまぁ、『何故か』ではなくて『必然』ではあるのだけれど。
「だいたい、のぞみが、悪いのだ。『主』という者がありながら『眷属』に現を抜かすなど―――」
そう告げるしおりの瞳は完全にすわっている。
クドクドクドクドとしおりの説教が続いている。
もう何度同じ言葉を聞いたのか分からない。
「しおりって溜め込むタイプなんだね……」
言いながら、はぁ……と小さくため息をつく。
「いいえ、あなたが、勢いで生きすぎなのだ。あなたは、もう少し、深く考えてだな―――」
いやもうそれは身にしみてわかってるから。
反省してるんだよ? これでも。
それでも延々と私に説教をし続けるしおり。
事の始まりは、かれこれ夕飯を食べて、さて眠りにつこうかと思っていた時間に遡る。
「たーけーのーこーっ!!!」
遥香が失踪して以来、自分の身の回りの世話は自分でしないといけなくなったのもあり。
今日、ストックしていた『たけのこの薮』を切らしてしまったのだ。
「しずくちゃんー……。……この『きのこの森』じゃ駄目かな?」
私は自分用に買っていた『きのこの森』を差し出しながらそう告げる。
「きぃーのぉーこぉーーーぉ? ―――先輩、ボクに『戦争』をしかけてるの?」
私を見つめるミニサイズのしずくちゃんの瞳は紅く妖しく不気味に輝く。
「―――そんなに怒らなくても……」
背筋に冷たいものを感じながら私はお菓子棚に『きのこの森』をしまう。
そして、ふと、綺麗に包装された高そうなチョコレートを見つける。
あー……そういやこれ、開けてなかったなぁと思いながら消費期限を見る。
ちょうど消費期限ギリギリだった。
……バレンタインの時に遥香に友チョコだって言われて貰ったんだよね―――。
あの時は私はお返しに何を渡したんだっけ。
なんか碌でもないものをあげたような気もするけれど。
とりあえず、今日はこれで我慢してもらうことにしよう。
そう思いシュルシュルと包装をはぎ取り、しずくちゃんに一粒のチョコレートを手渡す。
「これ、食べてみる?」
「え? わ……これ、めっちゃ高そう……」
私が持つチョコを両手で受けとりながらしずくちゃんは呟いて。
そのチョコを口にした。
「お、美味しいーーー!!! これが上流階級の味……」
しずくちゃんは私が手にした箱からチョコをひょいひょいと受け取りながら次々に口にしていく。
「むぐむぐむぐ。しおりー、これ美味しいから一緒に食べようよー」
「私は甘いものは別に―――むぐ」
そう言いかけたしおりはしずくちゃんに無理やりチョコレートを口にさせられてしまう。
「むぐむぐむぐ―――た、たしかに、美味だ―――」
「でしょー。だから、一緒に食べようーーー」
そして二人の眷属たちは私が手にした箱の中のチョコレートを空にしていく。
私も二人に全部食べられる前に一粒くらいは食べてみるかなと思い、一粒、口にした。
「ん……美味しい……んんん?」
甘さの中に広がる僅かな苦みに私はハッとしチョコレートの原材料を確認する。
アルコール2%―――。
人間の自分には、それぐらい大したことはない分量なのだけれども。
今、このチョコレートを食べているのはミニサイズの『眷属』ちゃん達なのだ。
一粒のチョコレートのアルコールでも十分すぎるというのに、それを大量に―――。
私は嫌な予感がして二人の様子を見てみると。
しずくちゃんは食べ過ぎて酔いが回ったのか、ふよふよとその辺をふらつきながら飛んでいた。
「せーんーぱーいー……もっと―――」
とか言ってる間にパタリと力尽きたように地面に落ちて目を回していた。
はぁ……とりあえず、ドールハウスのベッドに寝かせておこう……。
そう思いしずくちゃんを両手ですくいあげてベッドに寝かせてあげた。
「……せんぱーい、たーけーのーこー!!」
むにゃむにゃと口にしながらそんな寝言をするしずくちゃん。
本当に可愛いなぁ……。
って……和んでる場合じゃなかった。
もう一人の『眷属』ちゃんの世話もしないとだった。
そう思った瞬間。
私はすごい強い力でむんずと首根っこを掴まれてベッドに押し倒されてしまった。
そしていつのまにか人間サイズになっていたしおりが私の上に馬乗りになる。
「のぞみ! そもそもだな。あなたがしずくに現をぬかさなければ―――」
と、そんな感じで、私の上で延々としおりは説教をのたまい始めたのだった。
で、今に至る―――。
しおりが私に説教を始めて小一時間。
しおりの呂律はだんだんと回らなくなり。
いつの間にか私の胸に顔を埋めてすやすやと寝息を立て始めた。
はぁ……つ……疲れた……。
身から出た錆とはいえ、同じことの繰り返しで延々と説教を受けるのがこんなにつらいことだとは。
『だいたい、のぞみが、悪いのだ。『主』という者がありながら『眷属』に現を抜かすなど―――』
しおりに聞かされた言葉がチクリと心に棘のように刺さって抜けない。
―――そんなこと。
―――そんなこと、わかってるっての。
小さくため息をつき、しおりの頭を撫でる。
「……あるじ―――」
そううわ言のように寝言を呟いたしおりの瞳からツツっと一筋の涙が溢れる。
私はしおりの頭を優しく撫でながら。
そのまま、訪れてきた深い眠りに誘われていった。
チュンチュン―――。
ガッ!!!
柔らかな温もりに包まれていたかと思ったらおもいっきり頭部に激痛が走る。
「……痛い……」
頭を抑えながら目を開けるとそこには、人間サイズのしずくちゃんが鬼のような形相をして仁王立ちしていた。
「う・わ・き・しないでって言ったよね?」
ドスの効いた声でしずくちゃんは私に告げる。
顔を横に向けるとそこには私に寄り添うように眠るしおりの姿。
完全に同衾である。
私はしずくちゃんに昨晩の事を言い訳をするも聞く耳を持ってくれない。
「すいませんでしたっ!!!」
結局、しずくちゃんの機嫌がもどったのは『たけのこの薮』を1カートン買ってあげてからだった。
そんな量、買ってどうするんだって話なのだけれども。
私の『眷属』ちゃんの為なのだから、しかたがなかった。
評価、ブクマありがとうございます!
今後もお気軽にブックマークなどしてくださると幸いです。
感想は、面白そう、つまらないでもなんでも結構です。
評価も、気軽に★1個でも構いませんので付けてくだされば嬉しいです。
それが書く気力になりますので!
是非ともよろしくお願いします!




