第二十三話
星が。
煌めく星が降っていた。
満天の星の下。
私は地面に寝転んだ少女の体を貪る。
私の手が少女の体の上をまるで蛇のように蠢き。
折れてしまいそうな少女の体を味わう。
味わってゆく。
夜の空に一条の光が流れる。
同時に少女の揺れる紅い瞳の中から一筋の涙が流れる。
少女は微笑みながら、ただ泣いていた。
私はその涙を拭うことができずに。
せめて、少女が秘めた悲しみを忘れることができるように。
少女の唇に口づけを交わし。
熱い吐息を交わしあいながら。
少女に快楽を与えていく。
少女の生き血を啜り、少女の『存在』を吸い尽くしていく。
強張った少女の体は次第に快楽の虜となり。
そして。
少女の精神は弾け飛んでいった。
それはとても。
綺麗な星が流れていく夜の日の出来事だった―――。
―――
「やぁ、今日も可愛いね。のぞみ」
教室に入るなり、飛鳥ちゃんだったはずの偽人・明日奈にそう声をかけられる。
私は、彼女のその顔をまともに見ることができずに、『ごきげんよう』と言葉を返すことしかできない。
頭の上に乗って私の前髪を掴んでいたしずくちゃんの手に力が入るのが伝わってくる。
「どうしたんですか、お嬢様。昨日は多良見さんとあんなに仲良さそうにしていたのに。多良見さんにセクハラでもしたんですか?」
事情を知る由もない遥香がそんな能天気な言葉を投げかけてくる。
私の気持ちなんてわかるわけないよね、このふかふかメイドはと思いながら。
ただの人間でしかない遥香には私の事情など知る由もないのだからと。
やり場のない怒りを抱えながら、私はぼんやりと教室を見渡す。
視界の範囲にはいたるところに明日奈やみやびを含む『偽人』達が教室で何食わぬ顔をして談笑している。
その事に誰一人気付いてなんかいやしないのだ。
それが、私は許せなかった。
けれど、それは私の力ではどうしようもなくて。
何一つ知らずに過ごしていた方がましだったのかもしれない。
でも、私は知ってしまった。
『偽人』という存在を。
『しおり』という存在を。
この状況を。こんな状況を、作り出している『しおり』のことが許せなかった。
私は『しおり』を止めなければならない。
『吸血鬼』として。
もう二度と飛鳥ちゃんみたいな被害者をだしてはいけないのだ。
だから私は覚悟を決めることにした。
私に何ができるのか分からないけれど。
けれど私は行動しなければいけないのだ。そう心に誓った。
「それで……具体的にはどうするの? 先輩」
放課後の空き教室で、ミニサイズのしずくちゃんと向き合いながら。
私は改めてしずくちゃんに想いのたけをぶつける。
しずくちゃんは、その言葉を、想いを無言で受け止める。
しかし。
「正直、ボクには今の状況が分からない。飛鳥先輩が何故『偽人』になったのか。『主』とはなんなのか。ボクにも分からないことだらけなんだよ」
『眷属』であるはずのしずくちゃんが分からないことが起きている。
これでは、現状、八方塞がりじゃないか。
それでも私に出来ることはないのかと私は私に問いかける。問い続ける。
飛鳥ちゃんは殺されて、『偽人』になったわけではなかった。
『何か』別の原因で『偽人』にさせられた。
そんな予感がした。
「それなら、当たって砕けろだよね」
そう口にして私は教室に向かう。
放課後のまばらになった教室の中、明日奈が一人、宿題と格闘している。
私はその姿にツカツカと足音を鳴らしながら近寄り。
「明日奈ちゃん。少し話をしましょうか」
そう声をかける。
偽人・明日奈から何か得られる情報がないか探るのみ、だ。
「明日奈ちゃんは飛鳥ちゃんじゃないの?」
「ん? 私は明日奈だけど。飛鳥は年の離れた妹の名前だよ?」
「妹……?」
「そう、妹。のぞみみたいに容姿端麗でおとなしくって。将来のぞみみたいに美人さんになると思ってたんだ」
そんな話をしながら、明日奈の眼は遠く何処かを見つめている。
「思ってたってどういうこと……?」
「私を残して遠くへ行ってしまったんだ。本当に遠くへと」
遠く……それはつまり、飛鳥ちゃんは死んでしまったという事か。
しかし、飛鳥ちゃんに姉がいたという話は初耳だ。
それに飛鳥ちゃんが私みたいに容姿端麗でおとなしい子?
そんなことはありえない。私にとっての飛鳥ちゃんは今の明日奈のようにクールでボーイッシュな女の子だったのだから。
何か。何かが食い違っている。
「先輩、ちょっと……」
私の頭の上で私たちの会話を聞いていたしずくちゃんが私の前髪を引っ張る。
「ん、わかった。ありがとうね、明日奈ちゃん。それじゃまた、さようなら」
「うん、のぞみ、さようなら」
明日奈と別れ、空き教室に戻ってきた私としずくちゃんは知りえた情報を整理する。
明日奈ちゃんには妹がいて、それが飛鳥ちゃんだった。
飛鳥ちゃんは私と似たような子で、クールでボーイッシュな子ではなかった。
これっていったいどういう事だろう。
「しずくちゃん。今までの『偽人』って皆こんなだった?」
「それは、わからない……かな。ただ『偽人』は元になった『人間』とまったく関係ない人物ではないということかも……?」
『偽人』の関係者が『偽人』の元になっている人間なのだとしたら。
『人間』を何らかの方法で『人間』の関係者である『偽人』に変換しているのだとしたら。
『偽人』も何らかの方法で『偽人』の関係者である『元の人間』に変換できるのではないだろうか?
その方法は何か分からないけれども。
元に戻せる方法はきっとあるはずだ。
そうじゃなきゃこんな世界は悲しすぎる。
この世界は希望で溢れているべきだ。
絶望だけじゃ救いがなさすぎる。
だから、私は希望を胸に前を向いて歩いていくことにした。
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