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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
第一章 『百合百合』したい。
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第二十二話

 カチカチカチ―――。


 時計の秒針が時を刻んでいく。


 カチカチカチ―――。


 ほんの数十分前は私と飛鳥ちゃんの穏やかな日常が続いていたはずだったのに。


 カチカチカチ―――。


 机や椅子、教科書やノートが辺り一面散乱し。



「飛鳥……ちゃん……?」



 のそりと幽鬼の如く起き上がった少女は私に向かって微笑み。



「いやだなぁ、のぞみ。私の名前は『明日奈』。多良見(たらみ)明日奈だよ。忘れちゃったのかい?」



 飛鳥ちゃんの面影を残した少女はそうにこやかに笑い。嗤う。嘲笑う。


 私は『明日奈』と名乗る『偽人』の笑みに耐え切れず教室から駆け出してしまう。


 今すぐその場から逃げ出したかった。


 逃げ出すことしかできなかった。


 飛鳥ちゃんのふりをした『明日奈』と名乗る少女の前から。


 できるだけ遠くに逃げ出したかった。


 けれどすぐに私の息はあがってしまい、近くの空き教室に駆けこむしかなかった。


『眷属』って『何』なの?


『主』って『誰』なの?


『偽人』って『何』?


『しずく』ちゃんが『出来損ない』?


『飛鳥』ちゃんは本当に『偽人』になってしまったの?


 頭の中を色々な疑問が渦巻き、巡り巡る。


 その思考のせいで、私の足はすくんでしまってしまい思うように動けない。



「落ち着いてっ、先輩っ!!!」



 いつの間にか私の眼の前にやってきたしずくちゃんが私の肩を揺さぶり私の事を気遣っていた。


 けれど私はその言葉に応えることができなくて。


 言葉を紡ごうとしても言の葉が口から出てこない。


 ふいに。


 私の口に暖かいものが触れる。


 口内に溢れる温かな吐息。


 肩を震わせ立ちすくんでいた私は。


 しずくちゃんから口づけをされていた。


 ファーストキスだった。


 ファーストキスはレモンの味とか言うけれど。


 そんな事は全然なくて。


 私の流した涙の味でしょっぱい味がした。


 少し気分が落ち着いた私は口づけをしてきたしずくちゃんの体を胸元にひき、強く強く抱きしめる。



「先……輩……ん……」



 両腕に力を込めるとしずくちゃんの口から甘い声が漏れる。


 その声に誘われるように私はしずくちゃんの味を確かめる。


 先程までぐるぐると混乱していた思考を誤魔化すように。


 私はしずくちゃんの体に夢中になっていく。


 これはしずくちゃんとの『契約』。


『主従』の『契り』。


 だから。



「ゃ……ん……」



 交わした口から私の舌がしずくちゃんの口内へと侵食していく。


 しずくちゃんの口内で私の舌と少女の舌が絡み合い。


 同時にしずくちゃんの体を抱きしめる腕に更に力がこもる。


 私は私の唾をしずくちゃんの体に流し込み、しずくちゃんの口から少女の唾を舐めとる。


 しずくちゃんの口内を楽しみながら。


 私は快楽に身を任せ始めたしずくちゃんの肢体を堪能する。


 腰に回した手がお尻に、秘部に、様々な部分をまるで触手のように這いまわる。


 沈みきった日の光に変わり。


 丸く真白な月が私達の行為を淡い光で照らしている。



「大丈夫だよ……先輩……。……ボクが『全部』なんとかするから。大丈夫だから……」



 しずくちゃんは私の頭を自分の胸に寄せ抱きしめる。


 私はしずくちゃんの甘い香りに包まれながら、襲ってくる睡魔に身を委ねていた。


 ―――


 クスクスクスと、薄暗い笑みが暗闇の支配する空間に木霊している。


 ヴェールを被った少女はの笑みだけが暗い部屋に響き渡っていた。



「良かったわよ、『しおり』……」



 頭を垂れかしずく黒衣の少女に、ヴェールの少女は微笑みかける。


『しおり』はただ無言でヴェールの少女に付き従う。


 ヴェールの少女は『しおり』の『主』にして絶対的な存在。


『しおり』は『従者』であり、その『眷属』。


『従者』は『主』の為に存在し、『眷属』は『主』の為に存在する。


 だから、『主』を持たない『しずく』は、『出来損ない』の『眷属』なのだ。


 あんな『存在』、『眷属』とは言えない。


 言ってはならないのだ。


 だから、いつか『しずく』は、必ず始末する。


 しかし、その前に―――。



「『しおり』……。さぁ、あなたの血を啜らせてちょうだいな―――」



『しおり』はヴェールの少女にその体を弄ばれながら。


『しおり』はその身を。


 その血を捧げていく。


 これこそが、『しおり』にとっての『至福の時間』。


 これこそが、『しおり』が『眷属』として、『存在』している『意味』。


『しおり』の精神は恍惚となりながら。


 ヴェールの少女にされるがまま。


 その肢体を貪られていく。


『しおり』の『存在』は―――。


『主』の手によって少しずつ―――。


 けれど。


 確実に。


 擦り減っていた―――。


 ―――


 ―――分からない。


 しずくにとって今の状況は分からないことだらけだった。


 しずくはこれまで『眷属』として生きてきた。


 物心がついて以来。


 しずくは『しおり』を追いかけて。


 姿をくらました『姉』の姿を追い続けて生きてきた。


『眷属』として。


 たった一人で生きてきた。


 でも、それだけでは『眷属』として足りないと『しおり』はいう。


『眷属』には『主』がいる。


 しずくは昇っていく月を見上げながら思う。


『ボク』の『主』は『誰』なのだろう、と。


『しおり』の『主』は『誰』なのだろう、と。


 答えのでない問いかけを―――。


 月に向かって問いかける。


 少女達の未来は―――。


 未だ月の光も届かぬ深い闇の中を進み続けている―――。

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