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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
第一章 『百合百合』したい。
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第二十一話

 

 この世界には多良見(たらみ)飛鳥という少女がいた。


 少女には一人の姉がいた。


 姉の名前は―――。


 姉妹は性格も容姿もまるで正反対で。


 姉は自由奔放を絵に描いたような少女で、ボーイッシュな女の子。


 飛鳥は容姿端麗、品行方正を地で行くようなお嬢様。


 まるで性格の違う二人だけれど、姉妹は仲良く暮らしていた。


 あの日が来るまでは。



「お姉ちゃん、今日は私も連れて行って」



 ある日の夕方。


 ギターを背負い家を出て行こうとする姉を見かけて、飛鳥は姉に声をかける。



「駄目。飛鳥にはまだ早いから。私みたいになるには後三年は必要かな?」



 そう言って姉は飛鳥の頭を撫でる。



「うう……分かった。私も早くお姉ちゃんみたいな大人な女の子になる」


「よしよし。飛鳥はいい子だね。飛鳥は将来綺麗なお嬢様になるよ」



 満面の笑顔で姉はそう微笑み、家の扉を開けて出かけて行ってしまった。


 姉が開け放った扉の先は。


 まるで血のように赤き黄昏。


 昼と夜の合間の一時。


 姉はその中へと吸い込まれるように溶け消えていく。


 その光景を飛鳥は忘れることができなかった。


 そして。


 姉は二度と。


 飛鳥の家に戻って来る事がなかった―――。


 交通事故、だった―――。


 姉には何の非も無い事故だったという。


 姉が何気なく歩いていた横断歩道にトラックが突っ込んできたらしい。


 姉はどうする事も出来ず人形のようにトラックに弾き飛ばされて頭を殴打したという。


 即死だった。


 その日の夜に見た、血まみれだった顔を綺麗に拭われた姉の顔はもうよく思い出せない―――。


 代わりに思い出すのは夕焼け色に染まった空の下。


 満面の笑顔で飛鳥の頭を撫でる姉の姿―――。


 姉は、幸せだったのだろうかと、姉の部屋に入るたびに飛鳥は思う。


 姉はどうして死ななければならなかったのかと。


 私が死ねばよかったのにと思うようになっていた。


 それから三年の時が流れた―――。


 飛鳥は姉の事を思いだしながら、姉の使っていた鏡を覗き込む。


 鏡に映るのは相変わらずお嬢様然とした飛鳥自身の姿。


 そこには自分がなりたかった自分の姿はいない。



「私は、お姉ちゃんのようになりたかったのに」



 飛鳥はポツリと呟き涙を流す。


 ホロリ、ホロリと涙を流す。


 一頻り泣き腫らした後。


 姉との思い出に飛鳥は耽る。


 愛してやまない姉との深い甘い思い出。


 甘く切ない気持ち。


 飛鳥の『初めて』の経験は姉とだった。


 飛鳥が自分の『初めて』を貰って欲しいと姉に駄々をこねて。


 姉はしょうがないね、とため息をついて笑顔で飛鳥の想いに応えてくれた。


 姉の手が自分の体を這いまわる感触。


 姉の荒い息遣いが自分にも伝わってきて。


 飛鳥の気持ちも昂っていった。


 そして、飛鳥が『初めて』の絶頂を迎える頃には。


 汗だくになった二人の少女の肢体が姉のベッドに横たわっていた。


 飛鳥は姉のベッドにやってくると姉との思い出を呼び覚ます。


 自分の手で自分の胸や、腰を揉みしだき、姉の手の感触を呼び覚ます。


 行為に耽り、気持ちが昂り。


 飛鳥は自分の衣服を上から順番にはぎとっていく。



「お姉ちゃん……お姉ちゃん……っ」



 虚ろな目をした飛鳥はうわ言のように姉を呼ぶ。



「寂しいの……お姉ちゃん……っ」



 もうこの世にはいない、愛しい姉の事を呼ぶ。



「お姉ちゃ……ん……ッ!!」



 ビクリ、ビクリと飛鳥の体は達してしまう。


 行為を終えた飛鳥は姉のベッドの上で天井を見つめながら姉の思い出に浸る。


 やがて放心していた全裸の飛鳥は、姉の使っていた化粧品や染料を手に取り。


 自身の髪に、頬に、唇に、色を付け始める。


 飛鳥の髪の色は姉の髪の色に変わり果て。



「―――私は、お姉ちゃんになる……」



 その日から多良見飛鳥という少女は。


 容姿端麗、品行方正を地で行くようなお嬢様は。


 クールでボーイッシュな少女、多良見飛鳥として生きてきた。


 姉と同じ姿となって生きてきた。


 お嬢様学校の中では、この外見は浮いていたけれど。


 それでもそんな事は関係なかった。


 飛鳥にとってはこの姿が。


 自分が愛したこの姉の姿こそが理想の自分自身なのだと。


 そう思いながら生きていた。


 そんな折。


 飛鳥はのぞみと出会った。


 はじめはただのクラスメイトだったけれど。


 容姿端麗、品行方正なそのお嬢様は。


 昔の飛鳥自身によく似ていて。


 だからこそ飛鳥はのぞみに惹かれ始めていた。


 のぞみが飛鳥に声をかけてきたとき、飛鳥は仲良くなるチャンスだと思った。


 飛鳥はのぞみに『魅了』をかけられて行為に及んだわけではなかった。


 自分の意志で。


 自らの意志で、自分の体をのぞみに捧げたのだ。


 のぞみは何か勘違いをしていたみたいだけれど。


 飛鳥は心の中ではのぞみと再び行為に及ぶことができることを強く望んでいた。


 のぞみと話をしているうちに。


 のぞみと触れ合ううちに。


 その想いが溢れて。


 心の底から溢れ出て。


 飛鳥はかつての姉との関係のように、のぞみと関係を深めたくなってしまった。


 のぞみと再び行為に及ぶことができれば、自分と姉が再び結ばれるのではないかと思ってしまった。


 失われた姉と自分の関係を、のぞみを通して再び取り戻せるような気がした。


 それなのに。


 ただそれだけなのに。


『飛鳥』の『自我』はだんだんと薄らいでいき。


 だんだんと『飛鳥』は自分が自分ではなくなっていってしまった。


 死んだ姉のようになりたい―――。


 その想いが『飛鳥』を『飛鳥』ではなくしていってしまっていた。


『飛鳥』の想いは、『飛鳥』の『自我』をこの地上から消え去ったはずの姉のようにしてしまっていた。


 姉の姿を模しただけの『飛鳥』の心は、かつての姉のようになっていった。


 だから『飛鳥』の『自我』は『崩壊』していくしかなかった。


『自我』が『崩壊』してしまえば『存在』も失われてしまう。


『飛鳥』という『存在』は、『姉』という『存在』へと変容してしまう。



「ァ……あ……ア……」



 呻き声を漏らすその少女は。


『飛鳥』という少女は、もうこの世界から『存在』を書き換えられて。


 少女の『残響』が。


 少女の面影を残した『偽人』が。


 陽炎の様に、この世界に『存在』していた。


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