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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
第一章 『百合百合』したい。
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第二十話

 黒衣の少女は私達の様子を見つめながら笑い、嗤う。



「そのまま、愛しあっておけば、何も知らずに幸せに『イけた』のにね……」



 そう呟いてトンっと音を立てて床に着地し『しおり』は腰に付けた鞘から黒刀を抜き放つ。



「そうはさせないよ!! 『しおり』っ!!」



 しずくちゃんは瑠璃色の棒から瑠璃色の刀を抜き放ち、『しおり』に向かって斬りかかる。


 一閃、二閃、三閃。


 しずくちゃんが瑠璃色の刀を振るうたびに周囲の机達が両断されていく。


『しおり』はしずくちゃんの斬撃を踊る様な足取りで、すんなりと躱していく。


 しかし。


 広いとはいえ教室も室内なので避けるだけではやがて端に行きつく。



「もう、後が無いよ。『しおり』」



 そう言いながらしずくちゃんは『しおり』に刀の切っ先を向ける。



「フン……それはどうだろうな?」


「これで終わりだよ、『しおり』っ!!」



 しずくちゃんが『しおり』に向けた瑠璃色の刀を袈裟懸けに一閃した瞬間。


 しずくちゃんの目の前にいたはずの『しおり』の姿は掻き消えて、私と倒れ伏した飛鳥ちゃんの目の前に現れる。



「なっ……!?」


「しずく、お前は『偽人』のことを『吸血鬼』や『眷属』が増やしているとか思っているようだが……」



『しおり』は倒れている飛鳥ちゃんの体を蹴り上げ、仰向けにする。



 飛鳥ちゃんはゴホッゴホッと軽く嗚咽を漏らす。



「あ……あ……」



 私は『しおり』に対する恐怖のあまり、動くことができなかった。


 しずくちゃんでも子供扱いだというのに。


 武器も持たない私にはどうすることもできなかった。



「半分当たりで、半分不正解だ」



 クスクスと『しおり』は手に持つ黒刀を一振りする。


 何も無い空間を、一閃した。


 ただそれだけなのに。



「ぐ……ぁ……」



 瑠璃色の刀を構えていたしずくちゃんのドレスのあちこちが千切れ舞う。


 まるで、あの日の桜の花のように、ひらり、ひらりと。


 千切れ、教室の床へと舞い落ちる。


 その様子を見つめながら。


『しおり』はクスクスと嗤いながら。



「『偽人』とは、そういう単純な『存在』ではないのだよ」



『しおり』は一体何を言っているのか。


 私には理解ができなかった。


 理解がまったく追いつかなかった。


『しおり』は飛鳥ちゃんの横腹を蹴り、呟く。



「その証拠に……ほら、もう『こいつ』はもう『偽人』化が始まっている」



 え……?


『偽人』は吸血鬼やその眷属に殺された者がなるのではなかったの?


 だって、飛鳥ちゃんはまだ生きている。


 さっきまで私と仲良く勉強をしていただけのはずだ。


『しおり』にだって斬られてなんていない。


『みのり』委員長のように無残な死体を晒しているわけではない。


 それなのに。


 それなのに、『偽人』化が『始まっている』?


 私は『しおり』に斬られるのを覚悟で飛鳥ちゃんに駆け寄る。


 そして、飛鳥ちゃんの体を抱きしめる。


 大丈夫、飛鳥ちゃんはまだ死んでなんかいない。


 大丈夫……大丈夫のはずだ。


 しかし『しおり』はそんな私の事など興味が無いという風に私を見逃し、スタスタとしずくちゃんの方へと歩いていく。



「……お前はいつから自分の事を『眷属』だと思っていた?」



 しずくちゃんは瑠璃色の刀を『しおり』に向け、その言葉をただただ聞き続けるのみ。



「お前は『眷属』のなりそこない。ただのガラクタだ」



 しずくちゃんは何も答えない。


 いや、答えることができないのかもしれない。



「違うっ!! しずくちゃんはガラクタなんかじゃない!!」



 だから私が代わりに言葉を紡ぐ。


 しずくちゃんは私の『従者』で『眷属』だから。



「フッ……『主』の『眷属』は『私』だけ。そいつはただの『出来損ない』なんだよ」



 私の言葉を鼻で笑い、『しおり』は私の言葉を戯言だと全否定する。



「フン……それにもう目的は済んだ」



 その言葉を残して『しおり』の姿は夕焼けの差し込む教室の陰に溶けて消えていく。



「な……待って『しおり』っ」



 しずくちゃんは『しおり』に向かって手を伸ばそうとするけれど。


 それは虚しく何もない空間を掴むばかりで。


 クスクスという笑いをを残して『しおり』は消え去ってしまった。


 そして残されたのは私達だけ。


『しおり』はまるでそこに存在していなかったかのように。


 教室も静けさを取り戻していた。



「先輩、飛鳥先輩はっ!?」



 私は抱きしめている飛鳥ちゃんをゆっくりと揺さぶり飛鳥ちゃんに声をかける。



「飛鳥ちゃん? 大丈夫、飛鳥ちゃん」


「あっ……アっ……」



 飛鳥ちゃんはカッと目を見開いたかと思うと、突然悶え、苦しみだす。


 その瞳には妖しい光が宿っている。



「……の……ぞ……み……?」


「あ、飛鳥ちゃんしっかりして!! 飛鳥ちゃんっ」


「私はッ……わ、た、し、は……」



 自身の体を抱きしめながら。


 飛鳥ちゃんの体が。


 肢体がビクビクと脈打つように跳ねる。



「しずくちゃんっ!! 飛鳥ちゃんはどうしちゃったの!? ねぇ!!」


「分からない……。ごめんなさい、先輩……」


「そんな……」



 なおも苦しむ飛鳥ちゃんの声が。


 苦しみに喘ぐその声が。


 私の心を抉っていく。


 何もできない無力な自分自身の心を痛めつけていく。


 それとは対称的に。



「アはッ……。……キモチイイ、キモチイイよ、のぞみっ!! もっと……もっと、私の体を犯してっ!!」



 飛鳥ちゃんの声は。


 嬌声交じりの。


 快楽を求める声に変わっていく。


 そして、その姿は。


 少女の体は別の少女の体へと変容していく。


 私としずくちゃんはその様子をただただ呆然と。


 見守る事しかできなかった―――。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Twitterから来ました。蛙鮫です。冒頭から覚悟はしていましたが,主人公は百合に狂いすぎてて笑いました。笑笑 所々,シリアスなところも盛り込まれているようですがそれ以上に主人公のイカレ具…
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