第十九話
週明けの月曜日。
終業のチャイムが鳴ると同時にしずくちゃんは寝ぼけ眼をこすりながらふよふよと教室から出て行ってしまった。
そんな訳で私は机の上のものを片付けていると。
「お嬢様。今日も多良見さんとお勉強ですか」
遥香が私の席までやってきて、そう問いかけてくる。
「そうだねー。一人でするより二人の方が捗るし」
私はそう答えながら飛鳥ちゃんの方を見ると飛鳥ちゃんがニコニコと手をひらひらと振っていた。
「遥香もたまにはどう?」
「遠慮しときますよ。私は時間までお嬢様をお待ちしておりますので」
「はいはい、分かった。それじゃまたね、遥香」
たまには遥香も一緒に勉強しても良いのだと思うのだけど。
私はあえてその辺は追及せずに遥香を送り出すことにした。
遥香は一人の方が勉強が捗るタイプなのかもしれないし。
そんな事を考えながら私は飛鳥ちゃんの席の隣に移動する。
「今日も姶良さんは外で待ってるんだ?」
「誘ったんだけどね。一人で勉強するほうが捗るんじゃないかな?」
「そういうものなのかな。まぁいいけど」
飛鳥ちゃんは特に気にした風もなく勉強道具を広げる。
私も同じように勉強道具を広げ、明日の授業の宿題にとりかかる。
この光景も比較的目新しいものでもなくなったのか、クラスメイト達は私達の事を意に介さずそれぞれ放課後の時間を過ごし始めていた。
カチカチカチ―――。
時計の秒針が時を刻んでいく。
「飛鳥ちゃん、ちょっといい?」
ぼんやりと数学の計算式の答えを考えながら飛鳥ちゃんに問いかける。
「飛鳥ちゃんは……どうして私と友達になってくれたの?」
「ん? あんなに愛しあったのにどうして友達にならないって選択肢があると思うの?」
勉強をしていた手を止め、きょとんとした顔で飛鳥ちゃんは逆に問いかけてくる。
「いや、あれは本当に、すいませんでしたっ!!」
はい、普通、赤の他人にそんなえっちなことしませんよね。
いくら飛鳥ちゃんが『魅了』の力で意識が混濁していて誘惑したのだとしても。
あそこまでえっちなことをして良い訳がないのである。
それなのに飛鳥ちゃんはその事を誰にも言わずに。
ただ『愛しあった』とだけ言って笑って済ませてくれている。
「私は、のぞみにされて。それは嫌ではなかったよ。これは、本当」
私の表情を汲んで、飛鳥ちゃんは人指し指を立てて私の口に当てながら囁いてくる。
「そして、私はのぞみの友達になれて、とても嬉しい。これも、本当」
言いながらにこやかに微笑む。
いつの間にか教室には私達以外誰もいなくなっていて。
私達の声だけが広い教室に響き渡る。
「また、いつかのぞみと愛しあいたい。これも、本当、かな?」
意地悪そうな笑みを浮かべながら私の口に当てていた人差し指を自分の口に当て飛鳥ちゃんは笑う。
「のぞみの口はとっても甘いね。今度は直接吸い付きたいな……」
「え、や、それはさすがに……」
ファーストキスは好きな相手としたいのだ。
私だって乙女なのだから。
飛鳥ちゃんのことは好きだけれどもっ!!
でもでも、私のファーストキスはまだまだとっておきたいっ!!!
ぐるぐると混乱する思考を無理やりまとめ上げようと私は頭を抱える。
「あはは、のぞみは本当にかわいいね。本当に」
そう言いながら何かを思い出すような瞳を飛鳥ちゃんはしていた。
「どうしたの? 飛鳥ちゃん」
私はその飛鳥ちゃんの微妙な表情の変化に気づき問いかける。
「ん? いや、もう昔の話だよ」
「そう……。なら良いのだけれど」
なんだろう。
いつもフランクな立ち振る舞いの彼女からは想像できない瞳だったのだけれど。
まぁ、昔の話だというのなら、深く立ち入るべき話ではないのだろう。
私は飛鳥ちゃんの友達なのだから。
彼女が話してくれるまで待つのが友達というものだろう、とコミュ障な私はそう思うことにした。
コミュ力抜群の人ならまた別の答えがあるのかもしれないけれど。
私にはこうすることしかできないし。
こうすることしかできないという自負があった。
自慢にはならないのだけれど。
「それはそうと、教室には私達、二人っきりだよ、のぞみ」
飛鳥ちゃんは立ち上がり私の耳元に顔を寄せ、甘い言葉で囁くように言葉を紡ぐ。
「う、うん。そうだね……」
改めてその事実を言われて私はキョドってしまう。
「ねぇ……久しぶりに愛しあわない? 私、のぞみに気持ちよくして欲しい……。 のぞみのことが欲しい……」
「え……? 飛鳥……ちゃん……?」
飛鳥ちゃんの瞳を見ると彼女の瞳に妖しい光が灯っているように見えた。
「先輩っ!! ちょっと離れてっ!!」
その言葉と共に教室に駆け込んできたドレス姿の少女が瑠璃色の棒を振り、飛鳥ちゃんの腹部を軽く殴りつける。
腹部を殴られた飛鳥ちゃんは呻きをあげその場に倒れ伏す。
「し、しずくちゃんっ!?」
なんでしずくちゃんが人間サイズで現れたのかとか。
なんで飛鳥ちゃんを殴ったのか意味が分からないとか。
というか、さっきの飛鳥ちゃんの様子はいったいどういうことなのかだとか。
色々分からないことがあったので、問い詰めたかったのだけれど。
「ざーんねん。せっかく、『まとめて』始末できると思ってたのに」
クスクスクスと冷たく嗤う黒衣の少女が教卓の上に座って、冷たい瞳でこちらを見つめいた。
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