第十八話
「サーセンでしたッ!!!」
「……毎度毎度、私の色んなとこを揉んで。イかせて。……私を辱めてそんなに楽しいんですかっ!!」
深々と土下座をしている私を冷めた視線で遥香が見下している。
「うん、楽しい♪」
土下座をした顔を上げ、にこやかな表情で正直に言ってやった。
言ってやったんだぜぃ♪
反省の言は述べるが私は『全く』反省なんてしてやいない。
このふかふかメイドに私に対する敬意が足りていないと分からせてやるまでは。
嫌でもイかせまくってあげるのだよ、毎日のように。
「……本当に残念なお嬢様ですね」
一つ大きなため息をついて虫けらを見るような瞳で遥香は告げる。
私に向ける眼差しはご主人様に仕えるメイドがして良い目ではない。
「何、そのこいつはもう社会的に死んでいる、的な目は?」
「実際、これ、社会に出たら世間体死んでますよ、お嬢様」
「私はただ単純にこう、百合百合したいだけ……なのだけどなぁ……」
「そ・れ・が・世間体死んでるって言ってるんですよ!! 本当に残念な方ですねっ!!」
「別に世間体なんて関係ないし。ニューノーマルな世界を一緒に目指そうよ」
「横文字でカッコよく言ったつもりかもしれないですけどお嬢様のしてることはニューノーマルを目指しているのではなくて、ただのセクハラなので」
ち……バレたか。
いくら私が女の子とイチャイチャしたいと想いそう実行したとしても。
その相手の同意が無ければ、ただのセクハラ、パワハラなのである。
私の行為を受け入れない遥香にとっては私は性的加害者でしかないのである。
遥香が公の場に出てこの状況を『もうこのお嬢様、訴えるニダ!!』なんて言いだしたら、私は絶対に負ける。
徹底的に負ける。
私の行為が公の下、明らかになれば、入来院のぞみの社会的な死は免れないだろう。
しかしそれがこうも許されているのは……。
……何でだろう?
小さい頃から嫌々ながらも私にスキンシップされ過ぎて、遥香の頭に私を訴えるとかいう考えが無いのか。
それとも何か別の理由があるとか?
……もしかして。
「遥香。実はあなた、毎日こうされる事、期待してるんじゃないの?」
「は? 脳みそ本当にふかふかになってしまわれたんですか?」
蔑んだ目をした遥香が抑揚のない声でそう言葉を紡ぐ。
なんだ、違うのか。もしそうならWin-Winの関係だと思ったのになぁ。
でもそれじゃあ、なんで私の行為を受け入れているんだろうこのふかふかメイドは。
心はいやだいやだと言いながら実は体は正直、的なことなのだろか? エロマンガによくあるやつ。
まぁそんなことはどうでも良いか。
私はこれからも遥香のふかふかを、柔らかな肢体を味わう事を欠かさないだろう。
それが、私の『Saga』だから!!
そうそれこそが私の『Saga』なのだ!!
大切な事なので、二度言いました。
百合こそが私の生きがいなのだ。
だから、いつかこのふかふかメイドに分からせてあ・げ・る♪
「それで、今日の朝も盛大にセクハラしたと……」
ドレスを着たミニサイズのしずくちゃんが庭を歩く私の頭の上で欠伸を噛み殺しながら呆れていた。
「毎日毎日、遥香先輩に罵倒されているのに懲りないの? それともそんなに罵倒されたいの?」
「いや、私にはそんな罵られ属性なんてないのだけれど」
「でも昨日カフェでボクに罵られてすごく幸せそうだったじゃない……」
「それは、しずくちゃんだからだよっ! 遥香の罵倒はこう。……愛がない」
「ボクの罵りも愛なんてないんだけどなぁ……」
スッパリキッパリそんな風に言われてしまう。
いやいやそれがそんな事あるんだよなぁ……。
遥香の罵倒は『この社会のゴミお嬢様が』的なものに対して。
しずくちゃんの罵倒は『本当に駄目なお嬢様ですね』的な愛情あふれるものなのだ。
その違いは歴然としている違いがある。
私にはそう感じるのだ。
そもそも遥香の私を見る目からして『社会のゴミ』を見る目だしね……。
私は遥香が私に向ける視線を思い出しながら苦笑いをこぼす。
「あれでもなー。小さい頃はもっと普通に仲良くしてたはずだったんだけどなぁ……」
「何、遠い目をして昔語りしてるの、先輩? もしかしてこれから回想パートに入っちゃったりするの?」
しずくちゃんはぐでーっとしながら長い話は聞きたくないといった感じで私の前髪を引っ張る。
回想パートねぇ……。
昔の事かー……。
始めは遥香のお母様が私付けのメイドだったんだよね。
だから遥香のお母様は私と遥香の三人でよく一緒に遊んでくれたのを覚えている。
昔の私と遥香は本当の姉妹のように育って。
本当に仲良く育って。
それで―――。
あれ……なんだっけ―――。
うまく記憶が掘り起こせない―――。
十年前、遥香のお母さまが死んで、遥香が私付けのメイドになって―――。
それから。
あれ……?
『それから私はどうしたんだっけ』?
私のそこからの記憶は、延々と『遥香』と『百合百合するため』に『セクハラまがいの事をしていた』記憶しかない。
『その』記憶しかないのだ。
私は、『どうして』。
私は、『なんで』。
私は、『こうなった』。
のか、記憶がまるで『全くない』。
『そこ』に至るまでの過程の理由が『何か』あるはずなのに。
私は『百合百合したい』。
私は『どうして』『なんで』『百合百合したい』のか?
それが全く『分からない』。
その事に気づき口元を抑え軽く嗚咽を漏らす。
考えたことも無かった。
『私は』『どうして』『百合百合したい』?
「先―――っ」
私はどうして……。
……それって……もしかして……。
自分の体に流れる『血』の事を思いだし血の気がサッと引いていくのを感じる。
「先輩っ!?」
耳元で心配そうな顔をしたしずくちゃんに声をかけられ、私はハッと我に返る。
そうだ、そんな事はあるはずがない。
私が女の子を好きなのは『吸血鬼』の血のせいなんかではなく。
自分の意志の。
心からの願望なのだと思い聞かせながら。
私は心配そうに見つめる眷属ちゃんの頭を撫でる。
「……大丈夫。ちょっと昔のこと、考えすぎちゃった……」
「……回想パートが長すぎるのは他人は置いてけぼりだから、程ほどにね? 先輩」
軽口を叩きながらも、本当に心配そうな瞳を向ける少女を安心させるために。
私は固まった表情筋を無理やり弛緩させ、柔らかな笑顔を作り出す。
心の底に渦巻く疑念をかき消すように。
その疑念が再び溢れ出してしまわぬように。
私は心の底に大きな蓋をすることにした。
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