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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
第一章 『百合百合』したい。
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第十五話

 終業のチャイムが鳴り。


 クラスメイト達がそれぞれ帰宅しようと身支度を整え始めた時間。



「のぞみ、今日は帰るのかい?」



 飛鳥ちゃんが席までやってきて私に問いかけてきた。


 私が『魅了』を使った日以来、飛鳥ちゃんはよく私の席までやって私の話相手になってくれる。


 初めの方こそ、えっちなことをした手前、どんな顔をして話せば良いのか分からなかったのだけれども。


 飛鳥ちゃんのフランクな性格もあってか、私は彼女に自然な笑顔を向けることができるようになってきた。



「んー……今日はレッスンも無いから、お勉強付き合うよ?」



 私は飛鳥ちゃんが手に持っている勉強道具に目を移しながらそう応える。



「ありがとう、のぞみ。とても助かるよ」



 飛鳥ちゃんはそう言うと私の隣の席を借りて席を向かい合わせにする。



「それじゃボクはその辺、ふらふらしてくる」



 私の消しゴムの上で頬杖をついて座っていたしずくちゃんはフワリと舞い上がると教室の外へと出て行ってしまった。


 その姿を私は見送って、私は飛鳥ちゃんの方へと向き直る。



「何を見ていたの? のぞみ」



 そんな事を問いかけられて私は何と答えようか逡巡する。


 けれど私の眷属ちゃんを見送っていたなんて答えられるはずもなく。



「ううん。ただちょっとだけ、気になっただけ」


「私という者がありながら浮気かい? お嬢様?」



 飛鳥ちゃんはそう言いながら私の顎を片手で掴み、私の視線をくぎ付けにさせる。



「あの日、あの時、あんなにも愛しあったというのに」



 まるで熱に浮かされたように歯が浮くような言葉を飛鳥ちゃんは口にする。



「……愛しあった?」



 いつの間にか席の近くにいた遥香はその言葉を聞いて背中にどす黒い何かを背負って問い返してくる。


「えっとー……」


「おや姶良さん。ごきげんよう」



 返す言葉がなくあたふたしている私と対照的に飛鳥ちゃんは努めて冷静に言葉を紡ぐ。



「言葉通りの意味だよ。私とのぞみは愛しあったんだよ」


「……お嬢様、ちょっとお時間よろしいですか?」


「遥香、話せば分かる。話せば分かるからっ!!」



 そう言い訳をするしかない私の首根っこを遥香はむんずと掴むと教室の端へと私をズルズル引きずっていき。


 お嬢様はケダモノなんですかとか、いったい何をやらかしたんですかとか、クドクド問い詰めてくるのを私は曖昧な言葉で返すことしかできない。


 飛鳥ちゃんから血を吸って良いって言われて血を吸いました。なんて言えるはずもないのだ。


 だから、私は遥香にしてることを飛鳥ちゃんにもしてみたと言ったら。


 それが遥香の逆鱗に触れたらしく、あなたという人は女の子だったら誰でも良いんですかと凄い勢い怒られてしまった。


 うーん……女の子なら誰でも良いわけではないのだけれど。



「私が手を出すのは可愛い女の子限定だよ?」



 私のその言葉を聞いた遥香は。



「……馬鹿なんじゃないんですかっ!!」



 何故か真っ赤な顔をして教室から出て行ってしまった。


 何だったんだろう一体。


 やれやれ。生意気なメイドを持つと気苦労が絶えないね、ホントに。


 そんな様子を飛鳥ちゃんは私達のことを微笑みながら見つめていた。



 カチカチカチ―――。



「のぞみと姶良さんはつきあってるの?」



 飛鳥ちゃんに勉強を教えていると不意にそんな事を聞かれた。



「いやいや私と遥香はただの腐れ縁のご主人様とメイドだよ?」


「ふーん……私にはそれ以上の関係に見えるんだけどな」



 まぁ普通のご主人様は自分のメイドの胸やら何やらを揉んだりはしないだろうなぁ。


 それが間違っている主従関係だと言われても改める気はありませんけどね。



「姶良さんとつきあっていないのなら私とつきあわない? のぞみ」


「は?」



 思っても見ないことを言われたので私は一瞬呆気にとられるものの。


 フルフルと頭を振って私は頭の中身を整理することにする。


 とりあえずニコニコと笑顔で私の顔を見つめる飛鳥ちゃんの眼を覗き込む。


 うん、『魅了』にかかってるわけではない、と。


 何を思って私とおつきあいしたいというのだろうか?


 そこは、とても気になる。


 ので単刀直入に聞いてみた。



「それはまぁ、のぞみは美人だからね」


「それを言うなら飛鳥ちゃんも美人さんで俳優さんみたいな顔立ちだよ?」


「あはは。のぞみにそう言われるととっても嬉しいよ。ありがとう」



 言いながら飛鳥ちゃんはナチュラルに笑顔を向けてくる。


 こういう人を世間一般ではモテ女というのだろうなぁ……。


 こんな時あたふたとしかできない私とは大違いだ。


 そのコミュ力、私に少し分けて欲しいものだよ、うん。



「で、つきあう? つきあわない?」


「えっと……つき……」


「何言おうとしてるんですか、この色ボケ先輩っ!!!」



 教室のドアを勢いよく開けて手に持った瑠璃色の棒で私にツッコミを入れながら、しずくちゃんがやってきた。


 人間サイズの白い制服姿で。



「おやおや、先輩と密談中だったというのに耳聡いね、きみ」


「耳がいいことだけは取り柄なんで。それに先輩はボクが先約なんですー」



 しずくちゃんはとっても嬉しい事を言ってくれているのだけれど。


 その手に持った瑠璃色の棒でツッコミを入れ続けるのはやめてくれないかな。


 痛いから。とっても痛いから。


 しかしよくよくしずくちゃんの姿を観察してみると。


 衣服のあちこちが鋭利な刃物で切り裂かれていた。


 それに普段はミニサイズでその辺をふらふらしているはずなのに。


 今、人間サイズの姿でこの場に現れたという事は。



「しずくちゃん、『しおり』が出たの?」



 私は声を落としてしずくちゃんにたずねる。



「うん……いつもの如く逃げられたけどね……」



『しおり』のことはしずくちゃんに任せっきりになっているのだけれど、本当にこのままでいいのだろうか。


 仮に『しおり』がしずくちゃんよりも強かったら?


 この学園は偽人で溢れてしまうことになるのだろうか?


 そして何よりしずくちゃんが殺されてしまうなんて、そんなの絶対に嫌だ。


 だから、私は何かできることがしたいのだけれど。


 しずくちゃんはあまり自分達の事に私をまきこみたくないのかその辺の話題にふれるとすぐにはぐらかす。



「きみがのぞみとつきあっているっていうなら証拠を見せて欲しいな」


「ええ! 見せつけてあげますとも。それなら今週の土曜日にデートしましょう、先輩!!」



 私が物思いにふけっている間にいつの間にか飛鳥ちゃんとしずくちゃんの間で話が進んでいた。


 え……今度の土曜日、しずくちゃんとデート―――?


 唐突な願ってもない提案に私の心は狂喜乱舞していた。

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