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『吸血姫様』は百合百合したいっ!!  作者: 牛
第一章 『百合百合』したい。
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第十四話

 月明りが窓から差し込んでくる時間。


 食事の後に私の身の回りの世話のため部屋に来ていた遥香に何気なく話題を振ることにする。



「それはそうと、ちょっと聞きたいことがあるんだけれど。遥香」



 私はスタスタとベッドの方に歩いていきそこに腰かける。



「はいはいなんですか、残念な頭のお嬢様」



 遥香は私に付き従って私の後ろについてくる。


 遥香が私の目の前にやってくると私は彼女を見上げながら、意を決してこの言葉を口にする。



「私、高校デビューしたい」



 部屋に静寂が訪れた。


 開け放った窓から爽やかな春の風が吹き込んでくる。



「……今なんと?」



 数分の間を置いて、遥香が私に問い返してくる。



「え? 高校デビューしたいんだけど」



 今度は軽めのジャブを放つように軽い言葉で言ってみる。



「……ついに頭の中までふかふかになってしまったんですね、お可哀そうなお嬢様……」



 失礼極まりないことをのたまうメイドはポケットからハンカチを取り出して、薄っすらと浮かべた涙を拭きとりはじめた。


 ……まじでそのふかふかお胸、今すぐに揉んでやろうか。


 そんな心地に至りながらも、私は必死の思いでこらえることにする。



「いいじゃん、高校デビュー。今時のJKなら誰だってやってるよ?」


「あ・な・た・はっ! ご自分が良家のご令嬢だという事をご自覚くださいっ!!」


「えー、飛鳥ちゃんだってあの髪型にしたの高校からだって言ってたしさー。だからさー、ね?」


「ね? じゃありませんっ!!! そんな事、従者の私が許しませんっ!!」



 鬼のような形相で遥香が仁王立ちをしている。


 ちぇー……高校デビューすればもっと皆と仲良くなれると思ったのになぁ……。


 まぁいいや。


 遥香に黙って高校デビューしちゃうもんね。


 まずはお嬢様らしく髪色からちょこっと変えてみようかな、うん。


 へへんだ。


 そして、翌日。


 決行の日の朝。


 まだ日も登り切っていない早朝。


 私は屋敷の誰よりも早く起きて髪の色を今までの地味な真っ黒な色からちょっと明るい茶色に変えてみた。


 えへへへへ。やってやったぜ……。


 もうこれで後戻りはできないね。


 明るい茶色になった髪の毛をフワリとかきあげてみる。


 そして髪の毛をくるくると編み上げて。


 洗面台についている鏡にポーズをとってみる。


 ん。垢ぬけたお嬢様みたいで良いじゃない!


 これで私もクラスの人気者……ぐへへへ―――。



「お……お嬢様……?」



 開けっ放しにしてあった扉の陰で呆然と私を見つめる姿が一人。


 やば……早速遥香に見つかってしまった。


 このまま起床の時間までは部屋に籠ってお茶を濁そうかと思ってたのに。


 洗面所で自分の姿に見惚れすぎてしまっていた。


 我ながらなんて間抜けなのだろう。



「そ、その髪の色は何ですかーーーっ!!!」



 まだ日も登りきっていない時間だというのに屋敷中に木霊する声で遥香は激昂する。


 そのおかげで寝静まった屋敷が一転、何が起こったのかと喧騒に包まれる。


 集まってきた使用人たちは私の髪の毛の色を見るなり、狼狽えるもの、卒倒するもの、様々だった。


 そんな中、遥香が私に踏み出してくる。



「お嬢様は一体何がしたいんですかっ!!」


「いや、だから、この髪で高校デビュー? みたいな?」


「高校デビュー? みたいな? じゃありませんっ!!! あなたは入来院家のご令嬢なんですよ!!!」


「いいじゃん、髪の色ぐらいー……。今までが真っ黒過ぎたんだよ」


「だーめーでーすー!! その髪の色、すぐに元に戻してくださいっ!!」



 言いながら私の頭をむんずと掴む。


 そして洗面台で水を流しながらわしゃわしゃとやり始めた。


 痛い痛い痛いっ!! せっかく髪もセットしたのになにするのさこのふかふかメイド!! ってか水が目に入って超痛いっ!!!



「むむ……これは……脱色……ですか。本当に馬鹿なんじゃないんですか?」



 5分程私の髪をわしゃわしゃと洗い続けていた遥香は呆れたように呟く。


 そう、私は髪の毛の色を染めたわけじゃないのだ。


 黒から茶色になるように脱色したのだ。


 これならいくら洗っても色は落ちることないもんね、へへーん。



「はぁ……お嬢様は本当にどうしようもなく残念な方ですね」


「残念って言うな!!」



 残念なのは自覚してるけれども!!



「真っ黒な髪が深窓のお嬢様たらしめていたというのに、それを茶色に染めてしまったらただの残念なお嬢様でしかありませんよ?」


「茶色い髪の人に謝れ!!」



 私はびしょびしょになった上半身のパジャマを脱ぎながら反論する。


 まったくもって失礼なふかふかメイドだな、遥香は。


 世の中には茶色い地毛のお嬢様だっているんだよ?


 それなのにそんな風なこと言うなんて。



「差別だ、差別だーーー!! 世の中は多種多様性に溢れているのに、そんなこと言うなんて差別主義だー!!」


「お嬢様は入来院家のご令嬢なんです!! その黒い地毛を脱色したりなんかしたらいけないんです!!!」



 遥香は鬼のような形相をしてギャーギャーまくしたててくる。


 あまりにも五月蠅いので私はそんな遥香のお小言を右の耳から左の耳にスルーすることにした。


 何をそんなにムキになっているのやら。


 でもまー今日はこの髪の毛で登校するしかないかんね。


 念願の高校デビュー、ゲットだYO!!



 ―――



 白い雲が流れていく。


 窓から見える青い空の中を。


 ゆっくりとゆっくりと流れていく。


 その光景を遮るように私の周りには群がるクラスメイトの壁。


 が、できているはずだったのに。


 こんなにイメチェンしてみたのに、さっぱり話題にすらならない。


 全然人気者ですらない。


 それどころか若干ひかれている。


 なんかクラスメイトが遠巻きに私の事見てコソコソ話しているし。


 飛鳥ちゃんは私の様子を伺いながら苦笑いをしていた。



「どうしてこうなった……」



 私はうめくように呟く。



「先輩ってさー……馬鹿なんじゃないの?」



 机の上の消しゴムの上に座って頬杖をついていたしずくちゃんにそんなことを言われる。


 うう……ふかふかメイドだけでなく可愛い眷属ちゃんにまで馬鹿って言われた……。


 どうして私の従者達は私に対してのあたりがこんなにもキツイんだろうか?


 これはあれか? 再教育が必要なのかな?


 メイドと眷属ちゃんを再調教。


 うぇへへへ……フレーズだけで血肉沸き躍るフレーズだね。


 ふふふ。楽しみにしておき給えよ?

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