第十一話
「で……この状況、どーしよ」
机の上にはすやすやとあられもない姿で眠り続ける飛鳥ちゃん。
「まー、ほっとけば? そのうち目を覚ますと思うよ」
「でもさー。目を覚ましても飛鳥ちゃんまた私を誘惑してくるんでしょ?」
「んー……その辺は何とも……。さっきは先輩の『魅了』の力がまだ残ってたんじゃないのかなと思うのだけれど。普通はほんの数時間で切れるものなのだけどね」
「そうなんだ?」
「そうなんです。そう。これはある意味、異常。だって先輩が飛鳥さんに『魅了』をかけたのは昨日なのだから」
異常……か……。
でもまぁそれだけ私が魅力的って事だよね。
えへへへへ。
私って実はすごいんじゃないのかな?
これはハーレム街道一直線かな?
「……先輩、顔がまた緩んでる……」
「ソ、ソンナコトナイヨー」
私の言葉を聞きながらしずくちゃんは、はぁっと一つ大きなため息をつくと手に持っていた瑠璃色の棒を消し去り私の頭のふよふよと着地する。
「とりあえず飛鳥先輩の恰好、他の人に見られると騒ぎになりそうだからキチンとしてあげて」
言いながら私の額をしずくちゃんは小突く。
はいはい、わかりましたよー……そんなに言うなら自分がしてあげれば良いのに。従者の眷属にこき使われるなんて……。
そう思いながらも、開けた部分に極力目をむけないようにしながら私は飛鳥ちゃんの下着を整えて、制服もしっかりと着せてあげる。
よし、これで誰が来てもバレないね。
全ての証拠は闇に葬った!!!
とりあえず、飛鳥ちゃんが起きたら教室に戻ることにしますかね。
私は飛鳥ちゃんの横たわる机の椅子を引き腰かける。
そして、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てる飛鳥ちゃんの肢体を嘗め回す様にガン見する。
黒いショートカットに薄いピンクのメッシュが入ったボーイッシュな彼女らしい髪型。
お胸は小さいけれどもそれでも女性であることを主張するような綺麗なアイドルのような体型。
そしてすやすやと寝息をたてるその顔は、普段気の強い少女からは想像できないように可愛らしくて。
なので、私は思わず、少女の香ばしい匂いを再び嗅いでみようと顔を近づけ―――。
「先輩……それは犯罪です」
声と共に思いっきり後ろ髪を引っ張られて首がグキリと鳴った。
「痛た、痛いって、しずくちゃんっ!!」
私が慌てて顔を引っ込めるとしずくちゃんはあっかんべーをして私の頭の上に着地してそこでぐでーっと伸びをする。
本当に何でこうも私に対してぞんざいな扱いなのだろうか? この眷属様は。しずくちゃん、私の従者だよね?
従者っていうのは付き従う者なんだよ? その意味分かってるのかな?
そんな私が思っているのもどこ吹く風で、しずくちゃんは私の頭の上でデローンと伸びをしている。
はー……いいよいいよ、思う存分、私の頭の上で伸びてると良いよ。
私は頭の上で伸びてるしずくちゃんの小さなお胸の感触を頭の皮膚で味わうから。
無理やりそう思うことにした。
というか、そう思わないとやっていられなかった。
カチカチカチ―――。
時計の針がそろそろ一時限目の終わりを告げるチャイムが鳴りそうな時間になって。
「う……ん……?」
飛鳥ちゃんがようやく目を覚ます。
私は結局飛鳥ちゃんが起きるまで、彼女の肢体を嘗め回す様に見つめることしかできなかった。
少しでも匂いを嗅ぎに行こうものなら頭の上の眷属の少女が邪魔をしてくるのだ。
匂い嗅ぐくらい良いじゃない、減るもんじゃないのに。
「ここは……? どうして入来院さんが?」
飛鳥ちゃんは机の上から上半身だけを起こすと私に話しかけてくる。
彼女自身、自分の今の状況が上手く把握しきれていない状況の様だ。
「えっと、なんか飛鳥ちゃん、教室で急に調子悪くなっちゃって。だから私が保健室まで連れて行こうとしたんだけど……」
「あー……ごめんね。なんだか入来院家のお嬢様にご迷惑をおかけしたみたいで」
「あ、いえいえ。そんな。こちらこそお世話になったので」
「お世話?」
飛鳥ちゃんは頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら頬を掻く。
この反応はもういつもの飛鳥ちゃんかな?
私の『魅了』の効果は切れてしまったみたいだ。
「で……可愛い可愛い入来院家のお嬢様。私に何かお望みでも?」
「お……お望み?」
爽やかな笑顔で飛鳥ちゃんは私に優しく語りかけてくるので思わず、私はひよってしまう。
いやまぁお望みはそれはもうたくさんあるのだけれども!
飛鳥ちゃんとあんなことやこんなことしてみたいのだけれども!
そうはさせじと頭の上の眷属ちゃんがポコポコと私の額に拳を叩きつけるので声が出すことができない。
まぁ……それがなくてもえっちなことしたいとか口が裂けても言えませんけどね! コミュ障ですから!
なので。
「わ、私とお友達になってくださひゃいっっ!!」
上ずった声でその言葉を口にするのがやっとだった。
は、恥ずかしいいいいい……。
何でもないような言葉のはずなのに、それを口にするなんてこんなにも恥ずかしい事だなんて。
顔から火が出るほど恥ずかしいいとは、今まさにこのような心境なのだと思う。
私は思わず飛鳥ちゃんから視線を外し握り締めた自分の手に視線を移す。
キンコンカンコン―――。
キンコンカンコン―――。
一時限目の終了を知らせるチャイムが鳴り響く。
「ぷ……」
一拍置いて声がした。
私は思わず視線を飛鳥ちゃんに戻す。
「あははは」
飛鳥ちゃんは机の上でお腹を抱えて大きな声で笑い始めた。
う……笑われた……。
やっぱり駄目だよね、こんなコミュ障お嬢様のお友達なんて―――。
「うん。良いよ。それにもう私は入来院さんのこと友達だと思ってるから」
思いもよらない言葉に私は目を丸くする。
「これからもよろしくね。入来院さん……は堅苦しいか。のぞみ」
そう言って飛鳥ちゃんは片手を差し出してくる。
「え、えっと……うん……よろしく……」
私も片手を差し出して、お互いに握手を交わす。
暖かい手。
でも、私と同じくらい小さくて。
繋いだ手を見つめながら、人生で初めて友達ができたと、心の中で小躍りしていると。
ふいに。
グイっと私の体は飛鳥ちゃんに抱きしめられるように引き上げられる。
そして。
「ここで、えっちなことしてたのは皆には秘密だよ」
ピシッ―――。
飛鳥ちゃんの言葉に私の思考はネジが壊れた時計の如く完全に停止する。
「それじゃ、また教室でね。のぞみ♪」
そんな私の様子をからかうような調子で飛鳥ちゃんは教室を出て行ってしまった。
これは一体……どういう……。
私は頭の上でぐでっているしずくちゃんの体を掴み視界に持ってくる。
「あれ? 言ってなかったっけ。『魅了』されててもその時の事は覚えてるって」
聞いてませんーーー!!!
そんな話、初耳ですぅーーー!!!
じゃあ何、今日のあんなことやそんなこと飛鳥ちゃんは全部覚えてるってこと?
そんなーーー。
今後、飛鳥ちゃんにどんな顔をして、会えば良いのか分からない。
ホント、どんな顔をすれば良いのか……。
ううう……。
「えっとー……。と、とりあえず、笑えば良いと思うよ?」
ペシン。
なんでやねんと、私は無言で小さな眷属ちゃんにでこぴんで突っ込むことしかできなかった。
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