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「ありゃりゃ、沙良ぴょん運動音痴なのかな?」
「全然だねぇ沙良」
「あれって集中出来てないだけじゃないの? 余計な人来たから」
「柚ちぃのせいだね!」
「お前らもだろ」
その後も沙良はミスを重ねて踏んだり蹴ったりな感じで試合は終わった。 半年ぶりに見た沙良は腰の近くまであった髪が肩のくらいまでに短くなっていた。
「今日調子悪かったね沙良どんまい」
「そんな時もあるよ」
「キモい人でもいた? まぁ練習試合だから」
「うー、ごめん。 ホントにキモい人いたの」
「勝手にアフレコするのやめろよミコト」
「えへッ!」
「当たらずとも遠からずだったりして。 失恋のショックで髪も短くなってるしね」
メグミまで悪ノリしてきた。 えーとこれから謝りに行くんだよな? なんでこんな軽いんだこいつら……
「ちょっと、沙良呼んできなさいよ」
「それ誰に言ってんの?」
「柚月しかいないでしょ!」
エリカにそう言われたけどなんて話し掛ければいいんだ?
ちょっとコンビニ行ってくるみたいなノリはどうだ? シミュレーションしてみよう。
「沙良〜久しぶり! オラわくわくすっぞ」
「は? バカにしてんの?」
…… ダメだ、こんなふざけた態度じゃ話すら聞いてもらえなそうだ。 というか俺ってこの期に及んでなんて下らないこと考えるんだ。
「沙良、俺は…… 俺は本物の柚月になる!」
「何のこと?」
「本当の女になるってことだ!」
「頭もおかしくなったの?」
あ、バカだ俺は……
「エリカ、一回ビンタしてくれる?」
「は!?」
「じゃあいっくよぉ〜!」
「ぶあッ」
エリカの代わりにミコトからビンタじゃなくて拳が飛んできた。
「い、いてぇ……」
「何やってんのよミコト!」
「ふふん! 景気付けにと思って。 それとほら、話し掛ける手間省けてこっちに鈴鹿女子が注目してる」
「あらま、たまにはミコトも気が利いたことするじゃん」
「さっきから意地悪じゃねメグミ?」
「いいから行きなよ」
メグミに背中を押されて5、6歩踏み出すと何故か沙良以外の注目も浴びている。 くそ、ミコト恨むからな。
「誰かの知り合い?」
「沙良のこと見てない? じゃあ沙良の??」
鈴鹿女子達が沙良を見ると……
「キミ、沙良の知り合い?」
鈴鹿女子のバスケ部のメンバーがひとり俺の方へ来た。
「あ…… まぁそんなとこ?」
「ふぅん、でも沙良は男子の知り合いあんまりいないのよ、あの子も男の子苦手みたいで」
「そのあんまりいないうちのひとりが俺で」
「へぇ、じゃあこっち来なよ。 沙良ー」
その人が沙良を呼ぶと沙良は顔をこっちに向けてない。
知らない人アピールか!? あ、けどエリカ達ならとそう思って後ろを振り返ると…… いない。
どこ行ったんだあいつら!? 一緒に謝りに来てくれたんじゃなかったのかよ? ふざけんなよ! こういうことするのメグミかミコトの仕業だな……
「沙良、この子あんたの知り合い?」
「…… 知らないです」
「は!? 嘘だろ沙良!」
「あー、たまにいるんだよねぇ、知り合いだって言って沙良に近付いてくるの。 残念だったねキミ。 沙良も知らないって言ってるし」
「ええと、そんなはずは」
「でも……」
俺が慌てていると沙良が口を開いた。
「ん?」
「私もこういうことウンザリだしちゃんと自分の口でお断りしたいので少し時間いいですか?」
「え? へぇー! 沙良珍しいじゃん、てか成長? キャプテンとして嬉しいなぁ。 いーよいーよ、でも何かあったら言うんだよ?」
「はい」
この人キャプテンだったのか。 それより今のって沙良は俺を助けてくれたのか? あれから半年以上も経ったし騙されてた怒りがいくらか緩和されたとか…… なんて都合良過ぎか。
でももしかしたらと俺は沙良と一緒に体育館の隅っこに行った。
「久しぶり沙良」
「……」
「沙良に何度かメッセージ送ったんだけど返ってこなくてって…… 知ってるよな?」
「……」
「えっと、元気だった? あ、バカなことばっかり言ってるよな俺」
「……」
無言…… えー、なんとか言ってくれよ沙良。 いや、ここでめげちゃダメだ。
「ごめん沙良。 言ってなかったよな俺、本当のこと言うよ。 俺女装するのが好きだったんだ、俺って全然男っぽくないだろ? 見た目とか性格もか…… 別に女装が好きだからって本当に女になりたかったわけじゃないんだ、こっちのが俺に合ってるなって思っただけで。 多分俺って変なやつだ」
俺の言うことを聞いていて沙良はどう思っているんだろう? 普通にキモいやつとか思ってるかな? でも嫌われているなら別に同じことだ。
「あとさ、沙良を初めて見た時一目惚れだったんだ。 だけど俺が女装してたから沙良は俺を女だと思ってて…… すぐに俺は男だって言えば良かったんだろうけど沙良が男が苦手だってわかって言い出せなくなって、それなら女のフリをして沙良と仲良くなろうって思ったんだ。 考えなしな行動だったけど俺は沙良といるのが好きで男だってわかったら離れていくと思って沙良を手離したくなかったから。 でも欲が出て男の俺のことも知ってもらいたくてバカみたいな嘘ついた、それでエリカ達にも迷惑かけた」
俺の懺悔は大体終わった、もっといろいろあるだろと思うけど収拾がつかなくなりそうだし。
「沙良が一番嫌いな人を騙すようなことしてごめん」
「うん」
ようやく喋ってくれた。
「柚月は本当の名前?」
「ああ、俺は川崎柚月」
「苗字は嘘だったんだ」
「うん、ごめん」
「そっか、川崎柚月…… ねえ柚月、私も言おうと思ってたことがあったの。 でもあんな風に別れたし柚月がメッセージくれた時はまだ許せなくて。 でも今日ここに来たら柚月がいるんじゃないかって思って」
「そ、そうだったのか?」
「なのにさっきの態度はごめん、久しぶりに顔見たらなんだか恥ずかしくなって素直になれなかった。 あのね私柚月が女の子じゃないって気がしてた。 それも結構最初の方から」
へ?
「だってあんなにくっついたりしてたし…… いくらなんでもさ」
そう言うと沙良の顔が少し赤くなった。 エリカ達も言ってたが女の子にはバレてしまうみたいだ、てかそしたら俺めちゃくちゃ恥ずかしくね!?
「けどその時には柚月の…… ううん、私も柚月と同じであの時助けてもらった時から一目惚れだった。 その時は女の子として友達としてって意味だけど。 それでだんだん柚月と遊んでて女の子とか男の子とかどうでも良くて逆に柚月がそっち系の人なら安心かもって思ってたこともあるけど……」
マジか、沙良にそっち系の人だと思われてた期間があったのかよ……
「柚月がカヅキ先輩ってことになって私と会った時から男の子としての柚月を見れた嬉しさもあったし柚月なら男の子でも大丈夫かもって思えた。 けど少し嫌な気持ちになった、私にもう隠し事して欲しくなかった、柚月がカヅキで最初に会った時言ってくれたら私…… でも相変わらずで私から追求したらどう答えてくれるんだろって思いもあったけどそんな勇気もなくて、こうして大好きな柚月に騙されていくのかなって思ってて。 最後に会った日には今更話してくれたって私怒っちゃうかもってたらやっぱり怒っちゃって」
沙良は溜め込んでいたものを吐き出したみたいに「ふうッ」と一息ついた。
「だから私の都合良く考えて自分で傷付いたみたいなところもあるの、私も変なやつだね。 それにキャプテンにさっき嘘ついちゃったし人のこと言えないね!」
沙良はぎこちなく腕を伸ばして俺の前に手を差し出した。
「ゆ、柚月が来てくれたら言いたいことがもうひとつあったの。 私と仲直りしてくれる…… かな?」
俺はその沙良の言葉に心の中で泣いて喜んだ。 そして勿論……
「ずっと沙良と仲直りしたかった。 嘘ついてごめん、それとありがとう」
沙良の手を握ると体育館の中が何故か盛り上がった。
「え、嘘!? 柚月それ告白したの!!?」
「え、あ! キャプテン!? そ、そういうわけじゃ…… あれ? なんでこんなことに??」
「いやどうみても告白みたいな雰囲気だったから。 違うの?」
「ええと…… その、ある意味そうなんですけど。 柚月助けて」
「どう言えばいいんだろう……」
こうして俺と沙良は仲直り出来て俺の隠し事はなくなった。




