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「あ、ごめん、いつまでも握ってて」
「へ!? ほ、ほんとだ……」
家の前に着き手を離すと沙良は少し俺と離れた。
嫌だったかな? でも嫌ならずっと握ってられないだろうし。
「おかえりパイセン!」
「ただいまってなんでお前が出迎えてんの?」
「まぁまぁそう固いこと言わずに。 あれ、沙良ぴょんお顔が赤いよ?」
「な、なんでもなひッ! 沙良は?」
「トイレに籠ってるよ、何やら帰ってくるなり早々ビッグウェーブが来たみたいで臭い戦いなるからとか草」
「おい!」
なんてこと言いやがるんだこいつは。
「じゃあ俺部屋戻るから楽しんでね沙良ちゃん」
「あ!! えっと」
沙良が何やら俺を引き止めた。
「あの…… カヅキ先輩もご一緒しませんか?」
「何…… だと……」
「おやおやぁ〜?」
ミコトがそう言った沙良の顔を覗き込むと沙良は顔をそらした。
何やってんだミコト!! ていうかこれって…… いやでもそれは不可能だ、せっかく沙良がそう言ってくれてるがここは……
「ごめんな、俺ちょっとやることあるから」
「そうですか…… すみません」
「おーい、ほどほどにズリってね!」
「何言ってんだ!?」
「ズリ??」
「ミコトの言うことは気にしなくていいから。 それじゃ」
急いで隠れ部屋へと行って着替えて化粧をする。 今頃ミコトは沙良を俺の部屋に連れて行ってるはずだから何気なくトイレから出てきたフリをして戻るとみんな揃っていた。
「あ、沙良戻って来てたんだ」
「柚月おかえり、どっか行くから言ってよ」
「ごめんごめん」
あ! お菓子買って来てないや!! と思って焦ったがコンビニ袋らしき物がテーブルに置いてあるのを見た。 するとエリカからウインクされた。
もしかして俺達が行ってる間に先回りして買って来てくれたのか? こいつらいつも俺を最低とか罵ってくるくせに少しはいいとこあるじゃないか。
「さあ、お菓子もいっぱいあるしお菓子パーティしよッ!」
「エリたん小学生かよ」
「エリたん!? つか小学生って……」
「案外単純でどっかの誰かと似たようなもんだよね」
「酷いメグミッ!!」
「メグミンも清楚っぽいキャラだと思ってたら毒舌だもんね」
「ミコト急に馴れ馴れしくなったわね」
どっかの日常系アニメみたいなノリだな。
「沙良ぴょん遠慮しないで食べなよほらほら」
「私遠慮してないっていうか押し付けられてるだけのような気がするんだけど」
「なんか帰って来てから沙良ぴょんしおらしくなっちゃったからさぁー」
「き、気のせいじゃない!?」
「柚ちぃもそう見えるでしょ?」
「え!? 何かあったの沙良?」
「何も! 何もないよ!」
「あれー? 沙良ぴょん柚ちぃの顔まともに見てない? もしかしてさっき出掛けてる時に何かあって見たくても見れない!? 見たら何か思い出すー!!?」
「いい加減にしなさいよミコト、沙良がいくら可愛いからって沙良もう顔から火が吹きそうじゃん」
メグミがミコトを嗜めると沙良は隣に座っていたメグミにコテンと頭を預けて口から煙が出そうな勢いだった。
「ありゃま。 あはははッ、可愛いなぁ沙良ぴょんは」
俺が沙良の向かいに座ると沙良はサッと顔を伏せた。
そんなに恥ずかしかったのか、ミコトの言う通り凄く可愛い。
あんまり可愛かったので顔がニヤけそうになったのか隣のエリカから肘で脇腹を突かれた。
「でさぁー、実際パイセンってどうよ?」
唐突にミコトがメグミに俺のことを話し掛ける。 今度はなんのつもりだ?
「そうね、結構可愛い顔してるしそういう系の需要はあるんじゃない?」
「そういう系って?」
「エリカのことじゃん」
「は!? い、いや別に私は…… ってだから引き合いに出さないでよ!」
「えっとカヅキ先輩って結構モテてるの?」
沙良が話に食い付いたと言わんばかりにミコトがニヤリと笑う。
「そりゃもう本人はそんなに自覚してないっぽいけどエリカみたいに狙ってた人はいるんじゃない?」
「し、知らない!!」
「はえー、あたしはあんま関心ないから知らんけどそぉなのねぇ」
「あんた一番遊んでたでしょ!」
「え?」
「あ……」
エリカがムキになってつっこむのでマズいこと言ったかと戸惑っている。 そのリアクション自体マズいからやめろよ……
「オホン! まぁミコトは兄貴をおちょくって遊んでるからね、まったくそのついでに私まで巻き込まれていい迷惑なんだから」
「だってそんなにクリソツだからじゃん、ねぇ沙良ぴょん」
「うん、ホント」
沙良はそう言ってテーブルに肘を付いて身を乗り出して俺の顔をじっと見た。
な、なんだ!?
と思うと途端にまた赤面して後退する。
「ありゃー?」
「どうかした沙良?」
「キ、キスでもするのかと思った」
俺はどういう反応していいか困る。
「一瞬柚月がカヅキ先輩に見えちゃった。 ほら、髪の長さも同じだし…… でもそんなわけないのにね、みんなもわかってるし!」
ピシャッと何か亀裂音のようなものがその場に走ったが……
「そういえば沙良の好みって柚月を男にしたような感じだったんだからカヅキ先輩ってドンピシャよね」
「うあッ、確かにそうは言ったけど……」
「いやいや、カヅキ先輩と柚月は違うし」
「エリたんなにそこで対抗意識燃やしてんの?」
「沙良は兄貴とさっき出掛けたんでしょ、どうだった?」
「もう! 柚月までぇー!!」
「また酒盛りでもしてみる?」
「え!? 何々? 楽しそー」
沙良の視線がちょくちょく遠慮がちに俺へ注がれていることは話してて何度も感じたけどそれが俺にとって不信感や何か別な感情なのかよくわからないうちにお開きとなった。
「ん? どしたん沙良」
「あ、ううん。 お邪魔しましたって一応カヅキ先輩に言っておいた方がいいかなって」
「あー、大丈夫だよ。 多分兄貴寝てると思うし」
「そっか。 柚月!」
「は、はい?」
「柚月は本当は気付いてると思うけどお兄さん柚月が思ってるよりずっと優しい人だよ、だから仲良くしてあげてね!」
「う…… ん、沙良がそう言うなら」
「えへへ。 今日は楽しかったよ、また遊ぼうね!」




