34
「うわぁ、ここまで沙良ぴょんをドン引きさせるなんてカヅキパイセン流石ッスわ」
「薄々感じてたけどまさになるべくしてなったって感じ」
「もう擁護しようがないよカヅキ先輩、好きだったのにバカ!!」
う、嘘だろーー!!
って何バッドエンドな終わり方想像してんだ。 それもこれも沙良の態度のせいなんだが。
俺が柚月なんですけど? 柚月ここに居るんだからもうちょっと元気出そうよ沙良。
「沙良ちゃん、って遠ッ!!」
さっきまで二歩後ろくらいだったのに10メートルくらい離れてるんですけど……
俺が少し立ち止まって沙良が来るのを待とうと思い止まると沙良まで止まる。
あの…… そうしてると一向に距離が縮まらないのですが。
「沙良ちゃんもうちょっと寄らない?」
「わ、私離れたわけじゃなくて」
あ、もしかして俺の歩く速度が速かったか? 緊張MAXで変な妄想してたからつい。 てかだったら俺が止まったら止まらないで欲しかったけどそこは警戒しているからか? 胸タッチが行けなかったか? 柚月には胸どころか全身触らせてくれたのに!
そうしてようやく俺の近くへ来た沙良はハッとした顔をする。
「これ…… どうぞ」
「ほえ?」
沙良はハンカチを俺にくれた。 気付けば滝汗、ふぃ〜、柚月じゃないからキモいと思われてたりして。
「こうしてると柚月と居るみたいです」
「え?」
「さっきもなんか柚月が助けてくれたみたいで、か…… か、か」
「か?」
「か、かかかなり嬉しかったです」
かっこよかったとか言われると思った……
「ごめんなさいッ! 柚月のことばかり話してしまって。 カヅキ先輩柚月とそんなに仲良くないから嫌ですよね?」
「いやまぁ、一方的に嫌われてるだけだからそこまでは。 てか沙良ちゃんこそ男の子苦手なのに嫌だよね?」
「私…… ちょっと嫌だからって遠ざけてたら本当にどう接したらいいかわからなくなって。 これじゃダメだってわかってるんですけど、でも! 全然ダメだと思うけどカヅキ先輩は柚月に似てるからこれでも話せてる方…… だと思います」
ぶっちゃけ前に俺が柚月の兄貴だとわかる前の方が積極的だった。 まぁあれはなんで柚月とそっくりという驚きが強かったろうから。
「無理しなくていいよ、なんだったら俺を柚月だと思って話してもいいしさ、ってそりゃ無理か」
はははと乾いた笑いをしていると沙良が口を開いた。
「大変失礼かもしれないですけどカヅキ先輩ってどうして彼女さんと別れたんですか?」
うッ…… よりによってそれか、彼女なんていないし。
「だ、騙されちゃってさ、付き合ってたと思ってたのは俺だけだったみたい」
なんて惨めなでっち上げだ。 もう少しまともな嘘はつけないのか?
「酷いです!」
「は?」
「カヅキ先輩みたいに優しい人を騙すなんて。 私人を騙すとか一番悪いことだと思います」
「そ、そそそ、そうかな?」
口元がヒクヒクとしてしまう、沙良の中では俺は一番悪いことしてんのかぁー!!
「わわッ、すいません嫌なこと思い出させて。 ハ、ハンカチがもう」
「大丈夫大丈夫……」
いえ心の中は大丈夫じゃありません。
「道理でこの前あんなに様子がおかしかったんですね」
心配そうにこちらを見る沙良を直視出来ない、やましさの塊だから。
これ沙良が本当のこと知ったら人間不信になるレベルじゃないか? ってここまで来ると今更後戻りとか出来ない、どうにかして沙良を傷付けずに本当のことを曝け出すことは出来ないだろうか?
「あの時はごめんね、俺相当参ってたみたいだ」
「いえ、カヅキ先輩は何も悪くありませんし。 えっと…… 私に言われてもと思いますけど元気出して下さい!」
一番悪いことと沙良に言われたおかげか俺もすっかり迂闊に話し掛けることが出来なくなり気不味い沈黙が訪れる。 そんな雰囲気をなんとかしようと沙良がまたオロオロとあっちこっちを見てソワソワしている。
俺が既にビッショリと濡れたハンカチで顔を拭いているとアクシデントが起こる、付けボクロがポロリと落ちてしまった。
「げげッ!!」
「どうしました?」
「いや! な、なんでもない」
俺は思わずしゃがみ込んでしまう、それを心配してそうに覗き込む沙良に取れたホクロを気付かれないようにハンカチで覆う。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫、大丈夫だから」
「全然大丈夫に見えませんッ! ど、どうしよう!?」
俺はなんとか地面を探すとあった…… 沙良の脚の間に。
「ひゃあッ」
「危なッ!!」
俺は足元に飛び付くように手を出したので沙良の脚を肩で押してしまって後ろに転びそうになるのをなんとか背中に手を回して転倒を防いだ、そしてそのスキにホクロを付け直した。
「ごめん、コンタクト落とした。 沙良の足元にあってつい」
「…… そ、そう…… なんですか、踏まなくて良かったです」
「「…………」」
先程より明らかに真っ赤になって声が震えてる沙良と数秒だけどめちゃくちゃ長いような時間支えている姿勢を取っていると電話が鳴った。
『あ、カヅキパイセン柚月戻って来たよー? おーい』
「そ、そうか…… 柚月戻ってきたって」
「はひ……」
ナイスタイミングミコト……
俺はコンタクトを入れるフリをして沙良に手を差し出すと沙良はその手を握った。 俺は沙良の手を離さずそのまま握ったままで帰ったが沙良はその手を振り払う素振りも見せず家に着いた。




