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「あ、改めてこの前は大変失礼なことをして申し訳ありませんでしたので……」
「ええと、沙良ちゃん見た目の割には礼儀正しいね」
「うえ!! や、やっぱり変ですかね??」
「いやカヅキ先輩のが失礼でしょ今のは」
「沙良は男の人苦手なんだからこういう風になるんだって多分」
「そのままドーンと押し倒しちゃえばいいのにね!」
絶対こいつら面白がってるよな?
「ああ悪かったって! 変じゃないよ沙良ちゃん、この前俺ちょっとおかしかったんだ。 俺もごめんね」
「いえ…… 私も、あッ! なんでもないです」
?? 途中で言葉を止めてなんでもないですって一番気になるんだけど。
「バカね、彼女と別れたんだってのを言うとまた傷付くかもしれないから言うのやめたに決まってるじゃない、忘れてないでしょうね?」
「あ、ああ、なるほど」
メグミがこっそりと耳打ちしてくれた、そうだった、そういう設定だった。 沙良凄く優しいじゃん、わかってたけど。
「それで〜? 沙良ぴょんはどう思う??」
「いつの間にか私沙良ぴょん? どう思うって何が?」
「もぉー、カヅキパイセンに決まってるっしょ?」
「ええッ!?」
おまッ、いきなり何聞いてんだ?! 沙良だってビックリしてるだろが。 エリカとメグミ、なんとかフォローをと思って2人を見るとようやく切り出したかみたいな顔をしていやがる。
「どうって…… 凄く柚月にそっくりなわけだから。 柚月のかっこいいところも据え置きなわけだし、あれ? 何言っちゃってんだろって、ええ!! お兄さん!?」
「わッ、ゆ…… カヅキパイセン超滝汗ッ!」
「あ、や、これは……」
「沙良、カヅキ先輩も柚月と同じで汗っかきなの」
「カヅキ先輩とりあえず汗を拭いて下さい」
エリカにハンカチを渡されて汗を拭う。
だって仕方ないだろ、沙良だったら言わないかもしれないけど「やっぱこいつキモい」とか少しでも思ってないか不安で不安で。
「ぷ、ふふッ」
「ほらほら、パイセン沙良ぴょんにキンモー! とか思われて笑われてんじゃん」
「違うよミコト、なんか柚月にそこまでそっくりなんて。 似過ぎてるから仲悪いのかなって思っちゃって」
「いやまぁここまで似てたらそりゃあねぇ」
「うんうん」
「あ、でも柚月のお兄さん」
「沙良ちゃん、カヅキでいいよ」
「…… じゃ、じゃあカヅキ先輩」
恥ずかしいのか警戒されてるのかなんなのか知らんが前にもカヅキでいいって言ったのにみんなの前では沙良は少し他人行儀だった。 だからもうちょっと距離を縮めたい。
「前から思ってたけど柚月に雰囲気もホントそっくりで。 だから私でもこんな風に…… あれ、そういえば柚月は?」
「ゆ、柚月はええと」
「柚ちぃはねぇ、お菓子ないからコンビニにダッシュで向かったとこ」
「さっき急いで出てったよ」
「柚月ひとりで行っちゃったの?」
「まぁカヅキ先輩がここに居ると居辛かったんじゃない?」
エリカー!! そんなこと言ったら沙良に俺へのヘイトが溜まるだろうが! まるで俺がここに来たせいで柚月が居なくなったって言ってるようなもんだぞ!
「ま、まぁせっかく居るんだから柚月に挨拶くらいしたらって言われてさ」
「私もこの前のことちゃんと謝りたかったので良かったです」
ホッ……
「何々!? この初々しい感じは〜! ユー達柚ちぃを迎えに行ってあげなよ、ほれほれ!」
ミコトが沙良を立たせて俺にグイッと押し寄せると沙良は明らかに拒絶反応か何か知らんが嫌がる素振りを見せた。
ガビーン…… つーかなんてとんでもないこと言い出すんだこの野郎、迎えになんか行けるわけないだろうが!
「バカだなぁ、そんなの行き違いになったとかなんとかでいくらでも誤魔化せるでしょ?」
そうミコトは小さく耳打ちする。
意図を汲み取ったのかメグミも「行ってくれば?」と後押しすると沙良はオロオロし出す。
「え、え!? 私は」
「大丈夫だよ、柚ちぃだと思って行って来なよ」
「そんなぁ……」
ここまでの嫌がりよう、俺こそ「そんなぁ……」なんですけど。 けど男が苦手な沙良からすればここまでの経緯からすると他の男よりは嫌がられてないはず。 これはOK一歩手前とプラス思考に考えなければ。 ここは自然に……
「まったくこいつらは。 仕方ない、柚月を迎えに行こうか?」
「は、はぃぃ」
半ば強引だけど沙良を連れ出して2人きりになることに成功した。俺が沙良の柚月になっている時は沙良は凄くテンション高めなのに今の沙良と来たらお通夜モードだ。
こ、これでも他の男よりは好感度高いんだよな!? 不安になってきた。
「沙良ちゃんはさ、柚月とよくどんな話してる?」
「えっと…… なんか色々と」
めっちゃ省略された…… 色々って答えあるか?
「それじゃあさ、どんなとこで遊んだりする?」
「カフェ行ったりカラオケ行ったり…… ですかね」
ぶった切ってくるなぁ。 柚月で話してると満更でもなさそうだったのに。 あれは俺の勘違いなのか?
トボトボと歩いていると沙良の前に水溜りがあった、沙良は下を向いて歩いているのにまったく気付いてないのかそのまま水溜りに足を踏み入れようとしていた、結構な量なので沙良の靴じゃ汚れると思って手を前に出して制止しようとすると沙良の胸が腕に当たってしまった。
「ひやッ!!」
「あ、ごめん。 ええともうちょっとで沙良ちゃんが水溜りに突っ込むとこだったから」
「え? あ、ホントだ…… すみませんッ!」
「見えてなかったの?」
「あ…… その、はい」
「沙良ちゃんボーッとして顔赤いよ? もしかして熱ある??」
「うあッ、え!? そ、そんなことないです」
…… これって沙良はもしかして俺のこと意識して? と思ったら2歩分後ろに下がられた。
まったくわからん……




