28
「ねえ柚ちぃこっち向いて〜」
「強制的に向かせてるくせにこっち向けって」
ミコトは教室で椅子を向かい合わせにして頬を押さえ付けてる。 つい昨日まで俺はエリカに話しかけようとしていたのにこれかというクラスの連中の視線を感じる。
いつも話し掛けてくる実のやつもミコトと俺の雰囲気に押されスルーだ。 そしてミコトの狙い通りかどうか知らんがエリカとメグミもこっちをチラチラと見ているような気がする。
それが蔑みの眼差しなのかミコトの言う仲直り出来る兆候なのかはわからない。
「あんたら超ラブラブじゃん」
「そりゃーあたしのダァ様バリバリ最強No. 1だもん」
俺は地獄先生か! てか仲直り出来るまでミコトとこんな感じなのか? それにこれって仲直り出来てもミコトの次はやっぱりエリカ? なんて思われかねない。
そんなこんなでミコトに付き纏われて3日経った頃、トイレまでミコトは一緒についてくる。 流石に中まで一緒ということはないが。
「柚ちぃちゃんと手洗った?」
「当たり前だろ」
「なら行こっか! それとも次の授業サボってあたしとどっかでイチャつく?」
「なあミコト、わざわざ2人きりの時までこんな茶番することないんじゃ」
と言い掛けた所でミコトに制止された。 そんなミコトの目線の先には……
「ありゃ、エリカ偶然」
エリカもトイレなのか俺達の方へ来た。
「ちょっとミコト、これどういうつもり?」
「え? 見たまんまじゃん。 あたしら突撃ラブハートなの」
「何それ嫌がらせのつもり?」
「わかんないかなぁ、エリカとメグミに酷いことされたから可哀想な柚ちぃをあたしが慰めてあげてんじゃん」
おいおい、そんなこと言ったらエリカが怒って本当のこと言いかねないだろと思ったが。
「酷いことなんかしてない……」
「えー? じゃあなんで柚ちぃに冷たくするわけ? こんなに可愛いのにさぁ」
「おまッ、擦り寄ってくるなよ」
後ろからミコトに抱きつかれて俺はエリカの真正面、これどうしたらいいんだ?
「柚月のバカ!! 浮気者!」
そう言ってエリカはトイレに入っていった。
浮気者って…… いや俺の心は沙良だけだ、誰とどこにいたってこの状況でもそうだったじゃん。
「あー正妻から転落した人が説得力ありますなぁ」
「そもそも俺は誰とも付き合ってないし」
「わーお! それ浮気者のセリフじゃん」
それから1週間くらいするともうクラスでは俺とミコトは付き合っているという認識になっちまっていた。
ミコトの奴もよくもまぁ飽きずにこんなことに付き合うもんだ、それでもまだエリカとメグミとは仲直り出来ないでいた。
テストも近くなってきたので沙良にもあれ以降会えてない、ちなみに沙良からあの日会った後俺の兄貴についてのメッセージも来ていた。
俺は超ドン引きされたと思っていたが沙良からは俺の兄貴を心配するようなことが書かれていて少しホッとした。 まぁ友達の兄貴を悪く言うことなんて出来ないからそういうことかもしれないけど。
「お前ずっと俺に付き纏ってるけど勉強しなくていいの? テスト近いじゃん」
「あら柚ちぃったら知らないの? あたしこう見えてインテリギャルなんよ、つまり勉強出来るの」
「嘘だろ?」
「マジマジ! 嘘だと思うなら勉強教えたげよっか?」
冗談だろと思って放課後図書室でミコトに勉強を教えてもらうと本当だった。 意外だ、こいつが頭結構いいなんて。
「見直した?」
「ああ、人は見掛けによらないなって。 それなのになんでギャルなんてしてんだ?」
「別に勉強出来るからってギャルじゃないなんてありえないじゃん、趣味は人それぞれだし。 その人がこれでいいって思うならそうすればいいし!」
こいつ思ってたより物分かり…… というか偏見とかそういうのあんまりなくて他人のことを受け入れてくれるタイプかもしれない。
だったら俺はこいつに本当のことを喋るべきか? こうしてああなってエリカとメグミと険悪だと話してしまった方がもっとスムーズに行くのでは?
けど俺の秘密知ってる奴なんてこれ以上増やしたくない、もし仲が拗れたらそれだけリスクも増すし。 それにこいつがもし俺のこと知っても誰かに喋らないとも限らない、変に思われなくても面白おかしく自分の友達にベラベラと俺のことを喋られたら堪らない。
「おーい、聞いてる?」
「え?」
「せっかくあたしが勉強教えてあげてんのに目がイッちゃってたよ。 スケベだなぁ、そんなにあたしのギャップ萌えにムラムラしちゃった?」
「いや考え事」
「あー失礼柚ちぃ! プンプン!」
こうして見るとバカそうにしか見えないけどな。
「それにしてもいつまでこうなんだろう」
「そろそろじゃない?」
「へ?」
ミコトが図書室の少し開いた扉の方の方を見て言った、俺も見てみるとそいつはメグミだった。
マジか、エリカじゃなくてメグミかよ!
しかも俺達に話があるのかそのまま図書室に入ってきた。
「やっほーメグミ、もしかしてあたしに勉強教えてもらいにきた? あたし綺麗な男の子だったらタダで教えてあげるけど女の子はお金取ろうかなぁ」
「あのさぁミコト、いつまでしょうもない柚月に付き合うつもり?」
「なんのこと? あたしのしたいようにしてるだけだけど? 柚ちぃの周りごちゃってて面白そうだし」
そしてメグミはそんなミコトに溜め息を吐くと俺を見た。
「柚月、適当にあしらってるつもりだろうけどエリカの気持ち考えたことある? エリカはわかってて柚月に協力してあげてたのに柚月があんな風に言うから……」
「ええー? あたしだけのけ者でしんみりムード?」
「はぁ〜、エリカ教室にいるよ。 まったくしっかり反省させようとしたらミコトが邪魔するんだから」
「なんかよくわからないけどあたしの目論見ピッタリどハマり? イェーイ!」
そうして教室に行けとメグミに言われて教室に向かった。 ミコトも行ってみようかなと言っていたがメグミにダメと言われて抑えられていた。
教室に入ると何人かの生徒がいてエリカもその連中と話していて俺が来るとそこから離れて俺を置いて教室から出て行った。
はぁ!? なんだよそれ!
そう思ってついていくと教室から離れた階段の辺りまで行ってエリカは足を止めた。
「何?」
「何ってお前が……」
あ、お前が待ってたんだろみたいな感じに言っちゃうと売り言葉に買い言葉でまた険悪になっちまいそうだ、ここは……
「あのさ、ごめん」
「何が?」
「酷いこと言って。 俺よく考えずにあの場にお前がいたなんてわからずに思ってもないこと言っちゃった。 だからごめん」
「本当にそう思ってる?」
「ああ」
「柚月嘘つきだし信用出来ない」
じゃあどうしろと? マジで謝ってるんだけど……
「沙良にも嘘ついててさ、おまけにミコトにも。 本当だって信じて貰いたいなら沙良に本当のこと言ったら?」
ぐぐッ、それが出来たら苦労しない。
「………」
「無理だよね柚月には。 だったらこんなことになってないもん」
これはやっぱダメか?
「ごめん」
「え?」
何故かエリカが謝った。
「私も柚月と一緒で沙良に嘘ついてるのに言う資格なかったわ。 ドジな柚月だからミコトに対して言ったのもあの場を誤魔化すためだってわかってた。 けど私柚月のこと好きだったからあんな風に言われたの聞いてて少しショックだった、だから柚月並みにしょうもない態度取っちゃったの。 だからごめん」
「なんな凄く俺の悪口ばっかに聞こえるけど許して貰えたのか?」
「うん、仲直りしよ?」
エリカは手を出した。 握手すればいいんだろうか? と思って握るとエリカはニコッと笑ってくれた。




