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さて、一度気不味くなってしまったものは時間が解決してくれる。 俺達高校生からしてみればクラスの誰かと気不味くなってしまっても毎日顔を合わせていればいつまでも気にしているのはバカらしくなってしまっていつかはそんなものどうでもよくなる。
これは楽観的で希望的観測だ、例えクラスが一緒でもいつまでも引きずりそのまま終わってしまう関係だってある。
いやなんでこんなことを考えているのかと言えばあれから沙良からちっとも音沙汰がないのだ、だからこうしてベッドから天井を見て考えていた。
それはそうとしてさっきの話を当てはめるとして俺と沙良の場合はどうだろう? 学校も一緒じゃない、電車で言えば3駅ほど離れている。
何もしなければ今までの偶然とかもない限り顔も合わさない関係だ、沙良からの音沙汰がないことによって俺も沙良に連絡し辛い。 これはいつぞやメグミが言っていた自然消滅とやらに近い形なのではないだろうか?
俺は沙良に何か嫌われるようなことをしたか? 騙してるって言うんならそれはバレてはいないはず、バレてないことを挙げるのはノーカン。 つまり俺は嫌われるようなことは何ひとつしていない。
それにアクションを起こしたのは沙良の方だ、沙良からキスされた時は嬉しかったけどこうなるなんてわかっていたらぶっちゃけ嬉しくない。
夏休みも半分以上も過ぎてるっていうのに。 あーもうわからん、わからんけどこのモヤモヤをなんとかしたい。 それを解決するためには音沙汰のない沙良に期待しても何も意味はないし俺が何かするしかないんだが。
何しよう? 沙良に今更連絡入れるのもあれから何もない中で今日まで連絡を取らなかったからなぁ。
メグミに何か相談して…… いや〜、なんか俺があいつにネタ振りしているみたいで気が引けるし余計な関わり持ちたくないし。
もしかしたら沙良が俺の家に来訪してきてはたまた海に行こうとかヤバそうな誘いが来るんじゃないかと思っていた自分がアホらしくて仕方がない。
それから何日かしてこのまま何も解決出来ないで自然消滅という形は嫌だ、俺は沙良が好きでこんな形では終わりたくないと思った。 自然消滅するって言ってもそれは今じゃないと言い聞かせて沙良に連絡をしようと決意した。
LINEを開いて文章を考えているがどんな感じで話せばいいかわからない、なんかいも打ったり消したりを繰り返していると携帯が震えた。
「さ、沙良!?」
画面に表示された沙良の名前を見た瞬間何も考えずに通話を押していた。
「柚月……」
「あ、えっと久しぶり」
沙良の声に元気がない、やはり俺とは話したくないのか? いやいや、なら電話なんて掛けてくるはずないし。
「あのね柚月、いきなりで悪いんだけど今空いてる?」
「うん大丈夫だけど」
「良かった、だったら……」
そして俺は今駅近くのカフェに来ていた。 沙良にここに来てと言われたから。
なんの話だろうと緊張して待つ俺、何もしてないのに汗かいてきた。 あ、いつもか……
待つこと10分ほどで沙良がやって来た。
「ごめん待たせちゃった?」
「ううん」
そう言うと沙良は向かいの席に座って大きく溜め息を吐いた。
「ごめん柚月!」
「え? いきなり何??」
「いきなり呼び出したりしてとかいろいろあるけどとにかくごめんなさい」
「ええと…… とりあえず何に対して? どういうこと?」
そう言うと沙良はメニューを取って顔半分を隠して言い出した。
「この前みんなで集まった時のこと…… 柚月身に覚えない?」
「見に覚え……」
そう言われると見に覚えありまくりなんだが。 もしや朝勃ちしていたのがバレたのか!? 思い切り沙良に当たってたし。 だとしたらヤバい、ここから入れる保険あるんですか?
「あるよね? だって柚月の様子変だった」
「へ、変?」
「ああ、一番変なのは私か」
沙良は顔をテーブルにつけてメニューで顔を全部覆い隠した。
「沙良?」
「どう言っても柚月に引かれてるかもしれないからどうしようもないんだけど……」
少し間が空いて沙良は喋り出す。
「私酔っちゃっててでも朝起きてもその時のこと覚えてて実は凄く焦ってたの」
「うん」
「なんであんなことしたんだろうって」
それはキスのことだよな? 沙良の様子がおかしかったのはやっぱりその時のこと覚えてたんだ。
「あの時一瞬柚月が男の子に見えちゃって」
「ぶふッ!!」
俺は飲もうとしていた水が変なところに入りむせてしまった。
「ご、ごめんッ!! 怒るよね?」
「う、ううん、怒ってない怒ってない」
めちゃ正解ですそれ……
「柚月がもし男の子だったら付き合いたいなって思ってたの結構ガチだったみたいで…… 酔ってたのもあって私。 き、気持ち悪いよね、ドン引きだよね? それで恥ずかしくなって嫌われてたらどうしようかと思って柚月に連絡取り辛くなって」
「そうだったんだ…… あ、でも私沙良のこと気持ち悪いとか思ってないよ」
「嘘だ」
「え?」
実際の女同士ならどうかわからんが俺は男なので嬉しさはあっても気持ち悪いとか思うわけないので。 って言えればどれだけ楽か。
「だって柚月全然連絡くれなかった」
「そ、それは」
「ほらやっぱり……」
沙良はしゅんとしてしまう。
「違くてさ、前はいつも沙良の方から連絡くれたじゃん? だけどいつまで経っても沙良から連絡来ないからもしかして用事とかあったりどこかに行ってるのかなって。 けどこんなことになってるんだったら私から連絡してみた方が良かったなって後悔してたの」
「…… ほんと?」
「ほんと! 沙良から連絡こない間ずっと寂しかった、もっと遊んだりしたかったし。 それに私も引かれるかもしれないけどあの時ちょっと嬉しいなって思ったし」
「嬉しい?」
沙良がメニューを置いて不思議そうにこちらを見た。
げ…… 引かれたか? な、何か付け加えないと!
「あ、ええと、んーと、沙良みたいな可愛い子だと女同士でも時々ドキッとしちゃうことあるし。 いや個人差もあるけど、私だけかもしれなかったらちょっとアレだけど。 と、とにかく全然引いてない! むしろ私が引かれるようなこと言ってない?」
「うう……」
ホントに引いたのか沙良は下を向いた。 ああ、付け加え過ぎたか!?
「あの…… 沙良?」
「ぷ…… ふふふッ、なんだ…… 良かった」
「え?」
「ごめん、すっごく安心して。 私柚月に嫌われてなかったんだなって思って、バカみたいで」
「ど、どういうこと?」
「嫌われてないってわかったら柚月の言った通りもっと遊べたのにって。 ずっと悩んでないでもっと早く柚月に打ち明けておいた方が良かったなって思ったから」
そう言って沙良はまたも大きく溜め息を吐いた。
「私が引くわけないじゃん? 柚月のこと大好きだし! 私も同じだよ」
「同じ?」
「柚月は美人だから私もたまにドキッとする、私だけかなって思ってたけど柚月もそう感じてるならなんか嬉しい! やったぁ! みたいな感じ?」
沙良は引っ掛かりが取れたように俺に満面の笑みを見せた。
これは両想いという奴では? と思ったが俺は男と思われてないので近いようで遠いと思い直し心の中で俺は男だと聞こえないのを言い方に叫んだ。




