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「えっと柚さん……」
くッ、まずこちらからだ。
「家族からは柚って呼ばれるから柚なの」
「へぇ、本当は柚月さんかぁ。 でも俺は柚さんかなぁ」
どっちでもいいしそんなことは!!
「柚月〜ごめんね部活あってさぁ、なかなか誘えなくて。 でも明日から全然大丈夫だよ!」
「この子あの時のバスケ部のめちゃくちゃ可愛い子…… 柚さんの友達だったんだ」
すると沙良はキョロキョロと辺りを見回す。 な、なんだ?
「柚月だけ? 今日はエリカとメ……」
「あーー!」
「うえッ!? な、何柚月?」
「か、髪切ったんだけど…… どうかなぁ?」
「え? ああ、私もそれ思った。 長い髪の時も良かったけどそっちも良いね! 似合ってる」
「柚さん長い髪の時あったんだ。 見てみたかったなぁ」
こ、こいつは余計なことを。
「ん? ずっと髪長かった」
「ちょ、ちょっとこっち来て!!」
「へ? 俺?」
実の手を引き沙良達と離れる。 ユウヤは他校の生徒だし何も知らないし放置して大丈夫だろう、現にユウヤだけになると沙良はムスッとして話し掛けなくなっていた。
ふう、我ながらナイス采配。
と思いきやちょっと待てよ? これって実じゃなくて沙良を引っ張ってくれば良かったのでは?? やっちまったぁーー! 極限状態でミスった。
つーかこいつなんだよ?
実は何故か2人きりになったのでモジモジして握った手を離さない。 手離せよ!! 男同士だぞ!?
「あ、あの柚さん」
「…… あ、ああ」
俺こいつ連れて来て何しようとしてたんだっけ? 何か…… 何かないとこいつは変な気起こすかもしれないし。
「ええと、間違っちゃった」
「え?」
「沙良にちょっと頼みたいことあったんだけど」
ポカンと口を開けてどこをどうして間違う? みたいな感じで見られる。 本当に間違ったんだよちくしょー!
「さ、沙良ぁー!」
沙良に駆け寄り今度は沙良だけ引き離した。
「なんでいきなり置いてけぼりにするの!」
「ごめん」
あちゃー、怒っちゃったかな? 俺もう帰りたい……
「あ…… も、もしかして今の子柚月の気になってる人だったり?」
「はぁ!?」
んなわけあるかよ! 何が悲しくて実を好きにならなくちゃいけないんだよ!!
「だってあの子柚月を見る目違うもん、それに柚月も自分の家族には柚って呼ばれてるって言ってたしそう呼ばせてるし」
あわわわわッ、思考がオーバーロードしそうだ。 確かにそうは言ったけど…… 実が彼氏とか絶対無理だ! 真相を知ったら実も地獄に落とされることだろう。
「や、ええと、なんで言えばいいのかなぁ。 あ! 私結構美人!」
「いきなり何? そうだけど」
「なんか一目惚れされたみたいで何故か今日偶然ここでバッタリ会っちゃったの。 それで悪い人じゃないんだけどちょっとしつこくて困ってたの」
「ううん……」
少し考え込む沙良。 俺の言い分で何かおかしなところを探しているのだろうか? おかしなところばかりだけど。
「あの人のことは柚月的にはそんなに好きじゃない?」
「もう全然!」
そう言うと沙良は「はぁ〜」と深い溜息を吐いた。
「ああ、私性格悪いかも」
「え?」
「柚月が誰かと付き合ったりするのは柚月の意志もあるけど良いことのはずなのに。 私柚月が彼氏出来ちゃったら柚月はそっちに夢中になって私なんか放置されちゃうと思っちゃった」
そ、そんなこと? いやいや、ないない! 第一俺は彼氏なんか欲しくないし。
「沙良ったら」
「??」
なので俺は沙良の髪を優しく撫でて言った。
「そんなことあるはずないじゃん? 沙良と同じだよ」
「同じ?」
「前に言ってたじゃん、まだそういうのはいいかなって。 私も別に彼氏が欲しいとか思ってないから。 沙良と遊んでる方が楽しいよ?」
そう言うと沙良は一瞬ぷくっとほっぺを膨らませて怒ったような表情をしたがギューッと俺を抱きしめた。
「なんか勘違いしちゃった、恥ずかしい」
「知ってる」
「ん? 柚月少し胸大きくなった?」
「え!? せ、成長期なのかな?」
一応ブラジャーしてスポンジ入れてますから。 もしや汗を吸って…… って今はそんなことどうでもいい、沙良はこれで大丈夫か?
「あ、私バッグあっちに置いてたし戻らなきゃ。 沙良も今日は部活帰りでしょ、みんなのところに戻ったら?」
「うーん。 うん、とりあえず柚月と一緒のとこでいいかな」
なんでそうなる!?
「あ、いいよ別に。 沙良もなんでこっちばっかり行ってるのって思われるし」
「大丈夫だよ、仲良しなのって言っとくから」
ここまで言われて来て欲しくないとアピールするとそれはそれで怪しまれそうだ。 けど男が苦手な沙良が実とユウヤのところに行って何か話すことあるのか?
俺と沙良が2人の元に戻ると沙良は俺の隣の椅子に座った。
「柚さん終わった?」
「終わった?」
このバカ!! 終わったなんて言ったら何を終わったのか気になるだろーが!!
「さ、沙良は今日で部活ひと段落なんだね!?」
「うん、私ら一年だしね! 明日から解放されると思うとやっと柚月と遊べるなぁって」
「柚さんと…… 沙良さんは仲良いんだね」
「あ、うん」
実が口を出すとなんか物凄くそっけない返事を沙良は返す。 俺が前に薬局であった時とえらい違いだ、まぁそれは俺が女装してた柚月にそっくりだったっていうこともあったからだが。
このそっけなさだったら余計なことを聞かずに終わるかもしれない、一筋の光が見えた。
「柚さんと同い年だもんね、そういえば柚さんって高校どこ行ってるの?」
お前はどこまで俺のヘイトを溜めたいんだ? どっかにこいつを縛り付けてデンプシーロールしてぇ……
「都宮高……」
「え?」
俺は沙良に城内高だと言っていたのに違う高校を言ったので沙良は何か言おうとしたが目の前の実を見て黙った。
一筋の光がこいつの余計な一言で消されてしまった。




