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女装恋愛  作者: 薔薇の花
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いやー、まったく今日はなんて平和で心穏やかなんだろう。 ベッドの上でメイク動画を観ながらゴロゴロする、なんて幸せなんだ。



ポコンと携帯が鳴った。 なんだよ実か、『暇してんなら遊ぼうぜ』なんてきてた。 俺は今忙しいんだ、そんなノリで断った。



それにしても今思えばこうしていざ実践しようと思い立って初めて外に出た時が一番平和だった、なので今日はまったりと過ごそう。 明日から学校だし未だにエリカとメグミと会ってしまうと最近のドタバタが脳裏に浮かんで心が騒ついてしまう。



そう、一旦俺は全部を忘れたリフレッシュする必要がある。 じゃないと自分がついた嘘のせいで意味もなく叫んでしまいそうだ。



こんな時は中古ゲームでも買いに行こう、近所に店あるしそこなら沙良ともばったり会うこともないし。 でも会いたいなぁ…… いけないいけない、会ったらどうするんだ?



なんかもう俺彼女出来てる話になっちまったし即別れたなんて言ったら俺の人格が問われちゃうし。 



あれ? 心穏やかなはずだったのにだんだん動悸が早くなってきたぞ、これは考えすぎているせいだ。 てか何しようとしてたんだっけ? あ、出掛けるんだった。



鏡の前に座った、もういちいち確認しないとって癖が染み付いた。 



すっぴんでいいかな? いやいやすっぴんとか恥ずかしくて無理、学校の時は仕方ないけど。



下地とファンデだけ塗るつもりだったのが何故かアイシャドウまでしてカツラまで被っていた。 



結局これかよ…… まぁいっか、ホントに近くだし。 準備も出来たので部屋から出て玄関の前に行くと母さんがリビングから出てきた。



「柚月あんたまたそんな格好で!! たまには男らしくビシッとしたらどうなの!?」

「あー、うっさいうっさい」

「そんなカツラまで被って。 短い髪の方がかっこいいのに」



かっこいいとか目指してませんから。 言われても嬉しくないし(と思っているが実際言われたら言われたで満更でもない)どっちかっていうと可愛いしか興味ありません。



母さんの小言がうるさくて急いで外に出た。 



暑い…… バカじゃねぇのこの暑さ、死人が出るぞ? 



いつにも増して今日は暑かったので流石にカツラは取った。 まぁまぁ長いしちょちょいと纏めればそれっぽく見えるだろと汗で少し湿った髪で逆に整えやすかったという……



というより化粧ポーチ忘れちゃったじゃん、母さんがうるさいし戻るのも面倒だし日陰に入りながらこのまま行っちゃおうと汗っかきなくせに普段ならやらないことをしてしまった。



あー、制汗スプレー振ってるのに全然効いてる気がしない。 鏡を取り出してこまめにチェックしながら歩く、夏はホントに不便だ。



そしてようやく店に着いた。 店内に入ると少し涼しい、出来れば凍えるくらいエアコン効かせてくれ。



俺はゲームコーナーに行き探していた。 お目当てのゲームがあったので手を伸ばしたら伸ばした先で指先が誰かに触れた。



「あッ!」

「ああ、すいません…… あ!!」

「え?」



大きなリアクションだなと思って適当に謝った相手を見て俺も驚愕する。 なんとその相手は実だったからだ。



「な…… なんで?」

「あ、いや…… 友達の家に遊びに行こうと思ってついでに何かゲーム買ってって遊ぼうと思って」

「は?」



なんだこのキモい対応は? と思っていたが実の見たくもないモジモジとしたいつもと違う見苦しい仕草を見てハッとした。



まさかこいつ俺が柚月だってことに気付いてない? 女子から前に化粧された俺を見てるだろと思ったけど今は出来るだけ俺とバレたくないのでケバい感じにしてる。 けど毎日会ってるから気付きそうなものを…… 気付かれたら俺はこれからずっとネタにされるであろうことは確実なので絶対バレたくないが。



うわぁ…… つーか俺断ったはずなのにと後ろを向いて携帯を取り出すと実からLINEがきていた。 それは出先で母さんの小言を聞いている時だったので気付かなかった。 くそー!!



「ゲ、ゲームとかやるんですか?」

「え!? あ、や…… どうぞ」



俺は実と俺が取ろうとしたゲームを取り実に渡した。



「い、いや! そっちが先だったのでどうぞ」

「いえいえ……」



なんだよこの譲り合い、俺がこんな格好じゃなかったらそっこーでブン取るくせに。



「私あんまりこのゲーム詳しくないからちゃんと出来る人に買ってもらった方がいいんで」

「だったら俺が教えます!」

「は?」

「あッ…… いや、なんていうか」

「わ、私はいいから。 それじゃ」



俺は逃げるように立ち去ろうとしたら「待ってて下さい」と言われてゲームを持った実がどこかへ行った。 仕方なくその場に少しいると袋を片手に持った実がこちらへ戻ってきた。



ま、まさか……



「これ! 面白いんで差し上げます」



どうでもいいけどその敬語やめてくれ、調子狂う。



「いいって言ったのに」



俺は財布を取り出そうとすると実が俺の手の上に手を乗せた。 は??



「あ! お金とかは気にしないで下さい」

「……」

「え…… あッ!」



思わず何触ってんだ? って目を実に向けてしまって実がそれに気付いて慌てて離す。 



言っとくけど俺柚月だからな? お前がよく後ろからラリアットかます柚月だぞ? 



「ここ…… ここじゃなんだし外に出ましょうか!?」

「外に? え??」



おい、どこ連れてく気だよ? マジでキモいぞお前。 あ、客観的に見れば俺もかもしれない。



「ごめん外暑いから。 それより私そろそろ帰ろうかなって」

「あの! 俺実って言います!」



こいつが店内なのに声が大きいから近くにいる客の注目を浴びる。 周り見えてないのかよ実、急に名乗り出してどうした?



「そ、そう、実君……」



ごめんな実、今の俺はお前とどうしても関わり合いになりたくない。 たとえ見知った顔でもバラしたくないことはあるんだ。



「で、出来ればお名前を……」



どうしよう、名乗れば帰ってもいいような気もするけど柚月なんて言えないし。 



「柚です」

「柚さんっていうんですね」



最近偽名を使う機会がありすぎる。 ほぼ俺の名前入ってるけど意外と気付かれにくいかもしれない、こいつには。



「それじゃもう行くね、ゲームありがと」



俺は小走りでその場から逃げるように去った。 そしてLINEで今家にいないから遊べないと実に送るとしばらく既読にならずに『別にいいや』と返ってきた。




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