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対決町内会・壱

 神谷監督が収集させる。

 グラウンドを縦上に立ち、敵チームと鉢合わせる。老若男女、服装様々なチームだ。「お願いします」という言葉で試合に火蓋が切って落とされた。試合開始。テイクオフ。


 一回表。町内会の攻撃。


 投手は僕だ。狙うは勝呂のような圧倒的な強球。速水はフォークのサインを出した。彼の期待に応えるよう、キレのあるフォークでストライク。

 バッターボックスに立つおじいさんは孤食のハイエナのようなオーラを繰り出している。しかし、僕はそのオーラに気圧されず、ストレートを決めた。残り一つでワンアウト。

 サインはストレート。一球も手を抜けない。これを憧れの人が見てるのだから。

 手首に力を入れる。全身から溢れ出るパワーを全てボールに込める。速さよりもパワー。


 ストライク。バッターアウト。


 一人目は空振りボックスから離れた。

 続く二人目は……


「さて、二代目"杉の利休"行ってきますよ」

 その言葉に対して、町内会チームのたまり場から「よっ、頑張れよ」などの野次が飛んでいく。

 敵は親父。

 手の内は痛い程知っている。もちろん、癖も行動も大抵は分かる。



 杉の利休────


 単に木製バットを使うだけの称号ではない。

 木製バットに加えて、使用者の圧倒的な技術力が加わることによってそれは完成する。代々受け継がれた打者手法。





 夜の匂いは深く気持ち良い。

 背の丈は石垣に遥かに勝てない。まだ小学生の頃だった。家の裏で親父から野球を教えて貰っていた。

「いいか。バッターてのはな、ただ遠くに打てばいいもんじゃないんだ。狙った場所に返すことができることが大切なんだ。特に、父さんのような剛腕じゃない奴にとってはな」

 親父はバットを自分の手足のように扱った。

 木製バットは金属バットよりも軽い。扱うにはより良い軽さだ。子どもの頃から触れて、独特な手法を学ぶことで、さらに木製バットが体に染み込む。もはや手足の一部のようなイメージが出来上がる。

「ボールの軌道をよく見ろよ。そこにどう当てるかでまた返す位置や飛距離が変わる。肩に力を入れる具合を変えることで飛距離はさらに変わる。難しいが、これを高校までには身につけないとな」

 中学の頃、何度も何度も実践を積んできた。

「目指せ最強のショートに。そして、敵のショートは……嘲笑え」

 上手く返球をコントロールすることで、ショートの裏をかき、取られるのを回避する。そして、一塁というセーフゾーンで敵のショートを嘲笑うように見下す。





 杉の利休。その称号は伊達じゃない。

 振り投げたストレートは彼の意のままに左側前方へと弧を描き落ちていく。

(一瞬、右に来ると思ったっす)

 ショートの彼は高度な読み合いの前に屈し、嘲笑われるようにボールの落ちる場所には届かない。力を入れた左足。左側に重心が傾く。右側へと進むには一旦、その重心を元に戻す必要があるが、それをしているとボールには間に合わない。

「くそっ、やられたっす」

「大丈夫ですよ。先輩。ここに来ることは分かっていたので」

 代わりに、僕がボールを取る。

 こうなることは知っている。打たれることも。ショートに罠をしかけることも。それも含めて想像範囲の中にある。


 これで、ツーアウト。


 そして、三人目も速水のリードのもとに、アウトをもぎ取った。これでスリーアウト。今度は攻撃する番だ。



 一回裏。日向高校の攻撃。


 一番目。ファースト。多々良(たたら)颯斗(はやと)


 彼は左利きだろうか、右側に立っている。

 そして、バットを構えた。


 しかし、それは一般的な構え方とは全く違った特殊な構えだった。鉞を振るうかのように、バットを真上に掲げて敵の送球を待つ。その異様さに思わず目を見張ってしまった。

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